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「明日って、明日って…。何も用意してないのに、出来る訳ないじゃないですか!」

「あれ?準備、一緒にしたじゃないか。」

「一緒に?って?」

「ほら、披露宴で出される婚礼料理も香織が選んだし、会場のこのホテルも香織が選んだんだよ?それにドレスだって一緒に選んだじゃないか。」

「えっ?ドレスは試着でしょ?」

「そう。試着だよ、結婚式用のね。」

「えっ…。」

「丁度クリスマスイブの日が土曜日だったから、急いで予約して準備したんだよ。ナイトウエディングだから、ライトアップがキレイだよ。」


 ニコニコ笑っている。


「だって、出席者とかは…。」

「それも大丈夫。会社関係はだいたい俺と一緒だし、あとは高田さんが協力してくれたよ。学生時代の友人はお義母さんが教えてくれたし。」

「……。」


 はい、もう絶句です。いつの間に!だから、最近ずっと崇史さんの様子がおかしくて忙しそうにしてたんだ。だって2ヶ月弱だもん。そんな私を面白そうに見て、


「ほら、香織。部屋に行こう。明日の為にゆっくり休んでおかないと。」


 私は崇史さんの促すまま、ホテルの部屋まで連れて行かれた。今までの経験から、崇史さんに逆らったところでどうにもならない事は良くわかっているから、もう何も言うまい。






 翌日。式は夕方からだというのに、朝早くから起こされた。なんでも、午前中にリハーサルをしておかないといけないらしい。早い時間じゃないと、お昼前からの式の人が使用するからって。

 ホテル内の教会に案内された。リハーサルといっても本当に簡単な確認事項だけ。ここから入って、まっすぐ崇史さんの待つところまで歩いたら、崇史さんと腕を組んで祭壇の前まで行く。で、聖歌の後、宣誓と婚姻届へのサイン。それから指輪の交換とキス。あとは、退場。説明を聞いて歩いて終わり。それから、退場後にブーケトスと、ガータートスがあるらしい。式は18時から、披露宴は19時からの予定。


「そういえば、教会に入場する時って私一人で入場するの?」

「ああ。大丈夫。父さんが『やりたい』って張り切ってたから。」

「お義父さんがしてくれるんですね。良かった。さすがに一人は寂しいなって思ってたんで。」

「ふふっ。香織を一人で入場させるわけないでしょ。父さんが言い出す前は、最初から俺と入場する予定だったんだよ。」

「そうだったんですね~。」


 そんな私を優しく抱き寄せてくれる。


「それより、香織。ちょっと早めにお昼を食べてしまおう。午後一でエステの予約があるんだよ。」

「エステですか?直前に一回だけなんて、大丈夫なんですか?別にしなくても変わらないような…。」

「何言ってるんだよ。香織は普段からキレイだけど、さらにキレイになれるんだよ?ぜひ、してもらわないと!」

「はぁ。」


 なんか崇史さんの方がテンション高いですね。私はまだ、実感湧きませんよ…。何せ、昨日の今日ですからね~。

 その後、ホテル内のレストランで昼食を取った。エステの時間がもうすぐ、と言うところで崇史さんのご家族がホテルに到着した。お義父さんに式の入場のエスコートしてくれるお礼を言うと『やってみたかったんだよ。こちらこそ、ありがとう。』と逆にお礼を言われてしまった。それからお義兄さんとお義姉さんには初めてお会いしたんだけど、崇史さんに時間がないって急かされて簡単な挨拶しかできなかった。それでも、私たちを祝福してくれてるのはわかって嬉しかった。


 エステに行くと、全身マッサージからフェイシャル、ネイルとツルピカにされました。けど、疲れた…。終わって時間を見るともう15時。そのまま続けてヘアメイクをしてドレスに着替えてしまうらしい。


 完成した自分を鏡越しに見て、ピックリいたしましたよ。やっぱり、付け焼き刃と思っていてもエステはした方がいいんですね!実感!ちょっと感動していると、私たちの式・披露宴の担当者だと言う人が迎えにきた。こんな段階で、「はじめまして。よろしくお願いします。」は、さすがにおかしいですよね…。ちょっと苦笑してしまった。

 その担当者に案内されて控え室に入る。広い、真っ白な部屋。イスを勧められて座った直後、ショートフロックコートに着替えた崇史さんが入ってきた。

 うわっ!カッコいい。試着の時も思ったけど、今日は髪型もバッチリ決まっててさらに3倍増しくらい。2人して無言で見つめ合ってしまう。ハッと我に帰ったのは私の方が早かった。


「崇史さん、カッコいいです。よく似合ってますよ。」


 そう私が微笑むと、崇史さんも甘い微笑みを返してくれた。


「香織もすごく綺麗だよ…。」


 私の側まで来るとさらに言った。


「もう式なんて止めて、誰にも見せたくないくらい。」


 そう言うと私の手を取って、甲に口づける。そして2人して見つめ合い微笑んだ。


「そうだ。香織のお母さんも到着してるよ。さっき、簡単にだけど俺の家族と顔合わせもしたよ。すぐに仲良くなったみたいで、母さんと楽しそうに何か話してたよ。」

「ありがとうございます。気があったんなら良かったです。」

「もうすぐ、みんな来ると思うよ。」


 そこに担当者がノックをしてみんなを案内してきた。

 みんなに『綺麗なお嫁さん』って言われて嬉しいけど、すごく照れてしまった。そんな私の様子をお母さんは部屋の角で微笑みながら見ている。


「新婦さま。食べられるなら、今のうちに軽食を召し上がっておいてくださいね。式が始まると殆ど食事できませんから。」

「あ、はい。」


 それを聞いた崇史さんはいそいそとサンドウィッチをジュースを持ってきてくれる。ジュースにはきちんとストローまで刺してくれた。


「あら~、相変わらず仲がいいのね~。崇史がそこまで気がつくなんて。」


 お義母さんが楽しそうに言った。


「当たり前。香織の世話は俺がするんだから。」

「…逆だと思います。」


 ボソッと私が呟くと、お義兄さんには聞こえたみたいで大笑いされてしまった。


「そろそろお時間です。みなさまお席の方へお願いいたします。」


 その声に時間を見ると17時50分になっていた。私は真っ白なレースのベールを被せられる。


「新郎さまはこちらへ。新婦さまとお義父様はこちらの扉前へお願いします。」


 案内通りに進む。


 教会入り口の前でお義父さんと並んで待っていると、


「香織さん。崇史の気持ちを受け入れてくれてありがとう。」

「え?あの…。」

「ふっ。あの子は、あの通り見た目で女性たちが寄ってきてはいたんですが、相手の女性を本当に好きだったのかはわからなかったんです。むしろ、女性を警戒しているような雰囲気さえあった。あの子の態度を見ている限りでは、彼女たちのことはなんとも思ってないような態度でした。おそらく仕事中と同じ態度だったでしょう。私は崇史の彼女たちに会ったことはありませんけど、帰省中に電話で話している様子でなんとなくわかりました。一言で言えば、彼女たちにとって崇史は冷たい男だったでしょう。でも、香織さん。貴女に対しては全く態度が違う。今まで、こんな崇史は見た事がありませんでした。あの子にも女性に優しくしたい、この人が愛しいっていう感情が現れたことが嬉しかったんです。おそらく、崇史にとっては貴女が初恋と言ってもいいでしょう。だから、その想いが実って本当に良かった。崇史は貴女に会えて幸せですね。ありがとう。」

「いえ、私はなにもしていません。崇史さんはもともと優しい人なんだと思いますよ。」

「そうですか。香織さんはそう思ってくれているんですね。…崇史をよろしくお願いします。」

「はい。私では手に負えないかもしれませんが、頑張ります。」


 お義父さんは優しく私を見て微笑んでくれた。


「間もなくご入場です。」


 その声で、私はお義父さんの腕に手を回した。


「なんだか、照れますね。」


 お義父さんはそう言うと開かれた扉の中へ私をエスコートしてくれた。




 結婚行進曲が鳴り響く中、バージンロードをお義父さんとゆっくり歩いていく。目の前では崇史さんが眩しそうに私を見ている。

 崇史さんの隣まで辿り着くと、崇史さんはにっこり笑って私に腕を差し出してくれた。2人一緒に神父さまの前へ進む。

 祭壇の前に到着すると同時に生のパイプオルガンの音楽が響き渡る。全員で聖歌を斉唱する。


「汝、時田崇史は、この女、香織を妻とし、良き時も悪き時も、富める時も苦しい時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分つまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに誓いますか?」

「誓います。」


 神父の言葉に崇史さんが力強く誓う。私も同様に問われて答える。


「はい。誓います。」

「ここに神聖なる婚姻の契約が成立したことを宣言いたします。神が、今私たちの前でかわされた誓約を固めてくださり、祝福で満たしてくださいますように。」


「こちらの婚姻届にサインを。」


 順にサインをする。字が震えてしまっている。私たちがサインをし終えると崇史さんのお父さん、次に私のお母さんが証人欄にサインをしてくれた。


「指輪の交換を。」


 崇史さんの前に真っ白なサテンのリングピローに載った指輪が差し出された。それを手に取ると私の左手、昨日嵌めてもらった婚約指輪の上に重ねて嵌めてくれる。続いて私にもリングピローが差し出された。私はまだ手が震えてしまっていて、うまくリングが嵌められない。「大丈夫。落ちついて。」崇史さんの小さな声で、少し落ち着いてなんとか嵌めることができた。


「誓いの口づけを。」


 その言葉に崇史さんがベールをそっと持ち上げた。私はそれに合わせるように膝を折る。

 崇史さんの唇が優しく額に当たった。


「ご列席の皆さま、お二人の上に神の祝福を願い、結婚の絆によって結ばれたお二人を神が慈しみ深く守り助けてくださるよう祈りましょう。」


 続けて祝福の言葉が述べられた。最後に全員で声を合わせる。


「「アーメン。」」


 そしてもう一度聖歌の斉唱後、みんなにお祝いの言葉をもらいながら、ライスシャワーで退場した。

 はぁ~、緊張した!疲れた~。


「香織。大丈夫か?」

「はい。緊張しました~。」

「ふふっ。もう本当に可愛いんだから。」


 そう言って抱きしめられた。崇史さんの匂いがしてやっと安心できて身体から力が抜ける。


「新郎新婦さま。このあとブーケトスとガータートスがありますので、お庭の方へご移動をお願いいたします。」

「はい。」





 お庭に参列者が集まってくれていた。司会者の進行でブーケトスをする。壮絶な争いの結果、智美がGetした。恐いよ!そしてガータートス。私はイスに座らされた後、やっと気づいた。どうしよう!なぜなら、ガータートスをする場合は普通、足首に嵌める。でも、今私に嵌められているガーターは本当のガーターをする位置。つまり、太ももに嵌められている。確か、ガータートスのガーターって口で外すんだよね!?ヤバい!青ざめてきた私を置いて、どんどん進行されていく。


「それでは、新郎、崇史さん、お願いします。」


 その言葉を合図に崇史さんが私の足下に膝まづく。その様子をみんなが楽しそうに、面白そうに注目している。普段、無表情の時田課長がどんな顔でガーターを外すのか興味津々。いよいよマズい!!


「あの、崇史さん。ホントにするんですか?」

「もちろん。」

「あの、ガーターを足首まで下ろすんでちょっと待ってもらえませんか?」

「必要ない。香織、観念してね?」


 ニッコリ。私には今までで一番悪い笑みに見えます~!

 そんな崇史さんの笑顔を見た参列者のみなさんは、レア物!とばかりに写真を撮っている。マジでやるんですか?ちょっと引きつった笑みを浮かべる私。なんだか、冷や汗が…。


 崇史さんは私を見ながら、ゆっくりとドレスの裾に手をかけた。そして足首を持ち上げて足に顔を埋めてくる。みんなはガーターを食わえて、ドレスからすぐに顔を出すと思っていただろう。それなのに、崇史さんはどんどんドレスのスカートの中に入ってくる。ふんわりスカートじゃないから、スカートの上からでも頭がポコッと出てるのが遠目に見てもすぐにわかってしまう。女性の参列者から「キャーー!!」という悲鳴が上がる。私は真っ赤になって、俯いて目を瞑ってしまった。崇史さんは私のスカートの中でガーターを外すついでとばかりに、太ももにキスをしてペロッと舐めていく。思わず、ビクッとしてしまうと崇史さんからクスッと笑い声が聞こえた。こいつ~!!

 崇史さんは、やっとガーターを食わえてドレスのスカートから出てくると、何食わぬ顔でトスをしてニヤリと笑って見せた。


 おのれ、企んでたな!!!


次回で完結(予定)です。まだ書けてないけど…。


もう少し、お付き合いいただければとっても嬉しいです!

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