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「どうして言ってくれないんですか!いきなり連れて来られても困りますよ!」

「だって言ったら香織、逃げるだろ?」


 笑って言われても…、ハイその通りです。


「とりあえず、俺の親に会ってよ。香織を紹介したいんだ。」

「でもお土産もないし、こんな格好だし…。」

「大丈夫。香織はどんな格好だって可愛いから。」

「いえ、そういう問題じゃありません。」

「もう着いちゃったんだから、いいじゃない。ね?」


 私の顔を覗き込んで、少し首を傾げながら言う。そんな可愛くしたってダメですよ!って言ってても始まらないので、私は腹をくくる?いや、決める、だ。腹を決める事にした。


「…わかりました。お会いします。崇史さん、ちゃんと側にいてくださいね。」

「わかってるよ。可愛い、香織。」


 車の中で崇史さんが身を乗り出して私を抱きしめる。

 その時、私の後ろで玄関の扉の開く音がした。


「あらあら、ま~。エンジンの音が止まったのに一行にチャイムが鳴らないと思ったら~。仲が良いのね~。」

「母さん。」


 崇史さんが私を抱きしめたまま、顔を上げて私の背後の声をした方を見た。


「えっ!お母さん?」


 思わず声を上げてしまった。


「はいはい。お母さんですよ。崇史、とりあえず離してあげなさいよ。早く入りなさい。」

「わかった。」


 やっと離してもらえて振り返ると優しそうな年配の女性がこちらを見ながら微笑んでいた。私は頬が熱くなるのを自覚しながら、頭を下げた。


「香織。入ろう。」


 崇史さんは車から降りるとすぐに助手席に回ってドアを開けてくれた。その様子を見た崇史さんのお母さんは「あらあら。」と楽しそうに笑っていた。

 恥ずかしいです!




 車から降りると、私はすぐさま崇史さんのお母さんにご挨拶をした。


「あのっ、はじめまして!水原香織と申します。よろしくお願いします!」


 勢いよく頭を下げる。そんな私に微笑みながら声をかけてくれる。


「はじめまして。崇史の母です。どうぞ、上がってちょうだい。」

「はいっ。失礼します!」


 崇史さんが隣に立って促してくれる。


「香織。そんなに緊張しなくてもいいよ。」

「だって…。崇史さんが前もって教えてくれてれば良かったのに〜。」

「教えたらもっと緊張するだろ?」

「そうかもしれないけど。急に言われても…。」


 そんなやり取りを小声でしているとリビングに着いていた。そこにはもう一人。年配の男性がソファーに座っていた。


「父さんだよ。」

「あ、はじめまして。水原香織です。よろしくお願いします。」

「うん、よろしく。さぁ、疲れただろう?座って。」


 そう言って崇史さんのお父さんが座っている前のソファーを示してくれた。優しそうな人で良かった。


「はい。ありがとうございます。」


 私たちが座るとタイミングよくお母さんがコーヒーを出してくれて、そのままソファーに座った。


「ふふっ。可愛いお嬢さんね。崇史、イイ子を見つけたわね。」

「そうだろ?やっと手に入れたんだ。」


 うわっ。お母さんにまでこんな事言うなんて!私は恥ずかしさのあまり、真っ赤になって下を向いたまま顔が上げられない。


「崇史。香織さんが困ってるだろう。嬉しいのはわかるが、ほどほどにしなさい。」


 お父さん、その通りです!ほどほどに!崇史さんはそんな私の様子を見て。


「そうだね。香織は恥ずかしがりやだからね。」

「香織さん。よく来てくれたわ。私たち、楽しみにしてたのよ。ウチは2人とも男の子だから、女の子が来てくれて嬉しいわ。」

「は…、ありがとうございます。」


 お母さんはクスクス笑っている。お父さんもニコニコ。なんだか少しずつ緊張も薄れてきたかも。


「香織。俺の部屋を見せてあげるよ。2階に行こう。」

「はい。」

「え〜、崇史、部屋に行っちゃうの?お母さん、もっと香織さんとお話したいのに〜。」

「すぐに降りてくるよ。香織、おいで。」


 そのまま2階の崇史さんの部屋へ連れて行かれる。部屋へ入った途端、後ろから抱きしめられた。


「大丈夫?」

「あんまり大丈夫じゃないかも。でも、優しそうな人たちで良かった。」

「うん。ウチの話、あんまりしてなかったからちゃんと話しておこうと思って。」



 時田家は4人家族。崇史さんにはお兄さんがいるんだって。お兄さんは2年前に結婚したらしい。今は海外勤務でカナダにいるから滅多に会わないって。なんでも外資系のコンサル会社に勤めてて、国際コンサルティング部門のマネージャーをしているらしい。私にはよくわからないけどね。で、崇史さんは広告代理店の課長をしてるんだけど、実は株取引やFXもしているらしい。だからあんな広い部屋に住めるんだね。ホントはそっちの方が儲かるらしいけど。


「じゃ、なんでまだ勤めてるんですか?」

「そんなの当たり前だろ?香織に毎日会えるからだよ。」


 なんておっしゃいますよ。はぁ、左様ですか…。

 お父さんは普通のサラリーマン。って言ったけど、常務だって!それもサラリーマンっていうのか?間違いじゃないのか…。


「なんか、すごいおウチですね…。」

「ウチは清水次郎長の家系だからね。」

「えっ!?本当なんですか?」

「嘘に決まってるだろ。清水に住んでるって言えば大体の人は信じるんだよね。そんな訳ないのに。」


 クスッと笑って言われました。私も一瞬信じましたよ〜。


「香織もわかったと思うけど、母さんはおっとりしててね。ちょっと天然って言うのかな。一応、お嬢様みたいだから。」

「お嬢様なんですか?」

「そう。亡くなったじいさんがこの辺りの地主でね。今ではほとんど売ってしまってるけど、母さんが結婚前はこの辺一帯はじいさんの持ち物だったらしい。でも、じいさんが亡くなった時に相続税やら管理費やらで大分嵩むからって売ったんだよ。」

「へぇ〜。なんかウチとレベルが全然違いますね…。」

「そう?香織の家も結構…だろ?本当はお義母さんだってそんなに働かなくっても良かったんだし。あのマンションだって持ち家だろ?」

「知ってるんですか?」

「当然。香織の事だからね。」

「はぁ〜。」


 そう。私のお父さんは外資の投資金融会社でチーフを勤めてたようなので、それなりに収入も貯蓄もあったらしい。


「そろそろ降りて行こうか。母さんが待ち構えてるだろうけど。」

「はい。」




「あ、香織さん!待ってたのよ〜。こっちでお話しましょ〜。」

「あ、はい。」

「崇史はいいのよ。あっちでお父さんの相手してあげてちょうだい。」

「香織、大丈夫か?」

「はい。大丈夫ですよ。」

「じゃぁ、後でな。」


 崇史さんは私の頭を撫でて隣の部屋に入って行った。


「ふふっ。本当に好きなのね〜。」

「えっと…。」

「あのね、崇史が彼女を連れてきたのは香織さんが初めてなのよ。ちょっと心配してたんだけど、良かったわ。」

「そうなんですか?でも崇史さん、すごいモテるんですよ?」

「うん。それはわかるんだけどね。親に紹介するって事はそれだけ本気だってことでしょ。ね、式の日取りは決めたの?」

「えっ。いえ、あの…。」

「あら、まだなの。情けない子ね〜。香織さんが早くウチの子になってくれればいいのに〜。」


 お母さんがちょっと唇を尖らせて言った。ホント、可愛らしい人だな〜。話の内容はともかく。

 それから好きなお菓子は何かとか、仕事中の崇史さんはどうかとか、韓流俳優は好きかとか、いろいろお話した。夕方頃、思ったより楽しんでいると崇史さんが戻ってきた。


「母さん。悪いけど、香織を返してもらえるかな。もう行かないと。」

「え〜、もう?どうせならウチに泊まればいいのに。」

「今度ね。宿を取ってあるから。」

「残念ね〜。」


 崇史さんは私を促して玄関まで行く。


「香織さん、またいつでも来てね。待ってるわ。」

「はい。ありがとうございます。」


 お父さんとお母さんに見送られながら車に乗り、出発した。


「香織、どうだった?」

「はい。楽しかったです。お母さん、おもしろい人ですね。今、韓流の俳優にハマってるらしいですよ。韓流歌手グループも気になるって言ってました。」


 私は笑いながら崇史さんに報告した。


「母さんらしいな。楽しかったんなら良かったよ。」

「はい。それで、今度はどこに行くんですか?宿を取ってあるって言ってましたけど。」

「うん。せっかくここまで来たんだからね。温泉旅館を取ったんだよ。」

「温泉!楽しみです!」

「ふふっ。部屋にも内風呂が付いてるから一緒に入ろうな。」

「えっ…。」





 崇史さんの家からしばらく東に走る。車の外に時々富士山が見え隠れしてくる。車はそのまま、少し山間のゴルフ場近くの宿の前で止まった。

 車から荷物を取り出していると、宿の人が出て来て荷物を持って案内してくれた。

 部屋に入ると広い和室が二間続きになっていて、その向こうに広縁も見える。その向こうには富士山。


「すご〜い。窓から富士山が見える!」

「ああ。ここはどの部屋からも富士山が見えるみたいだよ。」

「へぇ〜、そうなんですね〜!キレイ〜。」

「気に入った?」

「ハイッ!」

「それは良かった。ここは料理もおいしいからね。晩ご飯、楽しみにしてて。」

「じゃ、それまで温泉に行ってきてもいいですか?ここ露天風呂からも富士山が見えるって。」


 私は宿の案内パンフを見ながら言った。


「そうだね。俺も行こう。」


 2人して露天風呂と富士山を楽しんだ。浴衣に着替えて約束したロビーに行くと、崇史さんはもう出ていて私を待っていた。

 一瞬、見とれてしまう。キレイ…。お風呂上がりで上気した少し気怠げな感じが色っぽい。いや、これは色気ダダ漏れだね…。なんか、すごい周りから見られてるよ〜。なんとなく近づきたくないかも…。ちょっと腰が引けていたら、見つかりましたとさ。


「香織。」


 崇史さんがゆっくりと優しい微笑みで近づいてきた。そのまま私の頬に手を延ばす。


「香織の浴衣姿。色っぽいな。誰にも見せたくなくなる。」

「…崇史さんこそ。」

「早く部屋に戻ろう。もうすぐ料理が運ばれてくる時間だよ。」

「はい。」


 素直に頷いて後に続く。だって、なんだか周りにすごい見られてるんだもん。絶対、崇史さんのせいだ!

 

 部屋に戻るとすぐに料理が運ばれてきた。すごい豪華!新鮮な魚がメインかな。小さな鍋も付いてる。

 食事をしながら何気なくテレビを付けてみる。やっぱりちょっと違うな〜と思って見ていると。


「崇史さん、なんか変わったCMが多いですね。」

「ああ、静岡限定のCMがあるからね。」

「へぇ〜。この有名なハウスメーカーのCMも静岡限定なんですか?」

「そうだね。」

「ふぅ〜ん。ね、ラーメンってホントにドイツ語なんですか?」

「さぁ。ホントなんじゃないのか?香織、箸止まってるよ。」

「ふぅ〜ん。なんかついつい見ちゃいますね。CMソングもおもしろいし。」

「そうだな。確かに変わったのが多いかも。俺は特に思わなかったけど。」



 食べ終わった頃に仲居さんがお膳を下げに来てくれて、その時一緒にお布団を敷いて行ってくれた。…随分ぴったり引っ付けて敷いてくれましたね〜。崇史さんは座椅子に座ったまま後ろから私を抱きしめてテレビを見ながら時々話しをしてくれる。私はお腹いっぱいでちょっとボーッとしてたけど。そうして過ごしていると、崇史さんの手が不埒な動きをしはじめた。同時に私の首筋をペロッと舐めてくる。

 はぁ〜、なんかもう予想通りの展開ですね。もう諦めました。





 翌朝。

 朝食を食べた後、部屋に付いている温泉の内風呂になぜか崇史さんと一緒に入っております。この宿はチェックアウトの時間がゆっくりなんだそうで、最後にお風呂に入ろうと言われたんですけど…。一緒に入らなくっても〜。

 崇史さんのおかげで散々疲れたのに!なんでも、浴衣姿ってすごい興奮するらしいです。知りませんよ!だからって、帯で縛るなんて…!もう恥ずかし!!



 そんなこんなでこの週末は終わった。濃いな〜。明日からまたお仕事、頑張らないと!




香織さんはあんまり気にしてないかも知れませんが、これで両親への挨拶は終わってしまいましたね。

後は…。

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