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閑話 暴露

今回は原田さんが語ってくれますよ。

やぁやぁ、こんにちわ。いや、こんばんわかな。やっとオレ、原田彰の出番がやってきたな!みんなオレのファーストネーム知らなかっただろ?今日はオレが、上司であり同僚であり友人でもある時田の話をしよう。もちろん、水原が時田を知らない頃からの話だ。

 そういや、今日は警察に寄ってから2人して出社してきたんだけど、オレは見てしまったよ。水原の項についたキスマークを。あ〜れ〜は、わざとだな。本人は鏡で見ても気づかないが、他人は気づく場所だからな。時田があんな事するなんて、面白れ〜!




 え〜、まず。オレと時田は同期の31歳。時田は課長だが、オレは係長だ。あ、ちなみにオレには可愛い嫁さんがいる!元部下だった女だ。時田と同じだな。あいつはまだ結婚できてないけどな!

 話を戻そう。時田は、ま〜所謂イケメンというよりは美人系?だな。男に美人てのもおかしいが、キレイなんだな〜。あ、オレにその気はないぞ?そうだな、わかりやすく言うと女性向け恋愛シミュレーションゲームに出てきそうな感じだ。上手い事言った、オレ!背も高いしな。確か、178cmって言ってたか。それから、今時には珍しい黒髪でサラサラストレート。スッとした涼しげな目元に、左目の下には泣きぼくろがある。いやらし〜ね〜。って女の話してるみたいだが、あいつは見た感じはわかんね〜けど結構筋肉付いてるぞ?細マッチョだな。ジムにも通ってるし。んで、童顔を結構気にしてるんだよな。仕事でナメられるって。だから仕事では前髪あげてるんだけど、あんま変わんないと思ってる事は時田には言ってない。地味に凹むだろ?

 そんなだから、昔から女にモテてな〜。ま、オレも一緒にいたから余計にだな(オレもモテるんだぞ!)。だけど、ちょ〜と凄くて、集団で群がってきたり(オレがファンクラブを作って抑えてやった)、仕事中につまんない事でいちいち何度も話しかけてきたり(オレがデスクの前で盾になってやった)で、うんざりしてたな。それからだな、時田が無表情になってあんまり話さなくなったのは。今じゃ、時田の笑顔が見れたら幸せになれる、なんてジンクスもあるくらいだ。超レアもの。そんなだから、絶対に社内の女には手を出さなかったんだよ。

 社内の女じゃなくても時田には女が寄ってきたから困らなかったってのもあるが。ま〜、あいつも男だからな。適当に女と付き合ってたよ。いつも女の方から寄ってきてたから、あいつは本気じゃなかったんだろ。でも一応、付き合ってる間は浮気なんてしてなかったし、セフレを作ったりもしてなかったな。



 

 そんな時田がついに!ついに!恋に落ちたんだよ!もしかして初恋じゃないか?くくっ、面白いだろ?あの時田が、自分から寄っていく事なんてなかった時田が、熱心にじっーと一人の女を見てるんだよ。それも、社内の女。

 水原香織。確か、入社してからずっと受付嬢をやってるな。ウチの会社はだいたい3・4年で部署移動するんだが、彼女はもう5年移動してない。どうも、取引会社や来客からの評判が良いらしくって総務が動かしたくないんだそうだ。そういや、秘書課も彼女を欲しがってたって聞いたな。多分、水原が入社して2年たったあたりだったかな、時田が彼女を気にし出したのは。その前からチラチラ見てるな、とは思ってたが。


 水原は今年27歳。時田が目をつけた時は24歳だったか。彼女も女にしては長身で、166cm。仕事ではヒールを履いてるから、170cmは超えてるな。スレンダーな美人だ。髪は染めているのか自前なのかわからないくらいの栗色で、ふわふわパーマをかけて肩下まで伸ばしている。目元はパッチリした奥二重だ。そのうえ笑顔が可愛いときた。だけど、美人を鼻にかけるような態度なんてなく、むしろ自分を卑下してるような素振りすら見える。

 ま、簡単に言えばイイ女ってことだな。そんな女を男どもが放って置くはずがない。水原に近づこうといろんな男がいろんな方法で頑張っているが、本人はわかってやってるのか本当にわかっていないのか、華麗にスルーしていく。それさえもイイだなんて、バカな男がいるんだけどな。そんな男どもが、ファンクラブを作りやがった。これは時田の時にオレが作ったみたいに、水原の友人が作ったとかではなく、正真正銘のファンクラブ。自然発生だ。

 そんな訳で、時田もなかなか近づけなかった。だからと言って、時田が水原のファンクラブに入るなんて事はしてなかったな。なんでも、入ってしまったらただのファンになってしまうとかなんとか。オレには良くわかんね〜けど。

 って言ってたくせに、どこからともなく水原の話を仕入れてくるんだよ。謎だな。例えば。

 何時に水原が総務に戻る、とか。

 来客誘導のために何階のフロアに来る、とか。

 今日のランチはどこでなにを食べた、とか。

 水原の友人は、秘書課の高田智美だ、とか。

 実は出不精で、休みの日もほとんど家にいる、とか。

 からしは食べられないが、マスタードは大丈夫だ、とか。

 水原のマンションがどこにある、とか。

 毎日、何時のどこの路線の電車で出勤する、とか。

 いついつの合コンに誘われてる、とか。

 どうでも良さそうな細かいことまで、いろいろ。オレも覚えてしまってるじゃないか。


 最近判明したんだが、時田はこの3年間、時間を見つけては水原のマンションへ行っていたらしい(!!)。行ってたと言っても、遊びに行ってた訳じゃなくてマンション近くの路上(入り口が見える場所)に車を止めて、水原が出掛るのを眺めたり、誰と戻ってくるのかを確認したりしていたらしい(オレ、ちょっと引いちゃったよ…)。そういえば、よく『クライアントと外で打ち合わせだから、そのまま直帰する』って定時で会社でてたな。その後もオレは残業してたんだけど、そのクライアント担当の営業を見かけておかしいと思ってたんだよ。


 そんな3年間、時田を生あたたか〜く見守っていたオレだが、ちょっとしたきっかけで水原が美大卒だと言う事を聞いた。確か、時田が集めてた水原情報の中にその情報はなかったと思い、さっそく時田に教えてやった。そうしたら、あいつホントに喜んで!いや〜、あんなに喜ぶなんてな〜。いつもの無表情からは想像つかないな〜。


 2ヶ月後、オレはその時の時田の喜びの意味をようやく知った。



 3月末。いきなり、水原が配属されるって聞いた時はホントにびっくりしたぞ!オレが水原美大卒話をしたのは2月。ウチの会社は2月に意向打診がある。だから、話をした時点で次年度の移動はほぼ不可能。にもかかわらず、あいつは美大卒の人材が欲しいと、それを捩じ込んできた。恐らく、水原本人も急な話でビックリしただろう。

 4月1日。時田はいつもより早く出社して、落ち着かない様子だった。いつも通りの無表情を装ってるみたいだが、上機嫌なのはみんなが気づいていた。


 しばらくして。時田が水原に怖がられてるらしい。それを聞いたオレはついつい大爆笑してしまった!時田に睨まれてもしばらく治まらなかったよ。仕方ないだろ。あれだけご執心なのに、怖がられてるって!いや、ご執心だからか!確かに怖いよな〜、ぎゃははははっ!ごほっ、げっほっ…、はぁ〜。

 そしたら、あいつ、ついに行動に出たんだよ。時田ファンの女使って噂撒いてさ。さすがにその早さには驚いてたがな。んで、まんまと水原に付き合うって了承させたんだよ、恋人(仮)だけどな!時田もいろいろ考えたみたいでさ、今真正面から付き合ってくれって言ったって、怖がられてるから断られるのがオチだ。だから取り敢えず、時田は怖くないって暗示をかけることにしたんだってさ。にしても、まだるっこしいな〜。

 時田は嬉々として水原が時田ファンに苛められたり、嫌がらせされないように裏で手を回してたよ。それと平行して水原に気のある男どもを威嚇しまくってたな。いや〜、見てるだけでも楽しいね〜!そういや、わざわざ水原の友人の高田智美にも連絡してるみたいじゃないか。もうすでに味方に引き入れてるし。


 水原は慣れない仕事で残業が続いてたけど、時田も一緒に残ってた。あいつは残業なんてしなくても時間内に仕事終わらせてたはずなのに。んで、あいつがコーヒーを飲みに席を立った時、何してんのかと思ってPC覗いてみたら…。いや〜、ちょっとぞっとしたね。水原、ご愁傷様って手を合わせたくなったよ。あいつ、スマホ用のプログラム組んでたんだよな〜。水原専用の追跡アプリ。水原がどこにいてもすぐに所在がわかる上、送受信メールも時田の所に転送されてくるスグレモノ。こっえ〜!!ここまでするか!?


 


 アプリを完成させた時田は機嫌良さそうに仕事してたけど、さすがにデスマに入った時は不機嫌だったな〜。ま、それさえも利用して水原に指導するって名目でべったり引っ付いてたけど。

 やっと家に帰れた次の日なんて2人揃って出社してきたりして、意味深だね〜。

 で、プロジェクト終了の打ち上げ。いや、素晴らしいよ水原!あんな時田が見れるなんてな!

 途中までは無表情で頑張ってたけど、途中からもう崩れてきてさ。崇史さ〜ん、だもんな!くくくっ。とどめが水原の言葉。『怖い顔してる崇史さんと一緒に帰りたくない!』だもんな。いや〜、あれは良かった!あの時田がタジタジだったし。終いには時田もみんなの前で『香織』ときた。しかも、微笑んで『どんな香織も可愛いよ。』なんて、どの口が言うよ!さすがのオレも呆気にとられてしまったじゃないか。挙句、お持ち帰りだ〜?もうデレデレだよ。



 オレ、まだちゃんと付き合い出したって聞いた憶えはなかったんだけど、お盆休みに水原の実家まで挨拶に行ったって。それにしては、休み明けからの水原の態度がおかしかったよな。明らかに時田を避けてたし。原因がわからないから時田も強く出れないでいたら、また藤本がちょっかい出してきたじゃないか。次の日、さっそく藤本を呼び出して絞めてたけどな。あれはオレでもビビった…。水原は急に話さなくなった藤本を不思議に思ってたみたいだけど。

 その数日後だな。水原が会社帰りに警察に行ったって時田から聞いたのは。あいつ、珍しくあわてて水原から事情を聞いてるだろう秘書課の高田智美に電話してたよ。で、話終わった途端、どんどん不機嫌になっていった。なんで話してくれないんだってな。それで次の日にはせっかく水原を捕まえたのに、逃げられたってどういう事だよ。時田にしては油断したな。そこで、水原専用追跡アプリが役に立ったみたいだな。水原が自分のマンションに帰っていくのがわかったから、全力で追いかけてみれば…。知らない男に迫られてる所だろう。そりゃ怒るわな。でも、そんな時なのに『俺の胸に飛び込んできた香織は可愛かった。』って。どんだけだよ。







「んで、今日に至る。」

「……。」

「な?引くだろ?」

「私、もしかして早まったんでしょうか…。」

「ま〜、今更だな。もう逃げられる訳ないだろ。諦めてくれ。」


 この度、目出たく時田の本当の恋人になった水原に、時田とはどんな男なのかを話してやった。主に、やつの筋金入りのストーカーぶりを、だが。

 若干涙目になって青ざめてきた水原の顔を見ながら、ニヤリと笑う。


「いや〜、愛されてるね〜。」

「本当に愛されるるんでしょうか…。」

「もちろん、香織だけを愛してるよ。」


 やってきた時田が後ろから水原を抱きしめた。そんな友人である時田のかなり甘めの声を聞いてしまって、ちょっ〜と気まずいじゃないか。


「んじゃ、オレはこれで。水原、色々頑張れよ!じゃな。」

「あぁ!原田さん!置いて行かないでください!私も行きます〜!」


 後ろから水原の声が聞こえたと思ったら、被せるように時田が言う。


「香織?」




 水原、ご愁傷様!時田を頼むな!




みなさん!文中に出てきた追跡アプリは作っちゃダメですよ!ヘタしたら犯罪ですからね!

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