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ある晴れた朝突然キミはサヨナラと言った

作者: 夏樹


「なんだか、胃のあたりが突き上げられてる感じ・・・アハハ」

梓の太ももを抱えながら僕も思わず苦笑する。

「感じない・・・?」

「どうだろ、やっぱり後ろからの方がね・・・」

付き合い初めて三ヶ月、僕らは毎日、そう、ほとんど毎日この梓の部屋で

やっちやってるわけだ。

誘われるまま、梓に好きだと告白されたその日に僕はこの部屋で、華奢な

このベッドで、腰を動かすたびにギシギシ軋む音を気にしながら梓を抱いた。

で、さすがに三ヶ月もすると探究心が芽生え始める。

正上位、騎上位、バックなど一通りお互いの

愛称を確かめてみると、梓は幾分甘えた声色でこう言い出した。

「松葉崩しって知ってる・・・?」

そして、こう付け加えた。

「立ち松葉ってのもあるらしいいんだけれどね、啓輔にはちょっとね、ってか、

アタシもそこまではって思うし」

眼の前の小ぶりだけれど形の良い乳房がほんの少し揺れた。

「あらあ、啓輔のあそこ小さくなっちゃった」

言うと、上目使いに僕の視線を捕らえこう付け加えた。

「したげようか元気に・・・口で・・・」

梓の優しい愛撫にもかかわらず、とうとう僕のペニスは一向に回復せず

諦めたその背中を僕はなんてきれいなんだと素直に思った。

 僕の指先は何度梓の素敵な肩甲骨と胸の谷間を行き来したことだろう。

豊かな曲線を描くその背中をくぼみに沿って何度唇を這わせただろう。


 寝息を立てはじめた梓を横目に、僕は初めて彼女の部屋をゆっくりと眺めた。

薄暗いスタンドライトに浮かんだ梓の分身。

八畳ほどのワンルームに家具といえばこの僕たちが寝ているベッドだけが唯一

家具らしい家具だったり・・・。

枕元には、テーブル代わりに置かれたペパーミントグリーンの折り畳みのイス。

その台座に小さなピンク色したラジカセ。ラジカセの上の数枚のCD。

小さな姿見、乱雑に散りばめられた化粧品が数個。

シルバーのアンクレット。

ベッドと反対側の白壁に張られたバスキアの巨大なポスター。

使われることのないキッチンには、僕らが消費した缶ビールの空き缶の山。

床に散りばめられた梓と僕の下着・・・まるで、悲しげに親を捜す迷子の子犬みたいだ。

梓の背中が小刻みに震えていることにようやく気づいた。

「啓輔にしてあげられることはこれだけなの・・・他にはなんにもない」

すすり泣く梓の肩にそっと手を置いた。

「セックス以外にあたしにはなんにもない」

反射的に梓を抱きしめ、髪を優しく愛撫する。

「ずっと、ずっと好きだったの・・・こくってふられたらって怖くて怖くて

しょうがなかったから・・・言葉ではどうでも言えるけれど、身体は嘘つけないでしょ」

僕の腕の中で泣きじゃくる梓。

身体を重ねることでしか、男の心を確かめられない君。

僕はといえばそんな梓を利用していただけなのかもしれない。

梓、僕もほんの少しだけ夢を見ていたのかもしれない。

このまま、嘘をつき続けられたらね。

僕らはいつのまにか抱きあったまま、浅い眠りに落ちる。

僕の裸の胸元には、梓、君の涙が深く深く留まったままだ。


「起きてたの・・・?」

「ああ、なんだか頭がすっきりしない」

「二日酔い・・・?」

言いながら梓が僕に覆い被さる。

「したい?」

少しだけ考えるふりをして僕は答える。

「さあ、どうだろ・・・頭がなんか重いしね」

梓が僕の視線を捕らえた。


 カーテンから差し込む眩しいほどの光りに照らされて、薄い笑みを浮かべながら

彼女は一言こう言った。

「サヨナラ・・・」


---了---


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