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作者: 天窪 雪路

その夜はとても鮮明な夢を見た。僕は空から涙の降り注ぐ森の中にいる。深い緑色をした森だ。生命力の強さばかりではなく、それからは意思を感じる。空は意思で覆われ、時々にその向こう側が覗く。僕は真っ白なローブに身を包み、ゆっくりとその森の中を歩いて行く。深い森だが、迷ってはいない。そもそも何かを求めたり、何処かを目指してはいないが、歩いて行く方向は明らかだ。果たして前進しているのかどうか、代わり映えのない景色の連続に、周りからは判断できないが、確かに僕は歩みを進めていた。そんな自覚があった。見知らぬ顔をした森の住人らしき人たちがこちらをまじまじと見つめて何かを呟いているのが分かるが、僕にはそれが気にならない。森の住人たちはそこに在るべき存在として存在するのみで、深い緑色と同様に景色の一部に過ぎない。右手に握りしめていた地図には宝物か何かの隠し場所のみが印され、現在地はおろか、その所在についての一切の情報すら描かれていない。僕はそれでも、曖昧なその地図を片手に森の中を進む。

しばらく行くと、二つの不自然な人間に出会った。どことなく、すべての景色には黒色が混じった様子であって、空から涙の降り注ぐこの森も非常に深い緑色をしているし、時折それが醸し出す意思から覗く向こう側も、漆黒に満ちている。そんな景色の中で、色を持たない存在と出会った。色を持たない存在という表現は正しく、その二人の人間はまるで何年間も漂白剤にでも使ったように、肌も髪も、本来ならば生命の温かさを表すだろう唇色もすっかり真っ白であった。表情はなく、だからといって攻撃的でもなく、こちらを疑うわけでもなく、ただ、そこに在った。

一人は女性だろうか。どことなく女性のような気もした。

僕の歩みは止まった。どうしてか、歩みを止めなければならなかった。それを意識してそうしたわけではなかったが、僕は立ち止まって不自然なその人らと向かい合っていた。会話はない。どのくらいの時間が経っていたのかは分からない。時間という概念を超えていた。もしかすると一瞬の時であったのかも知れないし、それよりもずいぶん長かったのかも知れない。

不自然な存在からは表情も感じないのだから、感情だって分からない。が、深い生命力と意思の中で、一際目立ってそこに在り続けた。そして。二人の不自然体のうち、女性の方が口を開いた。何かの言葉を発していたように思われるが、声はない。女が口を開けたその瞬間。僕は頭を打ち抜かれた。バチンッ、と、強い音がした。痛みも何もないけれど、その強い音で僕は夢から覚めた。

朝の四時。まだ何時間も眠ってはいなかった。僕は静かに外へ出てタバコを吸った。

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