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俺の姉がこんなに優しいはずがない。

 友人の仲谷幸人は昼休みに俺の席を前にうまそうに昼飯を食っていた。

 そんな弁当を見て、俺は自分の持つ小さなおにぎりをあまり見ないように食っていた。

「ほら、食えよ」

 幸人はそんな様子を見たのか俺に唐揚げを一つやってくれた。

「いいのかよ」

「大丈夫だよ。それより、今月はあまり金ないのか?」

「まあな、バイトもあまり稼げないし、毎日これだけだよ」

「お小遣いとかもらえないのか?」

「うちはお金に厳しいんだ。高校生なら自分で稼げってさ。去年まではこんなに金に困ることなかったんだけどな」

 俺はそう言って溜息をついた。うちは両親が躾に厳しく、特に高校生になってからは小遣いなし、昼飯も自分で買うか、自分で弁当を作るかと言うルールになっていた。

「弁当は意外と安く仕上がるぜ」

「俺は料理ができないんだよ」

「姉貴に作って貰えばいいじゃん」

「姉貴になぁ....」

 俺のその呟きと共に出てきた遠い目を幸人は何も知らずに見ているばかりだった。

 バイトも稼げないし、このままだと貴重な成長期をひもじく過ごすことになる。いっそのこと直談判をやってみるか。俺はその日の夜に両親に小遣い制の復活を訴えた。

「いいよ」

「いいのかよ⁉︎」

 まさかの二人から許しを貰えた。だったらなんで、今まで小遣い制を高校生になったら廃止にしてたんだよ。そんな心の中を呼んだのか父親は俺の目を見て言った。

「うちは見ての通り、お前を含めて、子供が五人もいる。あまり贅沢はできないからな。だけど、お前は一番下だから特別に許してやる。謂わば生活保護って所だな」

 なんか嫌な響きだな。となると両親は市役所かよ。

「ちなみに、上には知られない方がいいぞ。怒られるかもしれないからな」

「まあ、それはよく存じてるよ」

 姉貴にバレたら半殺しじゃ済まないだろうな。特にあいつは。

 そんな思いを持って部屋に戻り、しばらくすると、扉をノックする音が聞こえた。

「どうぞ。げっ....」

 扉の先にいたのは姉のくるみだった。俺の一つ上の同じ高校に通う姉で、その剣幕からはただならぬものがあった。だが、くるみはその瞬間にケロッと優しい表情を見せて、俺の前に座った。

「最近はあまり昼飯を食えてないのか?」

「あ、ああ」

 その優しげな声色に騙されてはいけない。こいつは恐らく知っている。

「だからってお父さん達に金をねだるのか?」

 くそ、やっぱり知っていやがった。どこで知った?リビングでは散々、人の目を気にして両親に言ったはずだぞ。

「違うんだ。俺はバイトもしてるんだが、どうも昼がおにぎり一個しか食えないってのは男子高校生には死活問題だろ?」

「だったらもっと高額バイトをやればいいじゃねえか!!」

 くるみはそう言うと、突然俺を絞め始めた。

「く、くるみ、し、死ぬ。まじで死ぬ。許して....」

 俺の声がか細く、そして俺の意識が川の映像になりかけた時、俺はくるみから解放された。

「はあ、はあ、はあ。何しやがる?」

「お前だけ小遣い制ってはずるいんじゃないかってことだ?世の中にはもっとバイト料の高い仕事なんてザラだぞ」

「俺は月三万の仕事だぞ。高校生なんてそんくらいだ」

「私は月10万近くもらってるぞ」

 それはやばい仕事じゃねえのか⁉︎くるみは家族を泣かせる仕事についてるのかよ。

「お前、私がそんな仕事するわけねえだろ?」

 くるみは俺の思考を読んで言った。俺は顔に出やすいのか?

「つまりだ、お前も私の所でバイトすればそれなりに金は貯められるってことだ。やってみないか?」

「くるみのところでバイト?お前俺が仕事ミスったら殴ったり、ぐあっ」

 くるみからの強烈なアッパーをもらった。当然と言えば当然だ。まあ、くるみは外面は良い。本人の前で言ったらアッパーどころじゃないがな。まあ、今のところは週二しか入れてないし、やってみてもいいのかもな。

「いいよ。やってみる。どんな仕事だ?」

「おっさんとホテルに行って遊ぶ仕事だ」

「やっぱりアウトなやつじゃねえか!!!」

 俺の大声にくるみはうるさそうに耳を塞いだ。

「冗談だよ。喫茶店のバイトだ。店頭でケーキとかも売ったりするところでな。店長はずっとケーキ作ったりしてるから、接客が欲しいらしい」

「まあ、そう言うことなら、全然いいけど。そうすれば多少は生きていけるのかもな」

「そういうことだ」

 とういうことで俺は姉の働くバイト先でバイトをすることになった。

 それから、俺は面接を受けて突破し、次の月に働くことになった。

             ・

 そんな事を学校で幸人に言ったら、幸人を目を輝かせていた。

「お前、姉ちゃんと働くのかいいな」

「何がいいなだ。そんならお前も働いてみればいい、あいつの恐ろしさが目に浮かぶようだぜ」

「何が恐ろしいんだよ。お、ちょうど廊下の方見てみろよ」

 幸人の言葉の先には移動教室か何かで教科書を持ちながら三人の友人と仲睦まじく歩く姉の姿があった。

 家での睨みつけるような目つきで眼鏡を掛け、いつも機嫌が悪そうな顔をして、俺に暴力を振ってくる時とは違い、学校などではコンタクトをつけ、優しそうな表情をしており、清楚な優等生と言った雰囲気を纏っていた。

「いくら弟とは言え、あの人を恐ろしいって言うのは違うだろ。まあ、兄弟にしかわからない部分もあるんだろうけれどさ」

 そのわからない部分がまさにそうさ。くるみは一瞬、俺の視線に気付きはするも、目を合わせることもなく、素通りしていった。俺もその方が助かるのでありがたい。だが、あの目の奥には黒い邪気が確かに俺には見え、後で俺はくるみに殺されるのだろうと思った。

「お、どうしたよ」

「来たのか?」

 幸人がそう言い、俺は顔を上げると、そこには隣のクラスの島田宏輝がいた。俺や幸人よりも背が高くバレー部の彼は所謂陽キャであり、俺達に何故話しかけるのか一見するとよくわからないが、幸人と島田は中学の頃の同級生であり、俺も島田は幸人と仲良くなる前に話したことがあった。

「なんの話?」

「こいつの姉貴の話」

「お前好きだな」

「人ん家にガサ入れするの好きだからな」

 おい、こいつ。お前の行動一つで俺の家での安全が危ぶまれるんだぞ。

 だが、そんな事は言葉には出さずにいた。もう既にくるみは廊下にはいないが、幸人はそんな事はもう頭になく

「宏輝、こいつ、今度新しいバイトするそうだぜ」

「へえ、どこでバイトするんだ?」

「狩野珈琲って喫茶店だよ」

 すると島田驚いた顔をした。

「そこ、俺ん家の隣だよ」

 偶然はふとやってくる。

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