第7話 冷静と陽気
石畳の道を踏みしめるたび、第一環状都市の喧騒が波のように押し寄せた。魚を焼く香ばしい匂いと異国の香辛料の匂い、市場の活気ある呼び声、馬車の車輪が石を噛む軋み、そして子供たちの純粋な笑い声が混ざり合う。
この賑やかさは、現代の都市では感じられない、生きた魔力に満ちた異世界の息吹だった。空には魔石の光をチラつかせた小さな浮遊船がゆっくりと流れ、俺──ラーテル・マシロの胸を、期待と同時に漠然とした不安でざわつかせた。
藍色のローブをまとったフードの人物が、無言で俺を先導する。背後には、ガルネアの部下である若い角人騎士がぴったりと付いていた。銀の甲冑が陽光に反射し、カチャカチャと軽い音を立てる。
道の両側には、石造りの建物に色鮮やかな花や旗が飾られ、魔術の技術が随所に感じられる。街灯の魔石は昼間でも微かに青白く光り、水路の風車がカラカラと穏やかに回り続けていた。
「ラーテル殿、こちらです」
フードの人物が低く言う。彼が持つ杖の先端に嵌った魔石が、青く静かに脈打っていた。どうやら、関係者用の第二環状都市の入り口らしい。
通り抜け、しばらく歩くと、第二環状都市の厳粛な風景が漂った。
第一環状都市とは異なり、静かで通りを行き交うのは身なりの良い貴族らしい人々や、学術的なローブをまとった魔術師ばかりだ。石畳はさらに滑らかで、建物は一層豪華になり、窓からは虹色に揺れる結界の光が漏れている。
道の向こう、遥か遠くには、王宮らしき建物と魔術院の連なる第三環状都市のシルエットがそびえ立っている。その白亜の外壁には金色の装飾が施され、朝日に照らされて神殿のような、近寄りがたい威厳を放っていた。
「(空気まで変わったな。さっきの街の陽気な喧騒とはまるで別世界だな…めっちゃ静か)」
魔術院の敷地が近づくと、空気が冷たく引き締まったのを感じた。微かな魔力の波動が肌をピリピリ刺激し、鼻腔にはハーブと古びた紙の匂いが混じって届く。
扉の前には、青と銀のローブを着た魔術師たちが厳重に警備に立ち、門自体は巨大な鉄枠に複雑な魔法陣が刻まれている。門の上には、七つの星を囲む銀の輪──王国の紋章が威厳をもって輝いていた。
「こちらで身元確認を」
フードの人物が扉の魔術師に手紙を渡す。アヴィド・ローネルの印章が押された羊皮紙だ。魔術師はそれを一瞥し、すぐに頷く。
「ラーテル・マシロ様ですね…。確認しました。どうぞお入りください」
扉が重々しく開き、魔術院の内部が現れる。広い中庭には、魔石が浮かぶ噴水が静かに水音を立て、色とりどりの珍しい花が咲き乱れている。庭の奥には、巨大な石造りの建物がそびえ、窓から漏れる光が虹色に揺れていた。建物の上部には、風車のような装置が回り、空中の魔力を効率よく集めているのがわかる。
「(ホグワーツかよ…!)」
思わず口に出そうになり、慌てて奥歯を噛み締めた。この壮麗な建物、魔力で自動点灯するランプ…全てが、俺の知る物語の世界だ。
しかし、俺は転生者ではない。あくまで"封印から目覚めた、記憶喪失の異質な存在"として振る舞わなければならない。その設定がいつまで通用するか、内心ひやひやしていた。
フードの人物が建物の中へ導く。廊下は大理石ででき、壁には古代の絵画や複雑な魔法陣が飾られていた。足音が重く響き、遠くから魔術師たちの真剣な話し声が聞こえる。空気はひんやりと重く、外とは比べ物にならないほど魔力の密度が高い。
「アヴィド様は奥の研究室でお待ちです。私達はここで役目を終えます」
「ちょっと聞いていい?アヴィド・ローネルって…どんな人?」
不安だったため、声を潜めてフードの人物に尋ねる。
「そうですね…アヴィド様は5歳で初の魔法を発現され、王宮の魔術院にスカウトされたことのある、紛れもない天才です。今では58歳という長さで王国の知恵として第五魔術局執務長を務めておられます。私もそこまでわかりませんが、研究好きな人というのはよく聞きます」
「(5歳で魔法発現って…どんだけエリートなんだよ。58歳か。研究室の奥にいるなんて、想像通りの真面目で融通の利かない頑固オヤジってパターンか…?)」
俺は緊張で喉が渇くのを感じた。
研究室の扉は重厚な木製で、表面に複雑な魔法陣が彫り込まれている。フードの人物が杖を振ると、魔法陣が光り、扉が静かに開いた。
中は広々とした円形の部屋だ。壁一面に古い本がびっしりと並び、棚には魔石や実験器具が所狭しとし置かれている。中央には大きな水晶台があり、青い光が静かに揺らめく。部屋の奥、窓際の机に座る男が顔を上げた。
銀灰髪交じりの銀髪は後ろで几帳面に束ねられ、細い銀縁の眼鏡の奥から、深い青の瞳が俺をまっすぐに捉える。彼の着る青と銀のローブは、彼の知的な雰囲気を際立たせていたが、何より驚いたのはその外見だ。端正な顔立ちには細かな皺が刻まれているものの、58歳とは到底思えないほど若々しいイケおじって感じだ。
「ラーテル・マシロ殿、ようこそ。第五魔術局執務長、アヴィド・ローネルだ」
「ど、どうも…よ、よろしくお願いします。凄い本格的な部屋ですね…ってか、その黒猫、めっちゃ可愛いですね…」
気を紛らわせるため、周りを見ながら本音で呟くと、足元でくつろぐ、大きなリボンをつけた真っ黒な猫に目が留まった。黒猫可愛い。
「リュミエの推薦を受けた者らしい率直さだな」
アヴィドは微かに口元を緩め、唐突に言い始めた。
「さて、早速だが、君の"魔素"を調べさせてもらう」
アヴィドが立ち上がり、水晶台に近づく。彼の手には小さなノートがあり、ペンを走らせながら俺を見た。
「あの…聞きたいんですけど、魔素ってなんですか?」
「ああ、これまた失礼、記憶喪失をしていたということをすっかり忘れていた…」
アヴィドは申し訳なさそうにし、軽く咳払いをし、説明を始める。
「明密に言えば魔素というのは、風、水、火、岩、光、闇、空に分類される魔法の素とも言えるものだ」
「魔法の…素?」
「そうだ、空気中に存在する特殊な粒子と考えてもいいだろう。そして、魔素というのは必ず生物に存在しているもので、一つ一つの魂に宿っているものだ。これを体素と呼ぶ。体素というのは生まれながらに持つ、いわゆるどんな魔素に素質があるかどうかのもの。その者の性格や家系、血筋なんかにも関わってくることが多く、その魔素魔法などが習得しやすくなるというものである」
アヴィドは興奮したように早口でまくし立てる。その熱弁と専門用語の連発は、まるで研究発表に全てを捧げるオタクのようだった。異世界にもこういう熱量のある学者タイプはいるんだな、と妙に納得した。
話をそこまで聞いていなかったが簡潔に言えば"どんな属性の魔法に適しているのか"ということだ。
「リュミエから報告は受けている。君の魔素は異質で、黒鐘とは異なるが既知の範疇を超えている。封印から目覚めたという話も、実に興味深い」
「(興味深いって…怖っ!実験材料にされるってことか?)」
水晶台に手を置くよう促される。門での検査を思い出し、喉がゴクリと鳴る。
「力を抜け。痛みはない。魔素の流れを読み、君の特異性を確かめるだけだ」
水晶玉に手を触れると、冷たい感触が広がる。次の瞬間、台が眩く光を放ち、緑、青、赤、黄、そして白と黒がカチカチと交差して激しく色を変える。部屋の空気がビリビリと震え、アヴィドの目が鋭くなった。
「あー、やっぱり…」
俺はボソッと呟き、水晶玉から目を逸らした。
「二つの魔素が交差している…?待て、このパターンは…」
アヴィドの青い瞳が、銀縁の眼鏡の奥で異様な光を放ちながら水晶玉をただただ見つめる。彼はノートに猛烈な勢いで何かを書き込み、眉間に深い皺を寄せた。
「なんかヤバいことなんですか?」
「いや、ヤバいというより、非常に興味深い!」
アヴィドは興奮気味に眼鏡を押し上げた。その声はまるで俺が新しいフェチを見つけたかのようなそんな感じがした。過去の俺を見てるようでなんか懐かしい。
「君の体素は、極めて稀、というよりは、記録にない構造をしている。過去、ごくわずかな記録に似た波動があるが…まさか、それが現実になるとは…!」
アヴィドが水晶玉の横の装置を操作する。光の帯が浮かび、複雑な模様が投影される。まるでDNAの螺旋みたいなグラフだ。
「君の魔素は、特定の"共鳴点"を持つ。そして、同じ共鳴点を持つ者が、もう一人いる」
「もう一人?」
心臓がドクンと跳ねた。全身の血が一瞬にして冷たくなった気がした。この身体と、俺の転生前の事情に関係者がいる可能性なんて、無い方がいいに決まっている。でも、俺と同じ"何か"を持つ存在がいるという事実は、抗いがたい好奇心を呼び起こした。
「そうだ。魔術院の訓練生の中に君と同じ魔素の波動を持つ者がいる。詳細は調べ中であるが、見つけるつもりだ」
「(同じ魔素ってことはあるにはありそうだが、正直興味がある。そいつと友達になれば、何かわかるかもしれない)」
俺が考えている間、アヴィドは眼鏡を直し、ノートと水晶玉を見比べながら「なるほど…」と呟いていた。
「それで、僕はどうすれば?」
アヴィドはノートを見ながらも、淡々と答える。
「急ぐ必要はない。君の力は未知数だ。まずは魔術院の寮に入り、様子を見ながら訓練を受ける。私の監視下で、君の魔素をさらに調べる」
「寮? って、住むとこあるんですか?」
「当然だ。魔術院は訓練生や研究者を収容する施設を備えている。君には、どのくらいの期間かはわからないがそこで住んでもらうことにしよう。勿論、強制だ」
アヴィドが杖を振ると、部屋の隅の魔法陣が光り、羊皮紙が浮かびながら俺の元へと飛んでくる、そこには寮の地図と部屋番号が書かれていた。
「では、明日から本格的な訓練と調査を始める。リュミエの推薦を信じ、君には期待しているよ」
「(期待されても、俺自身が何者か分かんねぇんだけど、アヴィドの『興味深い』って目は、全然信用できねぇ…)」
アヴィドの言葉に、複雑な気持ちで頷く。鞄を握りしめ、アヴィドの執務長室の扉に歩きながら「えーと、失礼しました…」と言い、部屋を後にした。
部屋を出ると、さっきの藍色フードを被った人が待っていたかのように「査定お疲れ様でした。寮へご案内しますね」と言い、驚きつつも、俺はついていった。
どうやら魔術院の寮は、第二環状都市の端にあり、魔術局と繋がっていて、石造りのコの字型の建物、いや館と捉えてもいいほど大きい。
外観は簡素だが、壁には魔力の刻印が施され、窓から漏れる光は柔らかく温かい。中庭には小さな噴水とハーブ園があり、リュミエのくれた鞄から移ったのか、この薬草の香りに少し安心する。
「こちらです。今日はお疲れ様でした、では私はこれで」
フードの人物が去って行くのを見て、俺は部屋に入った。
案内された部屋は、こぢんまりとした個室だった。木のベッド、机、空っぽの本棚、窓際の椅子。壁には簡単な魔法陣が描かれ、魔石のランプがほのかに光る。現代のアパートに比べりゃ質素だが、異世界の雰囲気はバッチリだ。
「(ここで暮らすのか…なんか、RPGの拠点みたいだな。ようやく落ち着ける…)」
鞄を机に置き、藍色のローブを脱ぎ捨て、ベッドに腰掛ける。リュミエのペンダントを手に取り、淡い光を見つめる。彼女の琥珀色の瞳、怒りながらも涙目だった顔が脳裏に浮かぶ。
「(リュミエ、元気かな…師匠のこと、ちゃんと見つけられるといいな)」
ふと机の上にある鞄に目が入り、暇だしこの世界のことを少しでも知ろうと勢いよく起き上がり、机に座り、鞄からリュミエの私記を取り出し、ページを適当にめくる。
「暇だし、勉強でもしましょうかね〜…」
今更だが、この世界の文字は日本語を丸く帯びたような形をしている。リュミエやガルネア、アヴィドなどと余裕で話せたのは公用語だからだろうか。リュミエの私記も少し丸く帯びているが読めるほどではある。
彼女の丸い字と、所々に添えられた無邪気な花のイラストが、俺の心を妙に温めた。メモには、風の魔法の理論や薬草の調合法、七素聖団の概要がぎっしり。しかし、メモの空白には『師匠、どこにいるの?』と、鉛筆で何度も何度も走り書きされた文字があり、その切実さが俺の胸を締め付けた。
「(クラリス…七素聖団の重要人物で、黒鐘と戦ったって話だよな)」
ページをめくると、黒鐘についての記述が目に入る。
>黒鐘:支配を企む集団。目的は不明だが、王国の均衡を崩す存在。被支配者を率い、魔物を操る術を持つ。師匠はヴェノシアらしき者と戦い、一時的に勝利したが、その代償として……
"その代償として……"という部分で記述が途切れている。インクが滲み、リュミエがどれほど動揺しながら書き綴ったかが伝わってくるようだった。
「(代償って何だよ。でも、深刻なのは確かだな…)」
さらに読み進めると、"発現の兆候"についてのメモが現れる。
>発現の兆候:アヴィド様が調べていた通常の魔素と異なる、特異な波動。二つの魔素や未知の魔力を持つ者が示す。師匠はこれが黒鐘の計画に関わると警告していた。アヴィド様と共同で研究したが、詳細は不明。私の魔力も、微かに兆候があるのかな?そんなわけないか。
「(リュミエも兆候持ち? ってことは、俺と同じような…いや、でもあいつはエルフだし、この世界の住人だし、ないない。そう考えるのは飛躍しすぎだろ)」
頭が混乱する。俺の魔素が"光と闇の混ざったもの"って、アヴィドが言ってたけど、リュミエのメモと繋がるのか?クラリスの失踪、黒鐘、魔素──全部が絡み合ってる気がした。
「(なんか、めっちゃ大事なことに巻き込まれてるな、俺…)」
窓の外を見ると、夜が深まっている。魔術院の中庭は静まり、魔石のランプが青く瞬く。星空が広がり、セレヴィズの月が銀色に輝く。現代じゃ見られない、透き通った美しさだ。
私記を読み進める。クラリスの風魔法の記述に、俺が黒呪獣を吹き飛ばした時のことを思い出す。あの時の"何か"は、風に似ていた。リュミエのメモには、風魔法の基本として『イメージと共鳴、そして詠唱の力強さ』が重要だと書かれている。
「(イメージか…あの時、確かに風を感じたんだよな)」
目を閉じ、深呼吸する。部屋の空気が微かに動き、手のひらを微かに濡れたタオルで拭いたような、ひんやりとした感触が走る。ペンダントが光り、魔力が脈打つ。
「(もしかして、俺、今なら軽々風魔法使えるんじゃ…?!)」
試しに手を広げ、風をイメージする。黒呪獣と戦った時の感覚をなんとなく試してみる。だが、何も起こらない。期待と失望が胸でぐるぐる回る。
「はぁ…やっぱそう簡単にはいかねぇか」
気を紛らわせるために私記に戻り、ページをペラペラとめくると七素聖団の構造についてのページが現れる。
>七素聖団:七つの魔素(火、風、水、土、光、闇、空)を司る組織で、7人しかいない。七素聖団がこの世界の均衡を守り、世界をより良くした存在で私の憧れでもあるよ。七素聖団の場所は霧の荒野の奥深くにある塔と言われているし、今度私も行ってみようかな。
読んでいくうちにリュミエの行動力が凄いのと同時に、危険なことに巻き込まれないか不安なような気もしてくる。
考え込んでいると、突然、部屋のドアがノックもなく、いや、俺がドアのノックに気付いてないだけだったがガチャッと乱暴に開いた。
「よっ! 新入り、元気~?」
甲高い、弾むような声が響き、俺は思わず手に持っていたリュミエの私記を落とした。
振り返ると、ドア枠に立つのは、極端に"真面目"な雰囲気を纏っている若い女の子だった。漆黒のストレートな長髪は几帳面なポニーテールに結ばれ、藍色のローブはシワ一つなくピシッと整っている。身長は俺よりやや小柄だ。銀縁の眼鏡の奥の瞳は、虹色に輝くような異様な青色。鋭く、まるで教師か完璧主義者のような雰囲気だ。
だが、なんだか口調がやたらと陽気で、軽薄にすら聞こえる。そして、胸元はローブの上からでもわかる、豊満なDカップはありそうだ。
右手には木製の杖だろうか。彼女の胸の位置まで高さの杖が右手にあり、先端には虹色の魔石のようなものが付いているようだ。
「ちょ、急に入ってくんなよ! びっくりしただろ!」
「ははっ、ごめんごめん!ノックしたのに反応がないから!でもさ、新たに新入りが来たって聞いて、気になってさ!」
彼女がズカズカ部屋に入ってきて、部屋中を見渡し「質素すぎ〜!」と呟く。手に持った杖が軽く光り、魔力がビリビリと響く。ペンダントが突然熱くなり、胸がドキンと跳ねた。
「(この感覚…強い魔力が、俺のペンダントに強く引き寄せられる感じがする…)」
「ねぇ、キミ、なんか面白い魔素持ってるよね? 私、感じちゃったんだから!」
彼女がニコニコ笑いながら近づく。眼鏡の奥の瞳が、キラキラと好奇心で輝いている。
「き、君もか? って、待て…まず名乗れよ!」
陽気な口調に俺も思わず敬語が抜けてしまう。まるで、友達と話しているようなそんな感覚がして来る。
「ふふっ、そうだよね! 私、セリナ・ルヴェール! 魔術院の訓練生で、風と光の魔法が得意なの! よろしくね、マシロ!」
「(セリナ?この人、雰囲気はめっちゃ陽気だけど、見た目との差があまりにも……)」
アヴィドの言葉が脳裏に響く。"同じ魔素の共鳴点を持つ者"。よくわからないがまずは自己紹介だと言いたいが生憎名前を知られてしまっていた。
「な、なんで僕の名前を?」
「えっ…?えーとね……アヴィド様が言ってたよ! 『ラーテル・マシロは異質な魔素の持ち主だ』って! 私、キミにめっちゃ興味あるんだから!」
彼女は慌てたように、不器用なモノマネでアヴィドの声色を真似てそう言った。彼女がグイグイ近づき、俺の顔をジロジロ見る。眼鏡がずり落ちそうになり、慌てて直す仕草が妙に可愛い。
「(見た目は真面目なのに、めっちゃフレンドリーだな…)」
「で、それでさ! キミ、どんな魔法使えるの?なんか、姿からみて黒っぽいから闇魔法とか?それとも…もっと変な感じ?」
「いや、まだよくわかんねぇんだよ。俺、封印から目覚めたばっかで──」
「封印!? うわっ、めっちゃロマンじゃん! やばい、超気になる!」
俺の言葉を遮るように驚きながらセリナが手を叩き、目をキラキラさせる。まるで子供みたいな反応だが、彼女の魔力は本物だ。部屋の空気が微かに揺れ、風がそよぐ。
「(間違いねぇ…この共鳴、俺と同じ魔素だ。アヴィドの言ってたもう一人が、こいつなのか?)」
心臓がドクドクと鳴る。リュミエの私記、リュミエの師匠の失踪、黒鐘の謎──そして、セリナの登場。全部が一本の線で繋がってる気がして、頭がぐちゃぐちゃだ。怖い人とはあまり仲良くなりたくないが、この状況を利用するしかない。
「なあ、えっと…セリナ。お前、なんか…変な力感じたことないか?」
「変な力? ん~、私の魔素は闇と光だけど、最近なんか変な波動感じるんだよね。キミと会ったら、めっちゃビビッてきた!」
彼女が笑いながら指を鳴らす。杖の虹色の魔石が光り、小さな光の粒が部屋に舞った。
「(間違いねぇ…この光と闇、俺と同じ魔素だ)」
「よし、決めた! マシロ、明日から一緒に訓練しよう! アヴィド様の許可もらえば、絶対面白くなるよ!」
「え、急に何!?」
「だって、キミと私の魔素、なんか似てるんだもん! 絶対、すっごい発見があるって!」
セリナがウキウキで言う。彼女の陽気さに、思わず苦笑いが漏れる。
「(この人、めっちゃノリが軽い上に、見た目とのギャップがすさまじいな…。でも、なんか悪い気はしない。生前の俺だったら、間違いなくタイプだったろうな、うん)」
夜の魔術院は静まり、窓の外で星が瞬く。リュミエの私記を拾い上げ、セリナの屈託のない笑顔を見ながら、俺は新たな試練の予感を感じていた。




