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借者の器は俺には合わない  作者: 丸Ⅸ
0.5章 始まりの道
4/8

第3話 やっぱ定番は魔法使い


風を切る音が耳元で唸り、俺は森の中を疾走していた。


いや、正確には“引きずられていた”が正しいだろう。


王国の兵士らしき連中に襲われたところを、謎の女の子に救われた。今、彼女に腕をガシッと掴まれ、森の木々を縫うように引っ張られている。悪い気はしないが、扱いが雑すぎる。まるで荷物だ。


茂みや木の枝がガサガサとローブに引っかかり、時折足が地面の根に引っかかりそうになる。なんとか転ばないよう踏ん張るが、彼女のスピードが速すぎて制御不能だ。まるでジェットコースターに無理やり乗せられたみたいで、胃が浮く感覚が止まらない。


「ちょ、速すぎじゃない、君!? 人間じゃないって!」


「黙ってなさい!」


彼女は振り返らず、鋭い声で一蹴。低く、透き通るような声が頭に響く。反論の余地、ゼロ。まるで雷に打たれたような衝撃。彼女の声には、どこか命令するような威圧感がある。


「(怖いけど、女の子に引っ張られるの、悪くねぇな…)」


そんな情けないことを考えながら、弱々しく「は、はい…」と返す。女の子の身体とはいえ、男としては恥ずかしく、つい俯いてしまう。生前の俺なら、女の子に触れられるなんて夢のまた夢だったのに。


チラッと彼女を盗み見る。


頭には魔法使いらしい尖った薄緑のソフトキャップ。肩まで伸びる茶色のミディアムヘアが、風にふわりと揺れている。長い踝まで覆う深緑の革ブーツと、動きやすそうなオフホワイトのチュニックに薄緑のローブが羽織られている。


腰にはキラリと光る魔石らしきものと、短剣が揺れている。尖った耳が帽子から覗き、異世界感がバッチリだ。エルフ、確定。


「(風の魔法使い? 魔術師? さっきの『空紡の帳(エアヴェリ)』って、絶対呪文だよな…)」


後ろからは兵士たちの怒号が聞こえるが、どんどん遠ざかっていく。彼女のスピードが尋常じゃない。風を操っているのか、足元が地面を滑るように動く。俺の黒ローブのフードも、ヒラヒラと激しく靡く。


「(…てか、今さらだけど、誘拐されてねぇよな?)」


助けられたのは間違いないが、扱いが雑すぎる。ローブは枝に引っかかってボロボロ。借り物の身体と服だから、まぁいいけど、せめて丁寧に扱ってほしい。


森を抜け、広大な平原へと出た。異世界らしい、果てしなく広がる緑の海。風に揺れる草の波、遠くの山脈のシルエット、青空に浮かぶ大きな月。まるでファンタジーRPGのオープニングムービーだ。


小高い丘のふもとに、ポツンと古びた石造りの家が立っていた。


石造りの壁は苔に覆われ、半壊した部分から草が覗く。屋根には蔦が絡まり、煙突からは煙の跡が残る。彼女が軽く手を振ると、風の力なのか、錆びたドアがガタリと開いた。


中に入ると、意外と生活感がある。薪の焦げた匂い、乾いた布の質感、薬草のほのかな香りが漂う。木製のテーブルには本や地図、薬品が散乱し、壁には古びた剣や魔法道具らしきものが掛かっている。誰かが住んでいる気配が濃厚だ。


ようやく速度が落ち、腕を解放されると、安堵の息をつく。だが、その瞬間──


ドンッ!


「ぐはっ!?」


背中が壁に叩きつけられる。見えない力が体を壁にピタッと固定する。彼女が俺に向けて手を向け、指先に青白い光が揺れている。拘束魔法だ。身体が動かない。さすがこの身体のタフさで痛みはないが、圧迫感がすごい。


「っいた…何すんだよ!」


思わず声を荒げる。苦しそうな顔で彼女を見ると、彼女がグッと詰め寄ってくる。琥珀色の瞳が、まるで剣のように俺を貫く。


「さっき、黒鐘(こくしょう)って言葉に動揺してたでしょ! 答えなさい!」


鋭い声が家中に響く。圧がすごい。黒鐘? 兵士も言ってた単語だ。何だそれ? 慌てて手を振って否定する。声はつい高く、柔らかくなる。


「いや、初耳だって! マジで何も知らないよ!」


改めて彼女を観察する。尖った耳は間違いなくエルフ。16歳くらいか。茶色の髪がふわりと揺れ、琥珀色の瞳は鋭いけど、どこか疲れた影がある。軽やかなローブの裾が揺れ、腰の魔石が微かに光を放つ。顔は整っていて、怒りで紅潮してるのが妙に可愛い…って、今はそんなこと考えてる場合じゃない!


彼女は1分ほどじっと見つめてくる。俺は弁解したいが、声が出ない。何か言ったら止められそうだからだ。彼女は諦めたように声を落とし、核心をついた言葉を発する。


「…なら、名前は? フルネームで答えなさい」


「え?」


最悪の質問キター。


さっきも考えてたが、名前なんて簡単には答えられない。生前の「天樹真城」なんて言ったら、絶対怪しまれる。ここは現代日本じゃない。


彼女の視線が突き刺さる。早く答えろって顔だ。


「(うわ、ガチで警戒されてる…)」


「転生した」なんて言ったら、ドン引きされるか、狂人扱いだ。この世界の理屈もわからないのに、そんなこと言えばヤバい未来しか見えない。


少し沈黙し、頭をフル回転させ、答えを出す。


「…ラーテル」


弱々しく答えるも、彼女の声は強気で圧倒される。


「フルネーム!」


「ラーテル・マシロ!」


咄嗟に出た名前。昔、入院中に妄想してたカッコいい主人公の名前だ。誰だって一度は考えるだろ、そういうの。


彼女はジッと俺──いや、マシロの目を睨む。手を俺の方向に向けたまま、本棚へ足を運び、古びた本をパラパラめくり、確認するように見る。その瞳、まるで見透かしてるみたいでゾッとする。


本の内容をチラッと見ると、国籍のようなもので名前がズラッと並んでいる。字は丸く、日本語っぽいが、微妙に違う。翻訳魔法か、この世界の公用語か?


彼女は本をバンッと大きく閉じ、目を閉じてから再び俺を睨み始める。


「そんな名前、どの国にも存在しないわ」


「っ…そ、そりゃ…そうでしょ」


つい本音が漏れ、冷や汗が出る。


「どういう意味よ?」


彼女の声が少し落ち着く。ここは勢いで乗り切るしかない。過去に妄想した設定をフル活用だ。


「えっと…僕、長い間眠っててさ。洞窟で封印されてたんだ。やっと解放されたばっかで…信じてくれよ!」


言った瞬間、彼女がグッと詰め寄る。やっぱ無理だったか──と思った瞬間。


「舐めないで!」


彼女の俺に向けられた手が俺の首をガシッと掴む。

拘束魔法が解け、体が少し軽くなる。だが、彼女の怒りに任せた力はすごい。エルフの力か、怒りによる覚醒か、めっちゃ強い。俺の体は少し震えていた。


「首…! 首は掴まないでくれ!」


咄嗟に彼女の手首を握り返す。振りほどこうとはせず、彼女の細い手首は見た目と裏腹にしっかりしてる。いじめで学んだことだ。無理に抵抗すると、相手はもっと興奮する。だから、相手が何を望んでいるか聞く必要がある。


「ふざけてるようにしか見えない! 魔素の流れも、魔力の質も異質…! 長年眠ってたなんて思えないわ!」


「(なんでそんなんで納得しかけてんだよ!?)」


魔素? 魔力の質? 何それ? 触れて見破ったのか? 今は弁解が先だ。諦めモードで答える。


「は、はい…じゃ、その線でいいよ」


「『いいよ』じゃないわよ!」


首を離され、俺はズルッと膝をつく。呼吸は平気だが、心臓がバクバクだ。いじめのフラッシュバックがよぎり、死ぬかと思った。

彼女は俯き、深いため息をつく。


「…あんた、黒鐘じゃないわね」


「だから何度も…黒鐘って、何?」


会話より疑問が勝ってしまう。兵士も言ってた単語だ。宗教か? 組織か? 彼女は呆れた顔で、静かに話し出す。


「…黒鐘は闇に響く鐘の音。破滅と粛清…そして支配の象徴よ。詳しいことは分からないけど…その中でも『ヴェノシア』って暗殺者がいた。そして黒鐘の特徴として…『黒統一の服』。そっくりそのままあんたに似てるのよ」


俺の服を指差す。確かに黒ローブにタイトな黒ズボンで黒ずくめ。誤解されても仕方ない。


「(…暗殺者!?)」


心臓がドキッとする。暗殺者なら、この身体の過去に関わってる可能性が…。考えるだけでゾッとする。


「それって…指名手配とか…?」


彼女は俺を覗き込むように見ながら答える。


「当然よ。様々な国で恐れられてる。冷酷で、村を壊したり、人を殺したり、時には人々を操ったり…。50年前に失踪して、もしかしてまた封印されたんじゃないかと思われてた」


平然を装うも、内心めっちゃ焦る。もし本物の暗殺者の身体なら、過去の罪を償うハメになる? 異世界に来て早々、処刑エンドなんて冗談じゃない。国を救ったり、世界を救ったりしたいのに!


「えっと…僕は洞窟で封印されてただけ。魔法もさほど知らないし、暗殺や破壊行為とか興味ない。この世界のことも、さっぱりなんだよ」


嘘偽りが多少あるが、正直な声で言う。暗殺や破壊行為に興味がないのは本当だし、この世界のこともわからない。まるで記憶喪失みたいに。


だが、彼女の疑いの目が常に俺に向けられる。


「でも、その服や姿は"脅威"そのもの。わかるでしょ?」


正論だ。確かに服や姿は脅威だし、声も模倣しないと女の子とは思えないほど低い。警戒されても無理はない。

絶望しかけた時、彼女の声がわずかに揺れる。


「最近、黒鐘の目撃が相次いでいるのよ。兵士たちも、民も皆、黒鐘を警戒してるのよ」


黙って俯く。そんな奴らを警戒するのは当然だ。俺だって怖い。筋は通るが、乱暴すぎるし、感情的すぎる。


「私があんたを助けたのは、偶然。でも…『目的』もある。黒鐘じゃないなら…証を見せて」


疑いの目で指をズバッと向けられ、焦る。だが、希望の光だ。証を見せれば打破できるかも。


「証って…何すればいい?」


彼女は少し考え、言う。


「そうね…自分を偽らず、正直に答えなさい。黒鐘が絶対やらないことを」


試されてる。だが、チャンスだ。息を整え、彼女の琥珀色の瞳を見返す。覚悟を決め、言葉を発する。


「僕、太ももフェチなんだよ」


「あ…え……は?」


彼女、唖然。口がポカンと開く。無理もない。いきなりフェチを語る奴なんて異常者だ。だが、異常には異常をぶつける理論だ。戸惑う彼女を無視し、オタク早口でまくし立てる。


「黒タイツと絶対領域は正義。八重歯もいい。制服の袖からチラッと見える手首の骨とか、細かいとこが好きなんだ。最近は、くしゃみの直前の顔が好き。『へっ…くしゅん』の『へ』の瞬間、わかる? あの微妙な顔の崩れが──」


「もういい! わかったからもうやめて!」


彼女、顔を赤らめて後ずさる。限界きたのか、咄嗟に止められる。引かれた。自分で何言ってんだって殴りたいが、これが一番だ。


「…確かに、黒鐘がこんなこと言うわけないわ」


「(よし、引かれただけで済んだ!)」


心の中でガッツポーズ。彼女が一歩下がり、表情が緩む。俺も地べたに座り込み、ホッとする。もう二度とフェチを誰にも語りたくない。


彼女はなんとなく納得したのか、警戒を解いた雰囲気で口を開く。


「…私はリュミエ。リュミエ・アルセリナ。エルフの魔法使いで、クラノス師匠の元弟子よ」


やっと名乗ってくれた。名前からして日本っぽさゼロ。可愛い名前だ。


「師匠…? でも、どうして僕を?」


師匠ってことは、リュミエより強い魔法使いか。羨ましいな、その師匠。


リュミエはため息をつき、説明を始める。


「…あんた、ほんと何も知らないのね。クラリスは、私の師匠は黒鐘と因縁がある人なの。だから今、私もあんたの正体を見極めてる。…まぁ、少なくともあんたは違うみたいだけど」


背を向け、本棚に向かって歩き出す。その背中は頼もしいけど、どこか寂しげだ。月明かりが彼女のシルエットを柔らかく照らす。


本の側面を一つ一つ見ながら、リュミエが答える。


「とりあえず、泊まっていきなさい。封印から解かれたばっかで、状況が理解できてないでしょ。それに…私も、ちょっと手荒だったし」


弱々しい声。反省してるのか、小さくなっている。許したいが、兵士から救ってくれた恩人だ。いなかったら殺されてたか、連行されてた。


「あ、あぁ…ありがとう、ございます?」


命狙われて、尋問されて、オタクトークで解放。奇想天外だが、案外楽勝と気が緩む。だが、自分の手や身体を見て考え込む。


「(…でも、この身体の過去、ガチでヤバそうだな)」


暗殺者なら、殺されるか連行されるか。誰も巻き込みたくない。リュミエに話せばなんとかなるかもしれないが、さっきの話が嘘になる。


この身体のことは秘密にしようと、胸に手を当て決意する。


しばらくの沈黙。家の中をまじまじと見る。木の床は擦り切れ、壁には魔法陣のような模様が薄く刻まれている。リュミエは椅子に座り、本を見ながら発言した。


「それで、いつから封印されてたか具体的わかる? 師匠のことを知らないなら、結構前でしょ?」


嫌なとこ突いてきた。適当な設定を追求され、罪悪感が押しつぶしそう。記憶喪失で誤魔化すしかない。


「えっと…封印されてて、記憶が…あはは」


苦笑いで目を逸らす。リュミエが本から目を離し、チラッと見て、またため息。呆れられてる。人にため息吐かれるのは慣れてるが、恩人に吐かれるのは心が抉られる。


「…まぁ、いいわ。魔力使い果たして、私疲れたし。これ以上の追求はしないわ」


リュミエはだらんと背伸びして、椅子に座る。俺は軽く会釈し、感謝する。


「あ、あぁ…感謝するよ」


これ以上嘘を重ねると罪悪感がやばいし、信じてくれるリュミエに悪い。このまま落ち着いて、今日は泊まらせてもらうことに。窓の外には夕陽が沈み、大きな月が青白い光を投げかける。


──が、その時、胃がギュッと鳴る。


「あー…」


ボソッと嘆く。この身体でも空腹は感じるのか。リュミエが無言で立ち上がり、キッチンから乾燥パンと木の実、温かい牛乳を2個持ってきて、テーブルにドンと置く。


「空腹なの、さっきからわかってたわ」


急いで席に座り、パンと木の実を手に取る。


「マジ女神!」


リュミエ、そっぽ向くように本で顔を隠して頬を赤らめる。さっきの荒々しさとは別人の少女らしさ。


「女神じゃなくて魔法使い! 舐めないで! …でも、ありがと…」


そっけねぇけど、優しさ滲んでる。身体が男だったら、間違いなく惚れてた。


パンをかじる。堅くて味が薄いが、異世界の料理としては悪くない。慣れそうだ。


「なあ、リュミエ」


「何?」


「助けてくれて、ありがとな。ほんと…もしかしたら、あそこで僕は死んでたかもしれないし」


素っ気なく感謝を述べ、目を閉じ、軽くお辞儀し、食事に戻る。リュミエが一瞬、本を読む動きを止め、声が柔らかくなる。


「あんた、変な人ね。いきなり誘拐みたいな感じにされて、尋問されて…そのくせ『ありがとう』だなんて…」


リュミエがくすっと笑う。その瞬間、目元が柔らかくなり、年相応の少女の顔に。月明かりが髪に反射し、琥珀の瞳がキラリと光る。


ふと、気になったことを聞く。


「さっき、『目的があって助けた』って言ってたよな」


「…忘れてなかったのね、いいわ。話してあげる」


リュミエは視線を落とし、声が弱まる。重要そうな話だと察し、耳を傾ける。


「私の目的は…『ヴェノシア』って黒鐘の一員に関係してる」


「(ヴェノシア…改めて聞くと、なんか棘のある名前だな)」


リュミエが声を強める。


「ヴェノシアは、今もどこかに潜んでるって噂。私はそれを確かめたかったの」


「確かめるって…どうやって?」


軽く聞くと、リュミエは首を振り、残念そうな顔をする。


「わからない…でも、あんな奴を放っておいたら…また同じことが繰り返されるかもしれない。だから、先に見つけて…捕らえて、あわよくば…───」


リュミエは言葉を止める。声と瞳、手がわずかに震えている。木の実を食べる手を止め、何かを察する。


「ヴェノシアは師匠を追い詰めた怪物で残酷な奴よ」


「え…?」


木の実をポロッと落とす。リュミエの実力はわからないが、相当な魔法使いだ。それの師匠を追い詰めた黒鐘って、どれだけヤバいんだ?


リュミエは机の牛乳入りコップを手で覆い、気持ちを整えて続ける。


「命は奪われなかった。でも、師匠は多くのものを失った。それで、"七素聖団(しちそせいだん)"から姿を消したの」


「七素聖団?」


また知らない単語。7人の団か? 渋々聞き返す。


「七素聖団は魔素魔法を一つ一つ極めた、大魔法使いの7人の集団。師匠は風の大魔法使いだった。私の憧れの聖団よ」


重すぎる話に唖然。そんな大魔法使いが敗れるほどの黒鐘に目を疑う。リュミエにとって、相当な痛手なんだろう。


リュミエはクラリスのことを話し続けた。


クラリスは母親のような存在だった。リュミエは幼い頃に両親を亡くし、クラリスが育て、魔法を教えてくれた。共に過ごした月日は長く、憧れと教えが彼女を形作った。クラリスの失踪を追い、黒鐘を敵視し、俺にも手荒だった理由がそこにある。


俺も母親が行方不明になった時、死に物狂いで探した。見つからず、眠れないほど泣いた記憶が蘇る。リュミエの執着心が、痛いほどわかる。これ以上話すと辛そうなので、話を止めた。


少しの沈黙後、リュミエは席を立ち、俺を見て微笑む。


「でも、あんたを見て思った。こんなフェチ語る奴に、心がないわけないでしょって」


「いや、その価値観どうなの…?」


冗談で返したら、リュミエが近くの毛布を握って叫ぶ。


「うるさい! 寝ろ!」


バサッと毛布を投げられる。元気出てよかったな、と思いつつ、この長い一日が終わろうとしている。窓の外は真っ暗。太陽が沈み、大きな月が青白い光を部屋に投げかける。拘束魔法の感覚も解け、肩の力が抜ける。


異世界、めっちゃ体力持ってかれるな。


リュミエが別部屋に逃げるように去る。その背中を見ながら、決意する。


この身体の過去がどんな罪でも、俺の中身まで誰かのものにはさせない。


俺は、俺だ。


偽物でも、借り物でも。この異世界で、ちゃんと“俺自身”を証明して、リュミエの師匠を見つけてやる。


…その前に、飯食って寝よ。



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