あれ?聞き間違いですよね?
はじめまして。慈愛と申します。
ファンタジーを書くのは初めてですので、お手柔らかにお願い致します。
今日も我が家自慢の庭で、お茶を楽しんでいた。
そんな穏やかな日常の一コマに、事件は起きたのだ。
「あれ?聞き間違いですよね?」
だってそんなはず、そんなはずないのだ。
“あの”冷たい婚約者殿が、
「うん」と頷くはずなどありえないのだ。
ましてや「俺も」だなんて...
そういえば、今日は挨拶したときからいつもと違った。
「ジェレミー様、
本日もようこそいらっしゃいました。
お元気でしたか?」
「うん」
ここまではいつも通り。
「ミルドレッドは?」
はい、もうここから違います。
「え、えぇ。いつも通りですわ。」
「そう。良かった。」
「き、今日は、庭で過ごしませんか?
薔薇の花が満開ですの。」
「それは楽しみだ。」
...ジェレミー様が二言以上話すのを見たのは初めてよ。
いつも「うん」とか「そう」としか仰らないし、
それもたまーに、ぐらいなのに。
「ジェレミー様、今日もかっこいいですわ!
今日のグレーの落ち着いた装いも、お似合いで...
何でも着こなされてしまうのですね。」
「そうかな。」
「えぇ!今日も今日とて、
私、ジェレミー様に恋してますわ。
ジェレミー様、お慕いしております。」
ジェレミー様に会うたび、好きと言い続けて、はや6年。
家族や友人にも、すでに引かれてしまっているが、
これだけは譲れない。
ジェレミー様に今日も思いを伝えるのだ!
「数撃ちゃ当たる」というではないか。
でもまさか、その「当たる」日が今日とは
夢にも思っていなかった。
「うん。俺も。」
「..........あれ?聞き間違いですよね?」
「...いや?」
え?どうしてちょっと機嫌悪くなったの?
「...今日のドレスも似合ってる。」
「..........へ?」
「ミルドレッド、今日も....きれいだよ///」
「.........」
「ミルドレッド!?!?」
倒れるだけで済んだ私を誰か褒めてほしい。
神様、今日は私の命日でしょうか?
...
重たいまぶたをゆっくりと上げると、
そこには見慣れた天井があった。
どうして、こんな真っ昼間からベッドに居るんだっけ...
「ミルドレッド!」
「ジェレミー、様?どうして...////」
今、思い出した。
ジェレミー様にきれいだと言ってもらって、
それで私、真っ赤になってぶっ倒れたんだったわ。
恥ずかしい。
「すまなかった。普段から伝えていなかったから、
こんな事になったんだ。」
「いえっ、そんなっ...でも、どうして今日は...?」
「...先週」
「え?」
「先週、いつものように言ってくれなかったから。
...だから、愛想尽かされてしまったのかと。」
「...へ?」
私がジェレミー様に愛想尽かすわけがない。
拗ねたようにジェレミー様が告げた理由に
ただただ驚いてしまう。
先週?何かあったかしら...?
あ、そういえば先週、
季節の変わり目で、喉の調子が悪くて、
あまり話さないようにしていたんだった。
...もしかして、今日のはそれで?
「...実は先週、少し喉を痛めていて...
あまり話さないようにしていたんですの。」
「!...そう、だったのか...//」
「もう万全ですわ!」
「それは、よかった。
...これからはもっと、
言葉でも伝えるようにする。」
「ジェレミー様?」
「今まで恥ずかしくてうまく君と
話せなかったんだが、もうやめにする。
ミルドレッド、俺も君が好きだ。」
「ジェレミー様///」
「//さあ、お茶会の続きをしようか。」
照れ隠しのようで、なんだかかわいい。
かくいう私もいっぱいいっぱいなのだけれど。
「は、はいっ」
なんだかお互いソワソワしながらも、庭園に戻った。
紅茶は侍女たちが淹れなおしてくれた。
茶菓子のレモンタルトは出す前に
私が倒れてしまったので、今日初めてのご対面である。
「早速いただこう。」
「はい...ジェレミー様。」
「何だ?」
「いつ、私のことを愛称で呼んでくださるのですか?」
「は!?!?」
「今までは遠慮していたのですが、
ずっとジェレミー様に呼んでいただきたくて...」
「愛称って...」
「はい。ミリーと。」
「ゴフッ!...」
盛大にむせられてしまった。
そんなに嫌だったのかしら?
「お嫌でしたら、諦めます...」
「いや、そういうわけではない。
ちょっとびっくりしただけだ。
...なら君も、ジェリーと呼んでくれるのか?」
そう来るとは思ってなかった。
さっきまで照れてた姿は一体どこに!?
「が、がんばりマス...」
「うん。頑張ってね。ミリー。」
「ひっ/////....」
そ、想像以上の破壊力ッ/////
自分が言い出しっぺではあるけれど、
これはずるいっ!
またぶっ倒れるわけにはいかないと、
手近にあったティーカップを掴んで中身を飲み干す。
「あ。」
「え?」
「それ、俺の。」
「..........」
ニヤッと笑いながら告げられる、
事実を処理できるまで時間がかかった。
「ッ///////!?!?!?」
「間接キス位で照れるのか」
「ジェレ、ジェリー様だって、
さっきまで照れてらしたじゃないですか!」
「もう慣れた。」
「どういうことですの!?」
「だからミリーも慣れればいいのかもな。
...キスに。」
「.........へ?」
...初めてのキスの味は、レモンタルトの味がした。
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