エピローグ 「あの夜を越えて」
まだ暑い日は続いていたが、二学期は始まっていた。
「行ってきまーす。…ほら、那月も行くぞ」
「ああ、うん。…おばさーん!行ってきます」
すると、岳のお母さんがパタパタとスリッパを鳴らして玄関に走ってきた。
「ちょっと、ちょっと、二人とも!お弁当忘れてる!!」
ランチバッグ2つをずいっと岳と僕の目の前に突き出した。
「母さん二人分作ってくれたの?」
「そりゃそうよ!今日からお弁当でしょ?それに京子さんの、那月のお母さんから大事な息子さん預かったんだから、お弁当初日から持たせないなんて、優しい母はそんなこと出来ないよー!ねぇ、那月ぃ〜!」
そう言って、岳のお母さんは僕をギューギューとオーバーに抱きしめた。
「ちょっ!母さんやめてー!那月困ってるだろっ!セクハラだろがっ」
そう言って岳が僕から引き剥がした。
「…おばさん、ありがとうございます。お弁当もだけど、居候させてもらって…」
僕はぺこりと頭を下げた。
「そんなの気にしないでいいのよ!…岳に頼まれた時は驚いたけど、小さな頃から今までを見ていたら、岳が本当に那月を心から大切にしてるのは分かってることだし、今更高校を転校するとか、かなり大変なことよ。学校もそこをリスクと思ってうちから通うことを認めてくれたしね。京子さんだって自分達親ののせいでと落ち込んでしまってたし…。人って助け合いだから!うちは部屋もいっぱいあるしね!…代わりに那月には、うちの繁忙期には手伝ってもらうからねぇー!」
きっと僕が気に病まないようにと、明るくさっぱりと話してくれた。
僕はこうして岳と岳の両親のお陰で、高校の間は岳の家で友達として居候することになった。
「じゃ、母さん、サンキュー!行ってきます」
「行ってきます」
玄関を出ると、僕たちは自転車を納屋に取りに行く。
「…そういえば、何であの時僕が別れを言い出すと分かったの?」
「ええ?どれだけ那月と一緒にいると思ってるんだよ。日に日に思い詰めた顔になっていってさ、那月の性格なら詰まるとろ、『別れた方が岳のためだよ』、なんて言いそうだなって思ったんだよ。…よくキミを分かってるでしょ?」
「…僕だけ馬鹿みたいだったじゃないか。もっと前に言ってくれたら良かったのに…」
「まぁね…、でも、頑固な那月に分かってもらうには、有無を言わせないくらいの強い意味がなきゃダメだと思ったんだよ」
「…うん、確かにそうかも…」
「だろ?そしてこうして、新婚さんみたいな毎日が待ってたんだから、許して!」
そう言って岳は爽やかに笑った。
岳には僕のことなんて、お見通しだった。
「…岳、ありがとう、好きだよ」
「うん、僕も好きだよ…」
岳と僕はそっと唇を重ねた。
その日から通学前にここでキスをしてから学校へ向かうことが、二人の日課になった。
あのガラスの指輪は今も輝いて、僕たちの未来を待っている——。
─END─
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