別れの夜に (5)
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花火はもう終盤に差し掛かっていた。
一度に沢山の花火が打ち上がり、迫力に鼓膜が揺れる。
でも、僕には花火の音も花火の美しさも感じられなかった。
もうすぐ、僕は岳に別れを告げる。
そう思ったら、僕は緊張して岳の手の甲をギュッと握った。
岳は驚いた顔をして僕に顔を向けた。
ちょうど花火は、小さな光の欠片を瞬かせながらハラハラと消えていった。
時が止まったように、静寂が僕たちを包んだ。
「…岳…、僕たち——」
僕が別れを告げようとしたその瞬間に、岳は僕を抱き締めた。僕は驚いて言葉を飲み込んだ。
「…那月、言わないで。…俺は今日を別れになんてしない」
岳は僕を真っ直ぐに見つめて手を握った。
「那月…、俺と結婚して…」
──思いがけない言葉だった。
しかし、岳の真剣な様子に胸がギュッと苦しくなって堪らなかった。
僕は頷くしか出来なかった。
「…今の現実では、本当には結婚できないのは分かっているけど、俺の本当の気持ちだから」
そして、岳はもう一度僕に言ってくれた。
「那月、僕と結婚してください」
真っ直ぐで誠実な岳の瞳に、一遍の曇りも無く僕が映っていた。
僕はその瞳に僕たちの未来があると強く思えた。
「…はい、僕でよかったら、よろしくお願いします…」
頬には温かい涙が一筋流れた。
岳は浴衣の袖からガラスの指輪を出した。
そっと僕の手をとって、指輪をはめてくれた。
その瞬間、指先から僕の心に、岳の一途な想いの波が押し寄せた。
二人の心音だけが静けさの中に響いているみたいだった。
心の光のありかを、僕たちはただ見つめあった──。
浴衣の袖が潮風になびいた、その瞬間──、
ひゅるひゅると火の粉が一筋の線を描きながら夜空を駆け上がった。
僕たちの出逢いから今までの全てを見てきた大きな空に、僕たちを祝福する、今日一番の大きな花火が、暗い夜空に花開いた——。
光の粒の輝きを受けとったガラスの指輪は、キラキラと二人の笑顔を眩しく照らした。
─ END ─
エピローグへつづく
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