純粋な疑問なのですが、あなたは一生虐げられたいのでしょうか?
※微百合。
わたくし、どこぞの異世界に転生してしまったようです。
中世というよりは、近世。そして、近世よりも倫理観の進んだ都合のいい世界。所謂、乙女ゲームだとかナーロッパと称されるような異世界なのだと思います。
まあ、だからなんだという感じなのですが。
一応、わたくし貴族令嬢なのです。
自分で自分のことを『令嬢』と称するのはおかしい? なにを言いますことやら? 令嬢とは、大事にされているお嬢様のこと。故に、自分が家族や家で大事にされていると思っているならば、自分で令嬢と自称することも、ある意味間違いではないのです!
そう……ちょっとばかり、自惚れ屋と思われそうですけれど。でも、娘が自分で『令嬢』と自称するくらいに大切にされているのだ、という他家へのアピールにもなると思いますの。
それって、大事なことでしょう? まあ、わたくしの持論ですけど。どうかしら?
なんて、それこそどうでもいいですわね。
ええ、ちょっとばかり現実逃避をしてしまいましたわ。
一応、幼少期からどこぞの異世界に転生してんなー? とは、思っていた。
でも、それがどこの異世界だなんて知らなかった。なんせ、前世ではゲームやラノベ、アニメはそれなりに嗜んでいたから。自分の知らない作品の世界という可能性もあるし?
それだと、特定なんてできない。
幼馴染やら婚約者候補として交流させられてる男の子達の顔が、まあまあキラッキラ☆してるから乙女ゲームや少女マンガ、恋愛系のラノベか? という疑いは若干あった。
だが、今日。貴族学園中等部へ一年生が入学して来て、確信へ変わった。
それというのも……
「だから、平民ヒロインのあたしが攻略対象の王子様達と結ばれるには悪役令嬢にイジメられないといけないの! あなたが、あたしに一切興味無い的な態度だと、王子様達もあたしに興味持ってくれないじゃない! 嫉妬心剥き出しの、イヤミったらしい態度であたしにネチネチと嫌がらせしてよ!」
と、自称平民ヒロインという生徒に絡まれた。
ちなみに、わたし……わたくしは、二年生だ。しかも割と高位貴族ぞ? 先輩に対する態度とか以前の問題だ。
まあ、ガチ中世とか貴族が権勢誇ってるような近世よりはかなり倫理観や人権意識が強くて、平民相手に不敬罪被せるにしても、結構厳格な規定があるけど。
しかし、自称平民ヒロインちゃんはこの世界がどの作品の世界っぽいのか知っている模様。どうやら、わたくしが悪役令嬢ポジのようだ。
ちなみに、攻略対象共は誰とも婚約を交わしてはいない。ほら? 婚約者のいる野郎に擦り寄るヒロインってどうなん? そんなの清純な乙女ちゃうやろ! 勢の作者の作品だった模様。
故に、悪役令嬢の婚約者候補……達という微妙な立場の攻略対象が悪役令嬢に自由を縛られていて? 平民ヒロインがそんな攻略対象共の心や自由を解きほぐして悪役令嬢から解放する、的なラブストーリーの全年齢対象乙女ゲームらしい。
うむ。全く知らん! マイナーだったか、前世のわたしが興味無かったタイトルかな?
あと、攻略対象共とは幼少期からそれなりに交流してるが、別に連中の自由や行動を縛ったつもりは特に無い。生まれの身分差という柵は存在するので、向こうがわたくしの家に不満を持っている可能性はあるが。
そこを不満に思うなら、連中が勝手に身分捨てんだろ。あ、それで平民ヒロインちゃん選んで、どうこうになる……のか? まあ、知らんけど。
二年に上がって授業初日が終了。さて、今日のおやつはなにを食べようか♪とうきうきしながら帰ろうとしたときだった。
この、自称平民ヒロインに捕まった。
そして、
「ストーリー通りに行動しないということは、さてはアンタ転生者ね! 悪役令嬢のクセにヒロインを差し置いて逆ハー狙いとはいい度胸ね!」
とか、頭おかしい奴に絡まれて、滔々とこの乙女ゲーム? らしき世界観を語られている感じだ。
アホの子なのかしら?
「あの、これは疑問なのですけど」
「なによ?」
「あなたって、被虐趣味でもありますの?」
「ひぎゃく……趣味? なにそれ?」
通じなかった!
「有り体に言うと、あなたはドMなのでしょうか? と聞いているのです」
「はあっ!? なに言ってんのよっ!? あたしにそんな趣味あるワケないでしょ!」
あ、ドMは通じるのね。
「いえ、先程から自分を虐めろ、虐げろと仰るものですから。てっきり……虐められて興奮する系の趣味嗜好でもお持ちなのかと思いまして」
「だからっ、それはっ! 攻略対象の王子様達が、あたしに興味を持つきっかけ! で、要所要所でイベントを起こしてもらわないと、好感度が上がらないの! だから、仕方なくアンタにイジメられてあげるって言ってるの!」
「えっと……面倒なのでお断りします」
「なんでっ!?」
「ですから、面倒なので。あなたの仰る悪役令嬢をしたとして、わたくしにメリットなんて一切無いじゃないですか。更には、悪役令嬢は断罪されてざまぁされるのがセオリーというものでしょう? 誰が、これから自分が不幸になると判っていることに進んで手を貸すとお思いで?」
「そ、それは……」
もごもごと勢いを無くす自称ヒロインさん。
「えっと、あんまり……酷いざまぁにはならないようにするから……宿題五倍とか、ダメ?」
言ってることはアホっぽいけど、悪い子ではなさそう。でも、もしかしてこの子……
「その程度で済む可愛らしいざまぁなんて、聞いたことありませんわ。それと、これは純粋な疑問なのですが、あなたは一生虐げられたいのでしょうか?」
「え? は? なに言ってるの? 意味わかんないんだけど?」
「あなたの言うヒロイン像は、虐げられないと攻略対象に見向きもされない、ということですよね?」
「えっと……うん?」
わたくしがなにが言いたいのか判っていないように頷く彼女。
「それ、まんま吊り橋効果なのだと思うのですが」
「吊り橋効果? なにそれ?」
「聞いたことありません? 一応、恋愛テクニックの一つです。有名なのは、お化け屋敷のドキドキなどですね」
「あ、お化け屋敷に行くとカップルが上手く行くってやつ! 知ってる!」
「ええ。ですが、これには問題もありますの」
「問題って?」
「お化け屋敷などでくっ付いたカップルは、破局も早いのです」
「ええっ!? それ、ホントなのっ!?」
「ええ。恐怖心のドキドキを恋愛的なドキドキと勘違いをさせ、恋を成就させるというテクニックですが。所詮は紛い物。熱するのも早ければ、冷めるのも早いのですわ」
「知らなかったっ!?」
「つまり、あなたが虐められ、虐げられて、それを攻略対象が助けるとします。その高揚を恋愛と勘違いして、一時期はラブラブになるでしょうが。そのドキドキが一生続くワケも無し。というワケで、割と早く飽きられて捨てられるのではないかしら? ほら? 貴族は一度結婚すると離婚するのに苦労しますけど。貴族が平民をポイ捨てするのはよくあること、で済ませられますから」
「そうなのっ!?」
「ええ。残念ながら。若いときの火遊びだとか、武勇伝の一つ。または、『俺ってば昔、平民の女なんかに入れ込んじゃってさー。馬鹿だよなー。ハハッ』などと、笑い話にされますわね」
「酷いっ!? ど、どうにかならないのっ!? ずっとあたしを好きでいてくれる方法とかないっ?」
「ずっと……あなたが虐げられていれば、攻略対象が『可哀想なあなた』から目を離さないのかもしれませんわね。というワケで、あなたは一生虐げられたいのですか? と、お聞きしたのです。結婚した後、旦那に嫌われないようにと、婚家で一生虐げられる生活なんて、大分キツいかと」
「そ、そんなの嫌~っ!?」
「なら、素の自分を受け入れてくれる相手と楽しく伸び伸びと過ごした方がいいですわよ」
「……うん、そうする……」
涙目で素直に頷くヒロインさん。
「あの……いきなりむちゃくちゃなこと言って、ごめんなさい」
「……ねえ、あなた」
「? なんですか?」
「もしかして、前世はまだ子供だったりする?」
「ぁ~……えっとね、あたし。前は、小さい頃からずっと入院してたの。注射も点滴も痛いし。薬は苦くてマズいし。ベッドの上で、ゲームするのだけが楽しみだったんだ。小学校は……卒業、できなかったの」
「そう……」
道理で、子供っぽい子だと思った。だから、全年齢対象の乙女ゲームだったのね。
「それなら、前はできなかったことを、この世界ではやってみたらどうかしら? 一生懸命遊んで、一生懸命お勉強をするの。ゲームの世界と似ていて、あなたがヒロインに似ているとは言っても、あなたはあなたでしょう? その時点で、もうこの世界はゲームとは違っていると思うわ」
「そうなの?」
「ええ。だから、ヒロインとしての行動に縛られるより、あなたがやりたいことをやりたいように、楽しく過ごしなさいな」
ぽんとふわふわの頭を撫でて言うと、
「お姉ちゃんみたい……」
きらきらの瞳に見上げられる。
「え?」
「お姉ちゃんって呼んでもいい? えっとね、それでね、あたしとお友達になってください!」
と、なんだか懐かれてしまった。
それから――――
「お姉ちゃんは誰にも渡さないんだからっ!!」
自称ヒロイン……をやめた彼女は、なぜかわたくしの婚約者候補共にガルガルして威嚇し捲っている。
あなた、彼らと恋愛したがってなかった? と思うも、
「お姉ちゃん、大好き!」
満面の笑みでぎゅっと抱き付いて来る彼女のことを、邪険にはできない。
「ふふっ、ありがとう」
あれ? これ、もしかして乙女ゲームで言うところの百合エンド? とか、頭を過ぎった。まあ、深く考えるのはよそう。
「あのね、お姉ちゃん。あたし、お店でケーキ食べたい! 今はね、ごはんが毎日美味しく食べられて、前みたいに食事制限も無いから。お腹いっぱいお菓子食べてみたいの♪」
「あらあら、お菓子をお腹いっぱいになるまで食べるのは、身体によくないのよ? 程々にしましょうね?」
「え~! 食ーべーたーいー!」
「ほら、むくれないの。可愛いお顔が台無しよ? 二人でケーキを何種類か頼んで、一緒にシェアしましょうね」
「えへへ♡あたし、可愛い?」
さぁて、しばらくは手の掛かる妹ちゃんに構ってあげますか。
――おしまい――
読んでくださり、ありがとうございました。
なんか、当初の想定よりも大分ほのぼの百合エンドになってしまった。Σ(*゜Д゜*)
元は、虐げられないと運命の出逢いが始まらないカップルってどうなん? そんな野郎と付き合って幸せになれるか? と思ってて。「そんなに虐げられたいなら、一生虐げられてなさいな」と、主人公ちゃんがニヒルに笑って去って行く微ダークな感じ予定だったのに。なぜか、全然別物になった謎。(੭ ᐕ))?
多分、最近は百合書いてないからだ。まあ、これはこれで善し!♡(*>ω<)ω<*)ギュ~ッ♡
ブックマーク、評価、いいねをありがとうございます♪(ノ≧▽≦)ノ
感想を頂けるのでしたら、お手柔らかにお願いします。
この『純粋な疑問なのですが~』や百合がお好きな方は、ヤトヒコの別作品。
『婚約者が庇護欲をそそる可愛らしい悪女に誑かされて・・・ませんでしたわっ!?』と、
『【連載ver】愛されていた。手遅れな程に・・・』
『純粋な疑問なんだけど、あなたは一生ヒロインの真似をして生きて行くの?』←これはこっちの『純粋な疑問なのですが~』の続き。書いちゃった。(*ノω・*)テヘ
この話も多分楽しんで頂けるかと。それぞれコメディ系な短編とシリアスっぽい短編シリーズに入ってるので、興味があるなら覗いてやってください。(*>∀<*)