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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

お札

作者: 入江 涼子

 昔に、お札を持たされた小坊主の話があった。


 小坊主はある日に和尚(おしょう)さんから、お使いを頼まれる。けど、和尚さんは一人だけで小坊主を行かせる事が心配でならない。仕方ないから、小坊主に「何かあった時に使いなさい」と三枚のお札をお守り代わりに持たせた。こうして、お使いに彼は向かうのだった。


 何とか、お使いを済ませた小坊主は帰り道を急ぐ。が、途中で親切そうな一人のお婆さんに声を掛けられた。小坊主はお婆さんに促されて家へと入る。

 お婆さんはたらふく、ご馳走を食べさせてくれた。小坊主はお礼を言って、帰ろうと思ったが。急に眠気がやってきていけないとは思いながらも、いつの間にか眠っていた。


 ふと、小坊主はある物音で目を覚ます。シャッシャッと何かを擦るような音だ。あまりに気になり、小坊主は息を殺して音のする方へ近づく。


「……ははっ、久しぶりの美味そうなガキだ」


 物陰から覗いたら、妖怪の鬼婆だった。長く白い髪に頭から突き出た角、ギラギラとした瞳、鋭い牙。小坊主は戦慄した。

 自身が優しげなお婆さんだと思っていたのはとんでもない妖怪だった。小坊主はまた、足音を立てないようにしながら、元いた部屋に戻ったが。鬼婆には気づかれていた。


「見〜た〜な〜!」


 何と、鬼婆は小坊主がいる部屋までやってくる。その手には出刃包丁が握られていた。小坊主は悲鳴を上げながらも不浄処へと逃げ出す。


「……ど、どうしよう?!」


 小坊主は走りながら、懸命に考えた。その時、懐にあるお札の存在を思い出す。不浄処に入り、壁に一枚のお札を貼った。


「まだかえ?!」


「……ま〜だまだ〜」


 小坊主はとっさにそう言って、次の方法を考える。そっと不浄処を出て、必死で逃げた。


 鬼婆はあまりに小坊主が戻って来ないので苛つきながら、様子を見に行く。

 けど、扉を開けたが。そこには小坊主の姿がない。壁に貼りつけられたお札から、彼の声がするだけだった。鬼婆は小坊主が嘘をつき、逃げ出した事に怒り狂う。


「あの小坊主め!」


 鬼婆は小坊主を追いかけ、走り出した。


 すぐに追いつかれた小坊主は次に大きな川をお札に願う。たちまち、広大な川が現れた。が、鬼婆はあっという間に川をざぶざぶと渡ってみせる。小坊主は走りながら、最後のお札で巨大な砂山を願った。すぐに大きな砂山が現れる。小坊主は和尚さんが待つ寺へと、走り続けた。


 やっとの思いで小坊主は寺に帰り着いた。けれど、鬼婆がしつこくも追い付いて来る。


「小坊主、待たぬか!!」


「待ってたまるか!」


 小坊主は既に、お札を使い果たしていた。そうして何とか、寺の中に入る。


「……お、和尚様!!た、大変です!」


「お、小坊主ではないか。いかがした?」


「あ、あの。お使いの帰りに……」


 小坊主は必死で事の顛末を説明した。和尚さんはそれを訊いて、ふむと唸る。


「成程、お前の言いたい事は分かった。鬼婆の相手は儂がしよう。お前は隠れていなさい」


「は、はい!」


 和尚さんの指示に小坊主は頷いた。急いで、彼は隠れるために奥へ行く。和尚さんは鬼婆を待ち構えたのだった。


 鬼婆は寺にたどり着く。そこに、追いかけていたはずの小坊主はいない。


「……和尚、小坊主はどこじゃ!」


「おうおう、鬼婆殿か。小坊主はここにはおらぬ」


「何じゃと?!」


 和尚さんはにっこりと笑う。そして、鬼婆に言った。


「鬼婆殿、ここで立ち話も何じゃ。奥に行こうか」


「ふん」


 鬼婆は鼻を鳴らすが。仕方なく、和尚さんの後を付いて行った。


 和尚さんは鬼婆を囲炉裏の側へと、招いた。にこにこと笑いながら、奥からお餅を持ってくる。それを囲炉裏にある金網に載せて焼き出す。鬼婆はさらに苛立ちが増した。


「和尚、早く小坊主を出せ!!」


「……まあまあ、そう言わずに。餅でも腹は満たされる」


「わしはいらぬ」


 鬼婆は睨みつけながらもどかりと座った。和尚さんは焼き加減を見ながら、ぽつりと言った。


「それはそうと、鬼婆殿」


「何じゃ?」


「そなた、変化(へんげ)が得意であったな。何なら、そら豆にでも化けてはもらえぬか?」


 和尚さんが提案すると、鬼婆は鋭い牙を見せながら笑った。


「お安い御用じゃ!」


 たちまち、鬼婆は小さなそら豆に化けてみせる。和尚さんは「凄いの!」と囃し立てた。


「なら、もっと小さくはなれぬかの?」


「むっ、小さくか。分かった」


 鬼婆はさらに、小さな豆粒に変わってみせた。和尚さんはそれをひょいと摘んだ。丁度良く、お餅が焼けていた。豆粒をお餅の中に入れてしまう。


「ほほう、美味そうじゃ」


 そう言って、和尚さんは豆粒入りのお餅を口に入れてしまう。しばらく、噛んだらごくりと飲み込んだ。和尚さんは鬼婆を胃袋の中に収めてしまったのだった。


 ――おしまい――

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