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4 大御食



 地面を転がったりヲグナにボコボコにされたりで、オレの風体はボロボロだ。


 というわけで、一度自分に与えられた御殿に戻って来た。

 天皇すめらみこととの会食である大御食おおみけに参加してもおかしくない格好に着替えるために。


「オオウスさま、おはようございまーす♡」

「ヲグナくんもおはよぉ~♡」


 戻って来たオレとヲグナを、エヒメとオトヒメが出迎えた。


「……グッモーニン、ガールズ……」

「おはよー」


「どうしたんですかオオウスさまー?」

「ボコボコかつ泥だらけでウケる~♡」


「ちょっとヲグナと遊んでやってな。

 派手にやり過ぎたから着替えを出してくれ、エヒメガール。

 ヤマトまほろばスタイル御衣みそ、コンサバフォーマル2番を頼む」


「はーい♡ 天皇すめらみことさまとの大御食おおみけ、がんばってくださいね~♡」


「オオウスさま、あーんして? 朝の目覚ましブラックガムです~♡」


「サンキュー、オトヒメガール……!」


 オレは言って口を開け、差し出されたガムを受け取る。


「ヲグナくんもガム食べる~?」


「ん、食う!」


 ヲグナも口を開け、ガムを受け取る。

 2、3度噛んで、とたんに顔をしかめた。


「……これきらい……すーすーする……兄上、あげる」


「食い掛けのガムとかいらんわ!」


     §


「!

 やっと顔を見せやがったか! アホのオオウス!」


 大御食おおみけの場。


 オレが参加していることに気づくと、父なる天皇すめらみことが仰せになった。


「はっ。

 久方ぶりに玉顔への拝謁叶いまして、畏みましてございます……」


「ハ! 不敬アホのオオウスが! 面白え口を利きやがる!

 ……これからは毎日ちゃんと顔を見せろよ。

 家族ってのは、一緒に飯を食うもんなんだからよ……!」


「はっ、大御心おおみこころのまにまに従う所存にございます……!」


「うむ……!」


「なー、父上ー」


「なんだ、ヲグナ?」


「兄上を殺さなくていいのか?

 昨日の晩ごはんのとき、『わからせろ』って仰せになっただろ」


「あ……?

 ……ヲグナそれはな、大御食おおみけに来るよう言い聞かせろって意味だ」


 父天皇すめらみことの玉顔に、驚き、困惑した感じの表情が現れた。


「なあんだ、そうだったのか。

 さっきは殺そうとしてごめんな、兄上ー」


「何、わかってくれりゃいいさ、ヲグナ」


「なんだなんだ皇子ども。

 朝、何があったってんだ?

 包み隠さず、朕に奏上してみやがれ」


 !?

 この流れは、まずいのでは……?


「えー、そのまんまだよ。

『わからせろ』ってのは、

 父上の仰せに背いて大御食おおみけに来ない兄上を殺して懲らしめろ、

 って意味かなっておれ思ってさ。

 厠で殺そうと早起きして待ってたんだけど……

 兄上に大御心おおみこころをまず確かめてみろって言われてさ。

 今、誤解だったってわかったんだ、はは」


 オレの内心の不安を露とも知らず、朗らかにヲグナは言う。


「…………」


 ヲグナの言葉を聞いて、父天皇すめらみことは難しい顔で黙り込む。


 ……まずい。

 ヲグナに対し、既に一定の警戒心を抱いてしまったようだ。


「実兄を殺害するつもりだった」

 そう、あまりにも朗らかに告白してしまったせいだろう。


 『古事記』において、兄を簡単に殺害したヲグナに、景行天皇は恐怖する。

 そして手元からヲグナを遠ざけるため、西の熊襲クマソを征討に向かわせる。


 クマソ征討が成功裏に終わってからも、次々に困難な朝敵征討を命じ続ける。

 最強の英雄ヤマトタケルであっても、相当に苦しい戦いとなるほどの任務だ。


「父天皇すめらみことは自分を戦死させたくてこんな命令を繰り返すのだ」

 という、英雄らしからぬ嘆きの言葉が出てしまうほどに。


 その果てに、

 ヤマトタケル――ヲグナは、病死とも過労死とも取れる形で死んでしまう。


 実際にオオウスが死んではいない以上、

 古事記そのものの場合ほどには、警戒していないだろうが。


 まずい流れなのは確かだ。


「とっ、ところで父上!

 美濃の大根王オオネノミコの娘らを、私が掠め取った件ですがっ!」


 とりあえず、オレは話を逸らしにかかる。


 ……殺されかけたとはいえ、ヲグナはオレの弟だ。

 このオオウスとしての肉体は、兄弟としての自然な親愛の情を覚えている。


 現代人だったオレとしても、この状況を放置したくはない。


 なるべくなら、家族には仲良くしてほしい。

 息子を戦死させようと策を巡らす父の姿など見たくない。

 そしてこの少年――ヲグナにも、どうせなら幸せになってほしい。


 どうしようもなく残忍な一面はあれど、いいところもきっとあるはずだ。


 むしろ、美点の塊と考えるべきだろう。

 ヲグナは、日本最強の英雄、ヤマトタケルなのだから。


「!

 ……白状する気になったか、アホのオオウス!

 その度胸に免じて、ひとつ勘弁してやるさ」


「よっ、よろしいのですか!?

 ……関係を持ってしまったことを謝るでもなく、

 替え玉を仕立てて誤魔化す不敬を働いた、この不肖の愚息めを……」


「ハ! 自覚があるようで何よりだ!

 確かにお前は、父なる天皇すめらみことたる朕に不敬を働いたアホだ。

 しかしオオウス、お前は朕の皇子。

 お前の息子は朕の孫。

 朕が娶って子を産ませるはずだった女どもが、代わりに朕の孫を産む。

 さしたる違いはあるまいて」


「おっ、大御心おおみこころの御寛大にあらせられることに、感服のほかございませぬ……!」


「うむ、よしなに。

 オオウスがアホやった件はこれで終いだ。

 ――で、次の話だ。

 熊襲建クマソタケルって、不敬逆賊兄弟が西にいるんだが……

 ヲグナ、行って連中を殺してこい」



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