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3 朝飯前の暴威



「まっ、待てヲグナ!」


「待たない。

『わからせろ』って、父上の大御言おおみことだから」


 どこか眠そうな口調で言いつつ、目にも鮮やかな動きでヲグナは蹴撃。


 オレは地面を転がって回避。


 一瞬前までオレの頭部があった場所を、空気を唸らせながらヲグナの足が通過。

 蹴りの風圧だけで地面の土が抉れるのが、視界の端に見えた。


「待てってば! オレを殺すな!」


「なんでだよ?

 天皇すめらみことである父上の大御言おおみことに、逆らったらいけないんだぞ」


 変わらぬ口調で言いつつ、ヲグナは猛烈な踏みつけの一撃を放つ。


 オレはさらに地面を転がって回避。

 小さめのクレーターを作るほどの衝撃に身を乗せることで、続く蹴りも回避。


「だからこそだ! 

 やんごとなき天皇すめらみこと大御心おみこころを貴べばこそ、オレを殺すな! ヲグナ!」


「えー? どういうことだよ?」


 言いつつ、凄絶な勢いでヲグナが掴みかかってくる。


 オレは転がって回避……しきれなかった。


 しっかと掴まれ、格闘ゲームの投げ技前段階動作めいて持ち上げられる。


「いっ、今から説明する!

 だから力を緩めてくれヲグナ! 痛い! ほ、骨が折れ……」


「けど、兄上逃げるだろー。

 とりあえず脚の骨折るからさ、それから話してくれ」


「だっ、ダメだ!

 オレにそれだけの深手を負わせることがっ、既に、ぐぉ!

 天皇すめらみこと大御心おみこころに副わぬ可能性が、ありゅぅ!」


「なんでだよ、兄上ー?」


「お、ヲグナ、父上はなんと仰せになった?

『わからせろ』と、それだけなのだろう?

 であれば単に大御食おおみけをサボったオレを注意させたかっただけで、

 処刑を命じたワケではない。

 そんな可能性もあるだろう?」


「……そりゃ、そうかもしれないが……『わからせろ』って言うからには……」


「ぐぉおお!! ちっ、力を緩めてくれヲグナ!

 確かに、オレの話はあくまで可能性・・・だ。

 お前の解釈の方が正しい可能性も同じぐらいある。

 ……だがな、ヲグナ。

 一度オレを殺せば、もう取り返しはつかないんだぞ?

 もし父上がオレの殺害をお望みでなかった場合、お前は不興を買うことになる。

 決定的に、取り返しのつかないくらい、父上に嫌われてしまうぞ?」


「それはヤだな……おれ、父上に嫌われたくない……」


「そうだろう、ヲグナ? 父上を尊敬しているなら、今はオレを殺すな。

 ……今日の大御食おおみけには、オレも参加する。

 そこで、改めて大御心おおみこころを問い奉れ。

 不敬反逆行為を誅せんと天皇すめらみことが欲するならば、オレは素直に帰順する。

 そうなったら、首でも手足でも好きにちぎらせてやるから。

 今は我慢しろ、ヲグナ」


「………………わかった」


 ヲグナが手を離し、オレは地面に投げ出される。


 や、やった……!

 最大の脅威を乗り越えたぞ……!


 生きてるって、素晴らしいな……!


「……しかし面白いこと言うなあ、兄上。

 手足をちぎるなんて、考えたこともなかったぞ」


「そうなのか……?」


 ……あくまで、ここは現代人だったオレがオオウスに転生してしまった世界だ。

 『古事記』作中そのものではないわけだし、ヲグナの性格も違うのだろうか?


「……けど、確かに兄上はひょろいし、引っ張ったら取れそうだな。

 一本いい?」


「よくない!!!」


「だよな、あはは」


 言って、ヲグナは笑う。

 かわいい。


 美形だし歳若い少年ということもあるが、それだけではないかわいさがある。


 なんというかこう、孫でも見ている気分だ。

 前世を含めても、そんな歳ではないんだが……


 ……目下最大の脅威から逃れたことで、気が緩んでるのかな……


「……父上にお伺いを立てるまで、おれは兄上を殺さない。

 骨も折らない。

 手足もちぎらない。

 それはそれとして、少し殴るわ」


「……なんで?」


「ん、眠いし腹減ってんのに、長話されてムカついたから」


「そっかぁ……」


 不意討ちするために、ずっと厠で待ち構えてたもんね。

 それにまだ朝ご飯前だし。


 それでも暴力でうさ晴らしはやめてほしいなあ……


「――ごほぉ!?」


 無言の祈りも虚しく、ヲグナはオレをボコボコにした。


 ……やっぱり、まだ死の脅威ヲグナからは逃れられていないかもしれない……



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