11 東征の始まり
エミシと戦争をするらしい。
従軍経験なんて前世でも今生でもないのにどうしよう?
……逃げるわけにもいかず、周りに合わせてオレは出征してしまった。
「御用がありましたら、何なりと仰せ付けくださいませ、皇子よ」
「う、うむ、大儀である……」
一応、オレは父天皇に次いで軍中で二番目に偉い人間だ。
みんな滅茶苦茶に敬ってくれる。
恐縮するほかない。
「俺らの皇子様がたはクマソ殺しのまほろば益荒男!」
「エミシとかケチョンケチョンだぜ!」
……またクマソ征討を成功させたことも、名望を高めているらしかった。
オレ、女装のクオリティアップぐらいしか役立ってないんだけどなぁ……
期待はタケルにしていただきたい。
そんなわけでオレは、役立たず上司になってしまった。
ただ、せめて大失敗をしないことだけに注力した。
「……というわけなのですが。
如何致しましょうか、皇子?」
「キミはどうするべきだと考えるかね?」
オレは金縁涙型サングラスを傾け、目を見せつつ問う。
キザったらしい嫌味な仕草だ。
しかし、オレはヤマトまほろばプリンスのオオウス。
その地位と権威が、意味ありげな凄みを醸し出し、威厳を感じさせる。
って感じになってるといいなあ。
「えっ?
それはそのですね………………………………………………といった感じかと」
「まほろばアンサー! わかっているようで何よりだ、キミ。
では、そのように取り計らいたまえ」
「はっ、承知致してございます!」
そんな感じだ。
基本的には部下の提案を全面採用。
威厳を維持することに気を使いつつ、
いい上司っぽい雰囲気を感じさせることに全力を尽くした。
実務を良く知る現場の人間の好きにさせているのだ。
ちょこちょこ顔を見せて油断させずにおけば、常識外れの失敗は起きるまい。
そんな、淡い期待を籠めて。
唯一口を出したのは、偵察を怠らないことだ。
この戦は古事記では記述されず、
日本書紀でも一文で済まされる程度の小さな戦である可能性が高い。
最悪のタイミングで奇襲されることさえなければ、どうにか生き残れるのでは?
なんて考えからだ。
そうやって無い知恵を回した意味があったのか。
オレはどうにか生き残ることができた。
エミシとの戦に勝ったわけではない。
ヤマトの軍勢が来たことを知ったエミシどもは撤退。
結果、そもそも会戦が発生しなかったのだ。
§
エミシの完全な撤退が確認された後。
父天皇は群臣たち、そして皇子であるオレとタケルを集め、御下問された。
「……政務のために、朕は纏向日代宮に還幸する。
軍の半数は、防備のために残しておく。
だが予算の関係で、ずっと軍を置いておけるわけじゃねえ。
今回の出征で稼いだ時間に、エミシを討つか服属させて、東国を鎮定せねばな。
――この東国平定の役目に、適しているのは誰か!?」
天皇の御下問に、群臣たちは誰も答えを返せない。
「じゃあおれが行ってくるよ、父上」
一瞬の沈黙のあと、タケルが何気なく言った。
「タケル……!?
……確かに、お前ならやれるだろうが……クマソ征伐で疲れたろ。
何もそう続けて旅立つことはねえ。
しばらくヤマトでくつろげや」
「……父上は、おれが戦に行くと困るのか?」
「そんなことはない。
お前が二人いて、疲れてない方のお前に東をなんとかしてもらいてえ。
そんなことを考えちまうくらいだ」
「だったらいいや。
そういうことなら、やっぱりおれが東に征くよ。
クマソ退治の旅はなんだかんだ楽しかった。
きっと今度も楽しいさ」
「……予算の関係で、やっぱり一人も兵隊は貸してやれねえ。
それでもいいのかよ、タケル?」
「平気だよ、父上」
「そうか、タケル。
お前は孝行な奴だなあ……兄を弑殺しかけたのが嘘みたいだ。
お前のような皇子がいるとは、朕は全く幸せ者よ……!」
「……!……」
しみじみとした父天皇の大御言に、タケルが幸せそうな顔をした。
あっ、良かった、和解出来たっぽい……!
きっと、オオウスが生きている以上、こうなるのは時間の問題だったのだ。
そもそも日本書紀では、普通に親子らしく信頼し合っているのだし。
現代人ごときがあれこれ気を揉む必要はなかった。
ともあれめでたい。
「……あ、でも兄上は連れてくぞ。
一人旅はつまんないからな」
タケルがそう言うと、父天皇はオレに玉顔を向けて御下問される。
「……頼めるか、オオウス?」
「はっ、謹んで拝命いたします」
……正直、もう血や骨肉が飛び散るのを見るのはたくさんだ。
日本書紀の美濃封臣ルートに入り、エヒメ&オトヒメとキャッキャ♡ウフフ♡
開拓スローライフを送りたい。
……しかし、弟と父の頼みだ。
断れようはずもない。
「よし。
それじゃあ、タケル、オオウス。
西に続いて、東もお前ら二人で鎮定してこい。
生きて帰ったなら、望むままの褒美を取らす。
譲位だろうが何だろうが、朕に能うことならなんでも言うこと聞いてやら」
……といったわけで、今度は東国への旅が始まった。
§
しかし東国より先に、寄らねばならぬ場所がある。
「よし。
それじゃあ西へ行くか、タケル」
「兄上、また叔母上のところに行くのか?」
「イグザクトリー」
東征前の伊勢参詣は、絶対に欠かすことの出来ないイベントだ。
ここでヤマトタケルは、最強の武器を授かることになるのだから。
三種の神器の一つ、草薙剣を。
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