10 帰京
「……お、おお、おお……
すごいな、タケル……」
一瞬で無残な死体と果てた少年を見せられ、めまいのする思いだ。
それでも、オレはどうにか言葉を絞り出せた。
「これで、父上が殺せって言ってた奴は全部殺せたなー」
「あ、ああ。
そうだな……」
クマソ征討の命が降った、大御食の席のことを思い出す。
確かに、あのとき父天皇は仰せになった。
『ついでに出雲建も殺しとけ。
クマソまでの途中にいるから丁度いいだろ』と。
だから、この少年――イズモタケルを殺すことは、さしておかしくはない。
ただ、命令を実行しただけだ。
おかしくはない、のだが……
「父上の命を遂行したのはいいんだが……
タケルお前、それでよかったのか……?」
「何がだ兄上?」
「だって、さっきまでその子と仲良く、楽しそうに遊んでたろ。
なのに。
なのに、殺しちまってよかったのか……?」
「あー、そういうことかー……
兄上の言う通り、もうちょっと遊んでからでもよかったな……
でも、父上が殺せって言ってたんだ。
しょうがないだろ」
「まあ、そうだな……」
……やっぱこの子怖いなぁ。
父なる天皇の言う通りにしようと頑張ってるだけなんだろうけれど。
それでも、思い切りが良すぎて怖い……
タケルはやっぱりヤバい奴だ。
ヤバい奴だがいい子だ。
その上オレの弟で、朝敵征討の英雄で……もう、わけがわからない。
「…………よくやったな、タケル……!」
どうするべきかわからなくて、オレはともあれタケルの頭を撫でた。
§
オレとタケルは、ヤマトの纏向日代宮に戻って来た。
父天皇の御前に参上して、クマソ征討が成功をしたことを報告する。
「そうかそうか!
よくやってくれたな、皇子ども!
……たった二人でよくもまあ、クマソとイズモを鎮めたものだ……!
朕は嬉しいぞ」
「はっ、お褒めの言葉を頂戴いたしまして、幸甚の極みにございます……!」
「父上が嬉しいとおれも嬉しいぞ!」
タケルと2人、父天皇に頭を下げる。
「失礼いたします!
恐れながら、火急の報があり御前に参上させていただきました!」
すると、その場に泡を食った様子の兵士がやってきた。
「なんだ、忙しねえ。
ともあれ落ち着いて奏上せよ」
「はっ!
蝦夷の叛逆にございます。
国境の村を襲って物資を奪い、人民を苦しめているとか」
「報告ご苦労。
……やれやれ、西が落ち着いたと思ったら今度は東か。
ともあれ鎮定せねばならぬ。
そういうわけだから、皇子ども。
お前らも兵隊を率いて戦について来い。
帰ってきたばかりで悪いがな」
「!?」
……戦争……!?
「はい、父上ー」
オレが驚愕に息を呑む中、タケルはいつも通りに軽く応じた。
こんなタイミングでエミシとの戦争なんてあったのか……?
確か古事記だと、そんな描写はなかった。
帰京したてのヤマトタケルが、東の十二か国の平定を命じられれるだけだ。
……しかし、この世界は既に古事記の記述からだいぶ変わってしまっている。
手足をもがれて殺されるはずのオオウスが生きているし、
イズモタケルの殺害方法も少しばかり違った。
そしてオオウスの殺されない、日本書紀での記述の記憶はあいまいだ。
熊襲征討と東国平定の話の間に『東夷多いに叛きて辺境騒動す』とかなんとか、
そんな感じの一文があったような……?
そもそも古事記においても省略されているだけなのかもしれない。
わざわざ平定に遣わすからには、それだけの理由はあるのだろうし。
……理屈を考えるのは後にしよう。
それよりも戦争のことだ。
皇子である以上、戦争には指揮者として出征することになるのはわかる。
理屈としてそうなるのは理解できるものの、実際にやれるかは別問題だ。
平凡なサラリーマンだった前世のオレは元より、
オオウスとしての記憶でも、戦争のことなどまるでわからない。
タケルに殺されず拾った命を、ここで落としてしまうんじゃ……?
本作を御覧くださりありがとうございます。
感想、評価、いいね、ブクマなど、
御気軽に御リアクションくだされば幸いにございます。
次回更新も、明日の夜を予定しております。




