4,異世界でお絵描きだ
「おむすびおいしいいいいいいいい!!」
もう一口食べて、あまりにもな美味しさに叫んでしまったよ。
涙がとめどないっ!
さあ、さあさあ!もう一気に全部ほおばるのだ!!
パクッ、もぐ!ザリザリッー
「ふぬっ!?ふ、ふなぁ!」
一口目の感動よもう一度と、残りのおむすびを全部口へと放り込んだのだけど、咀嚼した瞬間とっても不快な食感が広がった。
なんとおむすびの下の部分は、砂でジャリジャリだったのだ。
「・・・んん!んーーー!!」
じゃり!ばり!ぼりぼり!!
でもジャリジャリがなんだっ!
吐き出すなんて絶対にするもんかっ!!
全部僕の物だ、丸々飲み込んでくれる!!!
「んー!・・・んはーーーーーー!!はあ、はあ、くったあー!!美味かったぁ!!」
・・・
「ーうっ」
・・・・おおう。
あまりのテンション上昇に、ぐらりと目眩が・・・
それもそのはず、僕は今の今まで死にかけていたのだから。
拳大のおむすび1個食べた所で、そうそう復活するものじゃない。
ん?
ちょっとまて。
目眩がしたおかげで、おむすびで浮かれていた熱が冷め。
ーふと気がついてしまった。
今食べたおむすびって一体どこから湧いて出た?
考えてみるとおかしい。
この7日間で、どこを探しても食べられそうな物なんて、影も形も無かった。
ましてや、ほかほかの握りたておむすびが、こんな所にあるはずが無い。
これは幻覚なのだろうか。
いやでも、おむすびを掴んだ手が、食べた口が、飲み込んだ喉が、落とし込んだ胃が、その存在を確かに覚えている。
もし僕のいる密林が幻覚では無いのなら、あのおむすびもまた現実にあったのだろう。
・・・ということは。
「ま、まさか!」
急いで砂に三角を描いてみる。
そして、唱えた。
「いでよ!おむすびーーー!!!」
・・・
・・・・・
いくら待っても、おむすびが出てくる気配は一向にない。
さっきはこう、ぐわーっと空間がへこんでピカッと光ったのに、今はウンともスンとも言わないのだ。
「ええー!!なんかこう僕の異世界チート的なやつが開眼したんじゃないの!?」
ショックだった。
もし、さっきのおむすびがマグレというか、再現性のない産物だったのなら、またもや僕は餓死へと一直線になるだろうから。
それだけは嫌だ!
「・・・待て、考えろ・・・僕は一体何をした?」
おむすびをほおばるまでの行動は、空腹のせいで脳みそが働いておらず、ほぼ無意識の状態だ。
正直な話し、ほとんど覚えちゃいないのだけど、それでは困る。
餓死は嫌だ。
考えろ、考えるんだ!!
「ええっと、さっきは絵を描いて・・・丁寧にゆっくり・・・」
もう一度三角を描いてみる、こんどはふっくらと丸みをもたせた三角形だ。
・・・
・・・・
ううむ、だめだ。
特に変化はない。どうしたものか。
ーーよし次は、もっと思いを込めて描こう。
「おむすび〜おむすび〜・・・ふっくらほこほこおむすび!塩分のしっかり効いた手で握ったおむすび〜」
そう念じながら、ゆっくりとしっかりと地面の砂にふっくらとした三角形を描いていく。
最後まで気を抜かずに、集中して。
「うわ!?」
ーきたっ!!
僕が描いた絵に向かって空間がへこんでいる。吸い寄せられている風にも見えるな。
そして絵は光りはじめた。
今度は目を細めながら手でひさしを作って、しっかりと凝視する。
おおー凄い!
絵が徐々に消えると同時に、本物のおむすびになっているのか?
その変化は、とても不思議で神秘的、でもどこか笑いをさそった。
だって、光の中からおむすびが湧き出してるんだもん。
「でた、でた!おむすびだっ!」
僕は目の前に湧き出したおむすびを手に掴んだ。
「・・・あれ?」
なんだかさっき食べたおむすびに比べていびつな気がするな。
お米の一粒一粒もなんだかあまりキレイな形じゃないぞ。
全体的にベチャッとしているというか何というか。
おむすびの下部分には、相変わらず砂が付いているのはおんなじだ。
いやまあ見てても仕方ない、もう一度食べてみよう、お腹もまだものすごく空いてるし。
ーぱく
んぐ、もぐ・・・
「うわ、なにこれマズッ!」
さっき食べたおむすびと雲泥の差である。
なんかおかゆを無理やり固形にしたような口当たりだ。
味も風味もあまりなく、小学校の頃お道具箱に入っていた、のりのような味がする。
・・・ちなみにのりは食べたこと無いよ、ちょっと舐めたことがあるだけだ。
「ううう、さっきのおむすびと全然違う・・・なんでこんなに味が違うんだ?」
わからない。
なぜこんな味なのか全くもってわからないけど、でもそれでいい。
そんなことよりも!
「う、うおおおおお!チート能力だあああああ!!!すげーーー絵を描いたら本物になったぞ!?」
きたきた!
ついにきてしまった!!
絵を描いたら本物になるってマジっすか!?
「あははは、すっごい!これは・・・もう、すんっっごいっ!!」
あまりの喜びに、もう言葉にならなかった。
こんな時はアレだ。
「いてててて!・・・うおーほっぺたつねっても痛い!ゆめじゃないぞおおおおお!!」
この密林にやってきてからの7日間、様々なチートに思いを馳せた。
超魔法が使いたい、最強剣術が使いたい、全てを鑑定したいなどなど本当に沢山だ。
でもそんな僕の想いは叶わなかった。
叶うはずが無かったのだ。
だって僕の想像を遥かに超えた素敵なチートが、すでに備わっていたのだから。
「おおっと、忘れてた」
テンションが上がって思わず握りつぶしそうになっていた、のりのようなおむすびを口の中に放り込んだ。
あっはっは、ジャリジャリいってるよ。まっずーい。
よしよし、まずいけど、おむすびは確かにここにある。
そうであるなら、やることは唯一つ。
僕はジャリおむすびをゴクリと飲み込み、人差し指を1本突き出して、高く掲げた。
「ここから、楽しい楽しいお絵描きの始まりだ!!」
◇◇◇
どれだけの時間がたっただろう。
あいも変わらず外ではクマジャナイが待ち構えており、時々怒号をあげているな。
あいつも飽きないものだ。
とっととどこかへ行ってくれると嬉しいんだけどね。
だけどまあ、今はそんなこと気にしている場合ではない。
僕には、やらなきゃならない事がある!
そう、絵を描いたら実体化するという素晴らしいチート能力の検証だ!!
初めておむすびを出してから、僕は眠りもせずにずっとお絵描きを続けている。
描いては出して、また描いて。
描いた後の絵が実体化することもあれば、何も変わらないこともある。
何が違っているのかを考えながらずっと描き続けているのだ。
楽しくって仕方がない!
ちなみに僕の周りが食べ物で一杯になっているのはご愛嬌ってところだよね。
7日間の絶食は正直、死ぬ程こたえた。
「ご飯が食べられるって最っ高!」
失って初めて、ありがたみを理解できたよ。
これからは日々ご飯を食べられることに感謝して生きていこう。
ああそうだ、検証の結果をまとめておこうかな。
まず、僕の絵が実物に変わるのは間違いない。
それはもう確定だ。
絵が変わるときと変わらない時がある理由も大体わかった。
僕がその絵に想いをどれだけ込めているかということ。
そして絵自体の精密さに関係しているようだね。
砂の上に指で描いた絵では、どうしても精密さに欠けていて絵が実体化しても良いものにならない。
初めて実体化したおむすびのように、命がけの想いがこもっていれば話は別のようだけれど。
それと同じ理由で今は簡単な物しか描き出せない。
食べ物でも、手のこんだものは無理だ、砂地に細かく描くなんて不可能だからね。
りんごやゆで卵といったように、比較的簡単に描けてイメージ出来るものが実体化しやすい。
例えばハンバーガーだと何度試しても無理だった。
「だからこんな物を描いてみました〜」
僕の絵が光り実体化したものは、紙である。
質が良いとは決して言えないけれど、砂の地面よりかは間違いなく描きやすいだろう。
そして鉛筆と、平たいボードも同じく実体化させている。
これらも同じく質はあまり良くない。
「よしよしこれで、おむすび描いてみよう」
・・・
・・・・ぺかー!
「おお、なんか見た目と味が良くなった気がする!」
紙には実体化した絵の形に穴が空いている。
連続では描けないようだ。
いいぞいいぞ!
これは実にいい結果だ!
ここからはランクアップお絵描きタイムである。
描くものは、上質な紙と鉛筆とバインダー!あと忘れずに消しゴム!
作戦はこうだ、砂地のお絵描きによって実体化させた低品質の紙に、もっときれいな紙をイメージして描き込むのだ。
そしてさらに出来た紙にもっと上質な紙を描いてっと。
・・・
・・・・・
「よっしゃー!描いてても引っかかりの無い紙で出来たノートと、愛用していたシャーペンと消しゴムのソックリさん、あとは描きやすい角度で持ち運びできるバインダーができたー!!」
ついに完成したのだ、最強セットが。
何度も何度も描いては出して、また描き込んでを繰り返した努力の一品である。
これでガタガタの線ともオサラバだね。
僕は首にかけたベルトでバインダーを固定し、そこにノートをセットして、シャーペンを構えた。
「これで、描けるぞ!細かく、しっかりとなぁ!!」
そういって僕はニヤリと笑った。
・・・
・・・・
うおーたのしー!!
出てくる出てくる!
僕の考えて、描きあげた絵たちが現実世界へと!
まだ実体化出来ないものもあるけど、出てくる確率とクオリティーは桁違いに上がった。
もう興奮しっぱなしである。
しないほうがおかしいだろ?
万能感やっべえやっ!って感じだね。
やりたいことは無尽蔵に思いつくから片っ端から試しちゃってる。
絵を描くスピードがこんなに遅いと思ったことはない。
描いても描いても描き足りないんだよ!
「おっはー!これはきちんと実体化したー!」
光ってから浮き出したのは、A4ノートの見開き分一杯に描きこんだ小太刀だ。
いや正確には懐刀といった方がいいサイズ感だろう。
鍔のない木造りの鞘ごしらえで描きあげてみた。
絵のイメージ力を高めるために、鞘と刀身とで別々に描き込んだので良い感じの出来栄えだ。
見た目はあれだ、斬鉄剣の小さいバージョンである。
「うお、意外と重いなこれ!?」
地面に置いたノートの上に浮かび上がった小太刀を、持ち上げてみて思わず呟いた。
前に持った竹刀より重いんじゃないか?
小さいのに、鉄ってやっぱり密度が違うんだなあ。
やはり地面に置いて絵を完成させるのが正しい運用方法だね。
先程まで首掛けベルトを使い、バインダーをセッティングしてノートに描いていたのだけど、これが悲劇を生んだ。
お皿が欲しいと思い、10枚くらい重ねたお皿を描いたら、見事に実体化してくれた。
してくれたのだけど、陶器のお皿10枚は超重量だったんだ。
首がへし折れるかと思ったぞ!!
その出来事を教訓に、後もう少しという所まで絵が描けたら首から外し地べたで描くことにしている。
今回の小太刀も、鞘と刀身を別々に描き込んであるので、地面で実体化させて正解だった。
もしバインダーの上で斜めに実体化していたら、僕の方へと刃物が滑り落ちてきていたかも知れないのだ。
恐ろしいにもほどがあるよ。
「うお、めっちゃよく切れるな!かっこいい!」
さっき実体化させたリンゴを切ってみると、驚くほど簡単にサクッと真っ二つになった。
家庭用包丁しか握ったことのない僕には異次元の切れ味である。
・・・でもまあ。
「うーん、やっぱり重い、これを使いこなせる気がしないどうしたものか」
お皿にのったハンバーガーを手に取って、もぐもぐしながら思案する。
ベーコンレタスバーガー美味しい。
「大きい紙を作って日本刀を描きだそうと思ったんだけど、さらに重いのは間違いないしなあ・・・」
ちなみに武器と食べ物ばかりを描いていた訳ではないよ。
ノートに描けるようになってからすぐに全身の服は一新した。
いつまでも下半身丸出しではいられないからね。
今は動きやすい上下スエットを着ている、おうち感があって実に良い。
あとはライトだね。
手元が明るいほうが描きやすいので、電気スタンド風のライトを設置してある。
その他にも色々と生活潤いグッズが増えている。
「いやー、秘密基地作ってるみたいで楽しいなあ」
そんなこんなで色々と描きまくっているのだけど、その結果どうしても実体化出来ないもの、というのがあると分かった。
その一つが命あるものである。
どんなに小さくても、どんなに簡単な見た目でも無理なんだ。
僕の想いや想像力、絵の精密さに関係なく実体化への手応えが全く無い。
きっと、能力の対象外なんだろうね。
本気で出来ちゃったらどうしようとか僕もちょっぴりビビってたし、出来なくて良かったということにして、まあそこはあきらめよう。
「武器はどうしようかな・・・」
密林には危険が一杯だ。
僕のような非戦闘民族が居ていいような場所ではない。
戦えるようになる武器か、せめて身を護るための何かが欲しいな。
「ううーむ、銃とか?・・・でもなあ、的に当たる気がしないし・・・・あららっ?」
色々考えながら、次に描く絵を思案していると、スタンド風ライトの電気が消えた。
こんな穴蔵にコンセントとか無いので、充電バッテリー搭載型を描いたのだけど、数時間くらいは点けっぱなしだったし、そろそろ充電が必要らしい。
また新しい付け替え用バッテリーの絵を描くかと思い、ノートにシャーペンを走らせようとした瞬間・・・
ーびびっと思いついた。
「電気の充電されたバッテリーを実体化出来るならもしかして!」
あまりにも素敵な思いつき過ぎて、電気の消えたスタンドのことも忘れて次なる絵を描くのに没頭し始めたのだった。
読んで頂きありがとうございます。
皆様は前書きとかは読む派ですか?
僕は結構好きで読んでます。
濃厚なやつとか書いてみたいですけど、ドン引きされそうなので自粛しましょう。
良かったら、☆印の評価なんか入れて頂けると、ものすんごーく嬉しいです!
投稿日2024年 03月03日