12・5,カイゼルの思惑
差し込み投稿のやり方が分からなかったので、取り敢えず投稿!!
今日も天気が良いですな!
愛用しているハンチングの鍔先を、指でつまみながら空を見上げる。
わたくしはカイゼル商会を率いる身ですから、本当は行商の旅に出ずとも、人に指示を出すだけで商売は成り立ちます。
ですがこんな日は、行商に出て良かったと、心から思わせてくれますな。
今回の行商は、特に問題も起きずに予定調和に近いものがありました。
少々物足りない気持ちもありますが、そこはリフレッシュにもなったということで、良しといたします。
さあ、城郭都市へはもう少しの所まで来ておりますが、最後まで気を引き締めて参りましょう。
「カイゼルの旦那、先の街道でちーと不穏なやり取りがあるようですぜ」
護衛のランバリオンさんが、馬車に近寄り報告を上げてくれました。
彼はことのほか優秀な男で、わたくしの専属にならないかと、何度も打診をかけているほどです。
まあ、まだ良い返事は頂いておりませんが。
そんな彼がニヤリと笑いながら上げる報告、気になるじゃありませんか。
「どうしました?詳細をお願いします」
「はいよ。奴隷商の一行が、無知そうな坊やとお嬢ちゃんを攫おうとしてますね」
「・・・はあ。なるほど」
いくら都市の外とは言え、こんな整備のされた街道で人攫いとは。
どこの愚か者でしょうか。
わたくしの商会は、奴隷など扱っていおりませんからね。
部下がやったことで無いことが確かなのは、本当に良かった。
「もし、助けに行かれるんでしたら、早めに行った方が良さそうですぜ。血の雨が降りそうだ」
続く報告に、わたくしは目を丸くしました。
奴隷として攫うのに、命に関わるような怪我を負わすとは考えづらい。
ということは、危ないのは愚かな奴隷商の方であるという事だ。
ほんの少しだけ。
では放置でも良いのではないか、と言う考えも浮かびましたが、軽く頭を振って追い出します。
流血沙汰なんて起きなければ、それに越したことなど無いですからな。
もしかしたら、恩だって売れるかもしれません。
「直ぐに向かいます、案内して下さい」
「ごっはっは、了解ですぜ旦那」
ランバリオンさんが案内した場所は、ほんのすぐそこの場所にある街道の端でした。
確かに何やら不穏な気配を感じます。
ううむ、馬車には商会のマークなども入っておりませんし、はなからまともな商売をする気が無い輩のようですな。
そんな無法者に近い者共に周りを囲まれていたのは、ウサギの耳をした白く美しいお嬢さんと、狼狽えるばかりの年若い少年でした。
なるほど。
もし攫ってしまえれば、お二人とも大変高値がつくでしょうな。
ですがそれは、愚か者の妄想です。
「どうかされましたかな?」
わたくしは、双方を出来るだけ刺激しないように注意して、声をかけたのです。
・・・
・・・・・
馬車の上で見せられた品々は、実に、実に実に極上で御座いました。
あれからヨシさんとお嬢さんを助けて、馬車に乗り込んで頂いております。
助け出す際に、今回の行商で残しておいた手持ちの殆どを使いましたが、そんなことは些細なこと。
ヨシさんが鞄から取り出した商品は、とてもではありませんが、わたくしの想像の範疇に納まるものではありませんでした。
異国の素晴らしい切れ味を持つ短刀に、製法に全く心当たりのない純白の皿・・・
そして何より、拳よりも大きなクリスタルです。
わたくしの目に間違いが無ければ、これはダンジョンでドロップする聖なるクリスタルですな。
長らく城塞都市で、商売に携わっておりますが、これほどの大きさの物は見たこともありません。
一体どれほどの値付けになるやら、想像も出来ないというのが本音でございますな。
手持ちの足り無いわたくしに、ヨシさんは買えるだけで良いので、と仰っておりましたが、そんな訳には参りません。
商売人としてのカンが告げています。
この縁は素晴らしいものとなる、絶対に次へと繋がなくてはならないと。
わたくしは、店までご足労して頂けるよう懇願いたしました。
ヨシさんが、一緒に来てくれると言うまでは、地面に頭を擦り付けてでも頼み込み、はいと言うまでは逃がすつもりなど毛頭ありません。
・・・これでは、人攫いのことを悪く言えませんな。ははは。
・・・
・・・・・
商談室にて、ヨシさんが鞄から出してくれた商品を、鑑定いたしました。
全て、まごう事なく高値がつくであろう逸品です。
しかも、クリスタルに至っては拳より大きい物が、5つもありました。
意味が分かりません。
1つだけでも、所持していては出所を怪しまれるような物ですからな。
きっと、とんでもない秘密がある。
そう感じさせましたが、本人が言わないことを問い正すようでは、商人として三流も良い所でございますからね。
例えヨシさんが商品を取り出した鞄が、こんな沢山の物が、絶対に入らないであろう大きさであったとしてもです。
脳裏にちらりと、アイテムボックスという単語が脳裏を過りましたが、気にしてはいけません。
わたくしは、商品の鑑定に全力をそそぎましょう。
「それでは、占めて金貨225枚になりますな、お確かめください」
「・・・おおぅ」
積み上げられた金貨に、ヨシさんは戸惑いを見せております。
確かに一般的に彼くらいの年齢で、目にすることは無いであろう金額ではありますな。
ですが、お話しをしておりますと、どうやら金額に驚いたわけでは無く金貨そのものに戸惑っているだけのようでした。
「もし小金貨が使いにくいようでしたら、数枚ほど両替を致しましょうか?」
「いえ、問題ないです」
そして金貨の換金も不要とのこと。
これは中々に難儀ですね。
金貨に縁が無いのは、ヨシさんの年齢を考えるなら、まあ普通でしょう。
ですが、城郭都市だけでなく、この辺り一帯ではある程度までのお金のやり取りは、大銅貨が主流なのです。
今回のような大金を取り扱う商いで無い限り、金貨など使いづらい。
換金を断るということは、ヨシさんとお嬢さんは、旅人のような服装をしておりますが、全く旅慣れていないと言うことです。
そしてそれを隠すことが出来ないほどに、知識を持ち合わせていない。
これでは、また先程のような悪意ある者達に目を付けられるのは時間の問題ですな。
わたくしは、ヨシさんにお渡しする予定の巻物に、少々のおせっかいを紛れ込ませることにしました。
・・・
・・・・・
「ーーふう」
ヨシさん達が乗った馬車をお送りした後、わたくしは、先ほどの商談部屋に戻って一つため息をつきました。
「ごはは、お疲れのようですな」
椅子に座ったランバリオンさんから、声が掛りました。
部下へと頼んで、ランバリオンさんを部屋へと招いてもらっていたです。
わたくしも椅子に座りながら、言葉を返しました。
「ええ。信じられない程に、興味深いお二方でしたからな」
「あのお嬢ちゃんの方は、俺から見ても破格でしたぜ」
「わたくしとしましては、ヨシ君の方があり得ない面白さでしたが」
そう言い合って、お互い笑ってしまいました。
ひとしきり笑った後、本題を切り出すことにします。
「依頼をお願いしたいのですが」
「あの二人を見守てりゃ良いんですかい?」
「さすが、話しが早いですな」
ランバリオンさんは肩をすくめながら答えました。
「あいつ等見てたら、危なっかしいのは分かりやすぜ」
「それでは、報酬はこちらでいかがでしょう?」
用意しておいた、じゃらりと重い革の袋を手渡す。
「ほほう、良いんですかいこんなに」
「それが、ヨシさんなら値段交渉なども仕掛けてくるかと思ったのですが、当てが外れてしまいまして。かなり少なめな金額をお渡ししているんですよ」
「ごははは!ありゃまた、やっちまってますね」
「その分を報酬に上乗せしますので、手厚くお願い致します。・・・はあ。あの少年には、ことごとく想像の外を行かれますな」
また笑い始めるランバリオンさんに、少々苦い顔をしていまいました。
考えられないほどの魅力を持った、危うい程に純粋な少年。
ふーむ、今後も目が離せませんな。
そんなことを考えていると、ふといつもの言葉を伝えたくなった。
「ああそうだ、ランバリオンさん。そろそろ専属護衛の話しは受けて頂ける気になりましたか?」
「ごっはっは。いつも唐突ですねえ」
「唐突も何も、受けて頂ければ1回で終わりますよ」
ランバリオンさんは、すっと椅子から立ち上がって、答えた。
「今後とも御贔屓に旦那」
チャラりと革袋を振り一礼して、部屋から悠然と出ていくランバリオンさん。
ははは。
また今日もフラれてしまいましたか。
でもまあ、諦めるつもりはありません。
わたくしは、欲しいものは手に入れる。
正攻法の中なら手段は選びません。
さて、ヨシさんはわたくしの、欲しい者になってくれるでしょうか?
とても楽しみですな。
ご覧いただき有難うございます。
カイゼルさん一行と出会った時の話しです。
カイゼルさん視点ですね。
視点を変えて、のはなしも差し込んで行ければなとおもいます。