2,ある日森の中、熊さん?に出会った
「なんで密林に居るのか、全く身に覚えが無い!!」
思い返しても、昨日は普通の一日だった。
いやまあ、竹刀で素振りをしたのが少し特殊だったけど、密林にいるのと比べたらいたって普通だよね。
・・・じゃあ、なんで僕はこんな所にいるんだよ!?
改めて周りを見渡す。
シダっていうのかな、原住民族とかがお皿にして、焼き魚などを乗せてる風の葉っぱがボーボーに生えている。
空気がなんだろう・・・濃い?
ムワッとしていて、すこし息苦しいよ。
ーガサッ
「うお!なんだ!?」
何かが僕の座ってる倒木にジャンプしてきた。
・・・ああバッタか・・・って、デッカ!!
こいつ30センチ近くあるぞ!?
僕は虫の王者を決めるゲームを、プレイする位には虫好きだけれど、それでもドン引きのサイズ感である。
というかこの風格、もうお前が王者だろ。
・・・うん、そう思うと少しカッコよくも見えてきた気がするな、だって強そうだもん。
王者の風格ではあるけど、見た目はバッタだから草食なのかな?
だけど、あの口に噛まれたら指とかなら簡単にポロリといきそう。
め、目があった!
やっぱり怖い!こっち見んな!!
僕は出来るだけゆっくりと腰を上げて、移動し始めた。
万が一こっちにジャンプしてきても避けられるように目線は離さない。
少し動くたびにシダがピシピシ当たってくる。
僕が今着ている服は、パジャマとトイレスリッパだ。
近くのコンビニに行くのすら遠慮したい服装なのに、何故か今は密林をぬき足さし足すすんでいる。
歩きにくいったらない。
やっとの思いでシダの茂みに入った所で、さっきまで座っていた苔むした倒木に、また何かが飛来した。
ースコンッ!
「ーーーえ?」
飛来した何かは、倒木にいた昆虫王者を貫いた。
王者がビクンビクンと痙攣している。
・・・なにコレ・・枝?
ガサ、ガサガサガサ!
何がおきたか理解す暇もなく、少し離れた所にあるシダの茂みが掻き分けられた。
「ゲギャ!」
「ゲギャギャッギャ!」
「ギュギャ!」
「ーーーーーー!?!?!?」
そいつらの体は深い緑色だった。
背は小さく、猫背でガニ股、醜悪な顔・・・
シダを掻き分けて現れたその姿を見て、叫ばなかった自分を褒めてあげたい。
だって、その姿はそのままファンタジーに出てくる・・・
ゴブリンそのものだったのだから。
え、なに?なんなのマジで!?
ゴブリンだよなやっぱりアレ!!
1、2、3・・・3体茂みから出てきた。
こ、こっちにはまだ気がついてない??
周りをキョロキョロ見渡している。
僕の入ったシダの茂みからほんの5メートル先に3体のゴブリンがいるのだ。
心臓が大きく脈打っているのが分かる。
気がつくな、頼むからこちらに気が付かないでくれ・・・
「ギャギャギョ!」
その願いが通じたのか、ゴブリンの1体が倒木の方を指さした。
そこには枝に貫かれた昆虫王者がいる。
あ、そうか。
よく見たら、昆虫王者を貫いた枝の先に、羽のようなものが付いている。アレは矢だったのか。
ゴブリンの1体は簡易的な弓だと思われるものを持っているしね。
他は棍棒を持ったゴブリン1体と、荷物持ちだろうか?
担いだ棒には、大きくて茶色いウサギのような生き物が括り付つけられている。
ウサギは血まみれだから、きっと死んでいるだろう。
荷物持ちのゴブリンがウサギ付き棒を放りだして、矢に刺さった昆虫王者の所に走り寄る。
そして矢を引っこ抜いた勢いで後ろに転がった。
「げぎゃ!?」
「グッギャッギャw」
「グギャッッギャッギャw」
なんかコケたやつが笑われてるな。
あ、笑われて怒ったのか、腹いせに昆虫王者にかじり付く。昆虫王者の頭は無惨にかじり取られた。
王者ーーー!?
頭を咀嚼しながら荷物持ちゴブリンは幸せそうな顔をしている。
「ゲギャーー!!」
「ごぎゃ!?」
棍棒ゴブリンが、幸せそうな荷物持ちゴブリンの頭をグーパンチでぶん殴った。
「ゲギャギャ!!」
「ギャゴー・・・」
棍棒ゴブリンに引きずられて荷物持ちゴブリンが連れて行かれる。
「ギョッギョッギョギャw」
それを見て爆笑しながら、弓矢ゴブリンが、ウサギ付き棒を担いで後をついていった。
・・・
・・・・
「ーぶはあっ!っはあ、はあ、はあ」
ゴブリンが去って結構たってから、ようやく大きく息を付いた。
やべえ、絶対やべえよ!
だってあいつら大きなウサギっぽいの捕ってたぞ!?
ウサギなんて弱いと思ったら大間違いだ。
小学校の頃、飼育当番でウサギ小屋の掃除をした時に、ウサギの喧嘩に巻き込まれた事がある。
まさに電光石火!奴らの機動力は人間の対抗できるものでは無いんだからな!
僕は為すすべもなく、傷まみれにされ泣かされたんだ。
それをゴブリン達は狩猟出来る。あと昆虫王者も毟り食べてたし・・・
つまりはゴブリン>ウサギ=?昆虫王者>僕という公式が成り立つ訳だ。
いやーゴブリンを狩る人たちって、簡単に狩ってるように見えてやっぱりスゲーんだなーって思うよ。
実際に見たら迫力が違うね迫力が!
僕じゃこれっぽっちも勝てる気がしないもんな。
・・・
・・・・・って、違う!そうじゃない!!
なんでいるんだよゴブリン!?
お前らは実際にいちゃ駄目な奴だろ!あんな深緑の小人は地球上に存在しないはずだ!!
ちょ、ちょっと冷静になって考えてみよう。
えーと、えーーっと。
よ、よし、地球上にいるはずのないゴブリンが、何故かいる理由について2つほど思いついた。
まずは可能性の1つ目。
僕の脳みそは今、ほっぺをつねっても覚めないほどの圧倒的な幻覚を見ている。
ゴブリンは僕の脳みそのバグによる幻覚だし、密林も同じく幻覚だ。
実際の僕は、精神をケアする病院で回復を目指して療養中という状態である。
そして可能性の2つ目。
僕はゴリゴリのファンタジー系異世界に来てしまった。
ゴブリンは普通に闊歩しているし、ソレを狩る人もいて剣や魔法を駆使して戦っている。
・・・
・・・・なんとか筋は通っている気がする。
ただ、ファンタジー世界には行ってみたいけど、そんなのある訳がないさ。
現実的に考えるならば、脳のバグによる幻覚説が正解だろうね。
それでも僕は、こう言わずにはいられなかった。
「ステータス、オーープンッ!」
・・・・しかし、なにもおきない。
「開けアイテムボックスッ!!」
・・・・手の平を上にかざしてみたけど無駄だった。
「鑑定ッ!燃えよ炎ッ!光あれッ!エクスプロージョンッ!魔剣よこいッ・・・・・・・・・・」
・・・・思いつく異世界っぽい言葉を、片っ端から唱えたけれど、全くもって反応がない。
試しに近くにある木を殴ってみた。
・・・木はとても硬く、拳がめちゃ痛い。
じんじんとする痛みはまるで、これは現実だと言われているかのようだね。
ーこ、これはマズイ。
もし僕が入院中なのだったら良い。
いや全く良くないが、この際おいとこう。
万が一にもファンタジー世界に飛ばされたのだったら、認識を変更しなくてはならないぞ。
変更された内容はこうだ。
僕はゴリゴリのファンタジー系異世界に飛ばされてしまった。
ゴブリンは普通に闊歩しているし、ソレを狩る人もいて剣や魔法を駆使して戦っている。
【ただし僕には剣や魔法は無し、チートだって存在しない】
妄想から覚める気配の無い僕は、この何がいるか分からない密林から、サバイバル知識と道具を一切持っていない状態で、抜け出さなくてはならない。
ーそんなのハードモード過ぎるだろう!?
「・・・ええええええー・・・」
あまりの絶望に、やる気とか気力の一切が消え失せて行くのが分かる。
ちょっとさすがにコレは無理だって・・・
もう頭を抱えて現実逃避してしまいたい。
そんなことしてもどうにもならないし、こんな所にいたら命だって危ない。
でも動いたって危ない気がするし・・・・
ーグオオオオオオオオオオオォォォォンッ!
ー唐突に
大気を震わせて、とんでもない音量の咆哮があたりに鳴り響く。
ヒィッ!?
その咆哮を聞いて、僕の心臓と体は跳ね上がった。
な、なんだ今の!!
鳴き声が衝撃波みたいに体を揺さぶってきたぞ!?
沢山生えてるシダも放射状に倒れている。
その倒れたシダの中心、木々の隙間から咆哮の主が見えた。
・・・あれは・・・耳の長い白熊?
2つの足で立ち上がったその姿は、知識としてだけある白熊に似ていた。
でも違う。
まず異常にデッカイ!!
遠足の時に乗ったバスよりデカいんじゃないか?
まだ結構距離はあるのに遠近感がおかしい。
そして何より、赤いモヤみたいなのが体から揺らめいている、血の霧みたいだ。
見た目は白熊っぽいのに、完全に別物だと理解できた。
「な、なんだアレ・・・」
耳の長い白熊?が遠方からコチラを凝視した。
明らかな敵意を感じる。
初対面だよな!?なんですでにキレてるんだ!?!?
「にげなきゃ・・・え?」
体がうごかない、振り向こうとしても固まったようになっていて、殆ど動けないのだ。
僕がオロオロとしている間に、耳の長い白熊?は4足歩行となってこちらに走り始めた。
バサッ!バサッ!という草をかき分ける音が聞こえてくる。
動作はもっさりとして見えるのに、とんでもないスピードだ。
その巨体がどんどん迫ってくる。
「う、うわああああああ!!!」
圧倒的恐怖に少しだけ足が動く。
「いってえ!?」
スリッパしか履いてない足の、肌が出ている部分に小枝が刺さっていた。
地味だけど涙が出るほどの痛みにバランスを崩し尻もちを付く。
スガアアアアアアアアアアン!!!
僕の上半身が、さっきまであった所へと、耳の長い白熊?が盛大に飛び込んでくる。
そして勢い余って、後ろの大木に頭から突っ込んでいった。
交通事故かと思うような音に続いて、メギメギと大木の折れる音が鳴り響く。
土煙があがりパラパラと木片が舞い散っている。
「・・・・・!?」
凄まじい破壊力である。
もし僕に当たっていたら、今頃は粗挽きミンチのいっちょ上がりだっただろうな。
この威力で頭からぶつかって行ったんだから耳の長い白熊?死んだんじゃ・・・・
バキバキ・・・メキ・・メキキ・・・
真ん中からぶち折った大木の木片を振り払いながら耳の長い白熊?はゆっくりと起き上がり始めた。
「うひいいいい!?」
こ、今度は体が動く。
早く・・・早くにげるんだよおおおおおおおおお!!!!
僕は今までの人生で1番激しく起き上がり、全身全霊を込めて走り出した。
それを見て、耳の長い白熊?もまた動き始める。
やべえ、やっぱり超はええええ!!
この耳の長い白熊?のトップスピードは、とても人間が走って逃げられる速度じゃない。
サイズもそうだけど、速度もまさにバスだ。
スリッパを履いて不器用に走っている僕なんて、一瞬で追いつかれる。
「ちょ、まっ、死ぬ!死ぬ!?」
ドゴオオオオオオ!!!
ぶつかる寸前に、なりふり構わず命がけで横に飛んで難を逃れた。
どうやら、この耳の長い白熊?は急には曲がれないのかも。
「ぐっべ!!」
とはいえ、殺す気で突っ込んでくる遠足バスを、むりやり回避したようなものだ。
僕は勢い余って転がり、全身を打ちまくっている。
でも痛がっている場合ではない。
今度は歯を食いしばってすぐに起きあがり、わきめもふらず走り出した。
ーグオオオオオオオオオオオォォォォォン!!!
またもや白熊?の声が響き渡る。
それに反応して体がびくんと跳ねてよろけてしまうが、今回はそれだけだ。
何とか走り続けることが出来た。
後ろからまたもや地面をえぐり、巨体が走り始める音がする。
僕は恐怖のあまり、近くにある出来るだけ立派な大木の、裏側へと逃げ込んだ。
「グギャギャッグギャ!!」
「うわ!な、なんだっ!?」
走り込んだ大木の裏には先客がいたようである。
深緑の醜悪な小人、そうゴブリンだ。
荷物持ちに、棍棒に、弓矢ゴブリンの3体だから、さっきの奴らか!
「グギャ!グギャギャギャ!」
「ちょ!?ちょっとまってよ!!」
弓矢ゴブリンがいきなり、こちらに引いた弓矢を向けてきたのだ。
小さな弓矢とはいえ、当たったら痛いじゃすまされない。
運が悪ければ命に関わるだろう。
ーでもそんなことやってる場合じゃ・・・
ドッゴオオオオオオオオン!!!
背後の大木が弾ける。
大木からは、すぐに離れるつもりだったのに、ゴブリンのせいでそれが出来なかった。
僕は風圧でふっとんで、またもや地面を転がる。
仰向けで叩きつけられるように止まった体へと、痛みを無視して力を入れて立ち上がろうとした、でも。
・・・頭がくわんくわんする。はやくおきあがらなくちゃ・・・
意思に反して体は動いてくれない。
揺れる視界で何とか周りを確認する。
すると、すぐそこには、耳の長い白熊?がその巨体を持ち上げ立っていた。
その巨体の全身は、近くで見ると血まみれだ。
しかしその血を、揺らめく赤い煙に変えて仁王立ちする姿はまさにモンスター、恐怖そのものであった。
・・・あ・・・僕しんだ?
ーあれ。
耳の長い白熊?がこっちを・・・見ていない。
視線をたどると、そこには3匹のゴブリンがいた。
ゴブリン達は、恐怖に震えながらも武器を構え、必死に威嚇している。
そんなゴブリンたちに対して耳の長い白熊?が鳴いた。
「グオ・・・オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!」
それは、今までの鳴き声とはどこか違う。
悲痛さを感じる叫びだった。
突如、耳の長い白熊?がその非常識なまでにデカい前足を振るう。
ーパギャ!・・ベチャ!
鈍くも軽い音がして、3匹の先頭で棍棒を構えていたゴブリンが吹き飛んだ。
そして僕の近くに生えていた木にぶつかって、飛び散った。
ゴブリンって緑色だけど血は赤いんだな。
どこか他人事な感想が頭に浮かんできた。
まだ僕がああなっていないのは、運がいいだけだというのにね。
あまりの惨劇に、残ったゴブリン2匹が戦意を完全に無くして逃げ出した。
それを見て耳の長い白熊?は怒り狂って走り始める。
その速度差は絶望的で、きっと今にも追いつかれることだろう。
・・・って見ている場合じゃない!
僕はすぐに正気を取り戻した。
気力を振り絞り何とか起き上がる。
ぐう・・あ・・キツイ・・・
「はあ・・・はあ・・・」
体力はすでに限界で、体は余すことなく痛く、服はボロボロである。
「スリッパ・・どこだ・・・」
・・あった。
意外と近くに落ちていて助かった。
運が良いんだか悪いんだか。
・・いや、今日の運勢とか最悪だろコレ。
一体何がおきて、どうなってるんだ・・・?
考えても答えなど出るはずがない。
そんなことより今は少しでも、後ろから聞こえてくる凶悪な鳴き声と破壊音から遠ざかるのが先決だ。
僕は恐怖に背を押され、軋む体を引きずるようにして歩き始める。
・・・
・・・・・
少し歩いたら、密林の中でも、より明るい方角がある事に気がついた。
僕は呼ばれるように、縋るように、そちらに向かう。
すると、あまり時間もかからずに視界が開けた。
そこは密林のぽっかりと空いた場所みたいだ。
地面には草すら一切生えておらず、数百メートルほどに渡って砂地を晒している。
そして奥には、地層がズレたような崖が行く手を阻んでいた。
・・・あ、水が流れている。
さらさらと流れる水は、岸壁の下の方から溢れ出するように流れていた。
物凄く喉が渇いたな。
でも、草木も生えない土地の生水とか、飲んじゃ駄目な気がする。
そう思ったけど、ついふらふらと流れる水の方へ近づいて行った。
遠くの方に見える水の出口は、めちゃくちゃ固そうな岩肌にポッカリと穴を開けているようだ。
穴は直径1メートルくらいの大きさだろうか?
・・・つめたい。
手ですくった水はヒンヤリと冷たく透き通っていて、火照った手に心地いい。
喉がゴクリと鳴った。
あの白熊?に散々追い回されて、体はフラフラのボロボロ、喉はカラカラなんだ。
飲んじゃ駄目なのに、すくった水が輝いて見える・・・
グオオオオオオオオオオオオンッ!!
そんな誘惑に負けそうになっていると、またしても耳の長い白熊?の鳴き声が響き渡った。
嘘だろう!?
「ゴブリンはどうしたんだ!?・・・もう勘弁してくれよっ!!」
何を言っても全くの無駄なようで。
耳の長い白熊?は草木を破砕し、密林から飛び出して来て、こちらへ向けて走り始める。
ど、どうする!?
ここは密林が開けてしまっていて、隠れる木なんて無いぞ?
耳の長い白熊?の突進をぎりぎりで避けて岸壁にぶつけるとか?
・・・いや、ボロボロの僕じゃ絶対に避けられない。
ど、どうすれば・・・
そこでふと岸壁に空いた穴が目に入った。
流れる水が開けたであろう、固そうな岸壁にある1メートルほどの穴である。
いけるかも知れないと思ったと同時に、僕は走り始めた。
いや、走る力なんて残されておらず、よろめく体を支え引きずった。
それに対して耳の長い白熊?は憎悪が有り余っているようで、恐ろしい速度で迫ってくる。
死の恐怖を後ろに背負って、僕は穴に飛び込んだ。
ーな、なんとかぎりぎり間に合った・・・
スドオオオオオン!
耳の長い熊?は勢いもそのままに穴へと突っ込んできた。
うおわ!?
耳の長い白熊?が思ったより、穴の奥の方まで体をネジ込んできたぞ!!
ただ、無理な体勢ではあるらしく、こちらが見えている訳ではないようだ。
伸ばした爪を闇雲に振り回してきた。
その爪が僕のズボンの端を捉える。
「え!?っちょ!ウソ!?」
そのまま、凄い力で僕の体が穴から引きずり出され始めた。
「うわあああああ!?」
腰の所で結んでいたズボンの紐を、ほどく余裕なんか無い。
ちょうちょ結びを、引き千切るくらいの気持ちで腰からズボンをずり下げる。
するとズボンは勢いよくすっぽ抜け、洞窟の外へ引っ張り出されていった。
僕は、残された力の全てをつぎ込み、四つん這いで穴のさらに奥へと逃げ込んだ。
ああ・・なんかパンツまで無い。
丸出しだよ。
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
外で叫び狂う耳の長い白熊?の声が穴に反響してめちゃくちゃうるさい。
「ーーはあ・・はあ・・・はあ・・・はあ・・・・」
でもそのうるささが僕にこう思わせてくれた。
生きてる・・・
ーそう。僕は命を永らえることができたのだ。
「たす・・・かった・・・」
ーべしゃ。
生を実感した瞬間、体から力が抜けて穴の中で流れる水の上に、僕は崩れ落ちた。
ご覧いただき有難うございます。
性格なのか、投稿するのって結構気を使いますね。
穴が開くほど見直してから送り出してます。
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