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19,また活躍してもらおう




「おうわっ!?ヨシ坊!!お前何だソレ!!どっから持ってきた!?」


シュバッシャァァァァァーーーーー!!


消防車に設置されているタイプの野太いホースから、僕の体が宙へと浮きそうな勢いで水が放出される。

全身でホースを抱えて移動しているけど、かなりキツイなこれ!


「はっはっはー!もうすぐに追いつきますよーー!!さーて綺麗に洗い流して差し上げましょうねっ!!」


それでも僕は床に向けて、あわ良くばゴリラ顔を巻き込む勢いでもって、ハイテンションな放水をつづける。

もうウォーターキャノン・ハッピーだ。


「はあ、はあ、・・・お、おいヒョロガリ・・・はあはあ。ちょっと、や、やり過ぎじゃないか?」


めちゃくちゃ重いホースを、手繰り寄せてくれているザムザが、疲労困憊ながらも口を挟んできた。

確かに床面で弾けた汚水が、ブジャーっとゴリラ顔の方に飛び散っている。


「大丈夫だよザムザ!僕とゴリラ顔の仲らしいからね!!」

「はあ、はあ・・お、おう、でもだな・・・この道具も意味解んないし・・・」

「いやまあ、うん。そんなことより体力は大丈夫かい?ハバナさんに追いつけたら、ご飯奢ってくれるし、またナデナデしてもらえるらしいから、気にせず頑張ろう!」

「そ、そうか・・・はあはあ、そうだな・・・まだ、まだあ!うおおお!!」


ご褒美を目当てに、迷いを捨て力を振り絞るザムザ。欲望に忠実な所がクマジャナイと似ているな。

なんだか仲良くなれそうだね。


ちなみに、クマジャナイはというと、溝の上でホースを送り出す作業と、すぐ近くに流れる川へと差し込んだ超強力給水機を、見張る役目をしてもらっている。

特に追加で描いて実体化させた延長ホースは、合計で400メートル程もあり、到底僕では動かすことが出来ない重量だ。

押し出すクマジャナイと引っ張るザムザは共に、この作戦に無くてはならない存在である。


シュバッシャァァァァァーーーーー!!


惜しい!あと少しの所で当たらなかった!


「ぐほぉ!何すんだ!明らかに俺を狙ってるだろ!?」

「何いってるんですか?僕は床を磨いてるんすよ!当たりそうなのは、前の人の作業が遅すぎるだけじゃ無いですかー?」


僕の言葉に嘘は無い、手を抜かず順当に床を磨いている。

ただその速度が早すぎて、うっかり追いつき、追い抜いてしまうかもしれないだけだ。


「言いやがったなあ!?誰が追いつかせてやるかよ!!ぬごおおおおおお!!」


何だって!?

今までの超人的な汚泥除去の速度から、さらに加速するとは!!

じわりじわりと離されてしまっている。


もう掃除など忘れて、このままゴリラ顔の背中に直接放水してやりたくなったが、グッとこらえる。

ゴリラ顔は、逃げ出したのではなく、あくまで掃除のペースを上げたのだ。

それなのに僕が掃除という大前提を捨てて攻撃などしてしまっては・・・そう、それは精神的敗北じゃないか!!

跳ね上がろうとするホースを、押さえつける両腕へと力を込める。

長時間の酷使に痺れと痛みが走るけども、そんな事を言っている場合ではない。


「ザムザ!もっとスピード上げられる!?」


聞きながらも後ろを振り返ると、


「はひゅー!はひゅひゅー・・・おえっ!」


レロレロになりつつも頑張ってホースを引っ張るザムザが目に入った。

うわぁ、明らかにダメそうだ。


「こ、こうなったら仕方ない」


僕は胸元に抱えるようにホースを押さえつけながら、上着の内ポケットに手をつっこんだ。

そして取り出したのは、魔女の店で見つけたスプラッシュポーションである。

中身は決して殺鼠剤や、性欲剤なんかではない。

無色透明のすごい水、そう怪我治水だ。

昨晩描き出したばかりのスプラッシュ怪我治水だから、ちゃんと割れるかとかの実験もまだしていないんだけどね。

そんなこと言っている場合ではない。


「そいっ!!」


自分の胸元に打ち付ける。

瓶は思い描いた通り、綺麗に砕けて僕の両腕を満遍なく濡らした。

腕から疲労感や痺れが引いていくのが分かる。


「よっし!いいね、こいつは使えるぞ!ーーそいっ!!」

「おぶっ・・・な・・・んだっ・・ーーなにすんだよ!!・・・って、へ!?」


スプラッシュ怪我治水をザムザに投げつけると、最初は驚き怒っていたが、むしろ怒れるだけの体力が戻って来たことに驚いているようだ。


「え、ええ!?何したんだ一体!」

「いきなりゴメン、回復させたんだよっ!体力は戻ったでしょ?」

「回復って、もしかしてポーション!?そ、そ、そんな高価なものを何で持ってんだよ!」


おっと、回復薬は高価な品らしい。

ポンポン使うのは変かな?

ーーいや、でも!


「僕は、何が、何でも!絶対にっ!追いつきたいっ!!行けるかいザムザ!!」


僕は魂の底から湧き上がる気持ちを乗せて、ザムザに問いかけた。


「・・・そうか・・・ああ!!いけるぜええええええ!!!!」


ザムザも僕の気持ちに同調したようで、二人の息がピタリと合った。

放水による清掃が最高の速度を叩き出す。

決して清掃に手を抜かず、早く的確に、ゴリラ顔との差を縮めていく。


「ごはっ!?何だと!!」


驚愕の表情で後ろを振り返るゴリラ顔。

追いつけないと思ったか?

甘いんだよ、捉えたぞ!

そしてもう逃さない!!


「いっけーーーーーーーー!!!」

「うおおーーーーーーーー!!!」

「ちょ、待てやめろぉーーーごば、ゴボ!ぼぼぼぼお・・・・・」


シュバッシャァァァァァーーーーー!!


極太ホースから吹き出す圧倒的水流が、ゴリラ顔を汚泥ごと洗い流した。

足元をすくわれて転倒し、水圧によりもみくちゃに転げている。


さらにしっかりと放水をしてから、スイッチをオフにした。

・・・僕たちは・・・やったのか・・・


ゴリラ顔は起き上がってこない。

僕たちは、やりきったのだ!!


「やったーーーー勝ったーーーーーー!!!」

「うおしゃあああああああーーーーー!!!」


勝利の雄叫びが、排水の溝に響き渡る。

嬉しい、超嬉しい!


「有難うザムザ!!」

「やったなヒョロ・・・いやヨシー!!」


ーぱぁん!


僕とザムザは思わず向き合って、お互いの手と手を打ち合わした。


離れているクマジャナイにも、この気持ちを伝えたい。

そう僕たちはチーム。

皆の力が合わさらなければ、あの強敵を倒すことなど到底出来なかったのだから。

安らかに眠れゴリラ顔・・・


「ごっはあああああぁぁぁぁ!!!!」


ーーずぼっしゃ!!


完璧な結末、物語ならエンドロールが流れてそうな雰囲気の中、突如として汚泥が吹き上がった。


「お〜ま〜え〜らぁ〜・・・」


汚泥のせいか怒りのせいか、くぐもっている声が、低く響く。


「はっ!?」

「・・・あ、ああ・・・」


ゴリラ顔の声を聞いて我に帰った僕は思った。

これはちょっぴり、やり過ぎてるんじゃないかと。


ザムザなんてもう、チワワのようにプルプルしている。


「いや、これはその、ちょーっと調子に乗っちゃったって言いますか・・・熱くなってしまったって言いますか・・・」

「ええとッス、えええっとッスぅ」


とりあえず言い訳をしながら、時間を稼ごうと試みる。

そんな僕達の方へとゴリラ顔は、にじり寄って来た。


「ごっはっは・・・俺は別に怒っちゃいないぜぇ?」

「いやでも、じゃあ何でこっちに来るんですか!?」

「こここ、こわいッスよぉ!」


僕とザムザは完全に腰が引けている。


「俺ぁ嬉しいんだよ。後輩が、俺の屍を超えていってくれてなぁ。まさに感無量ってやつだ」

「そ、そうですか」


足が勝手に後ろへと下がり初めている、圧に押されているのだ。


「そんな後輩たちにご褒美をあげなきゃなぁ・・・ご褒美は最初に言った・・・そう、なでなでだぁ!」


そう言ってゴリラ顔は、その汚泥に塗れた両手をわきわきと動かした。


〜〜ッツ!?

背筋に寒いものがはしり、ブルリと震えあがった。

ゴリラ顔は本気だと気がついたからだ。

恥も外聞もなく僕は、後ろを向いて走り出す。


ザムザは野生の本能なのか、一足先に逃走していた。

ず、ずるいぞっ!

ーーいやしかし、そんなザムザですら、もうとっくに遅かったのだ。


ぬちょおっ!!


何をどうしたのか分から無いけど、離れていた二人の肩に、筋肉がモリモリかつ、汚泥でドロドロの腕が掛けられた。

多分ザムザも、ゴリラ顔に超速度でひっ捕まえられ、連れて来られたのだろう。


「ひぃ!」

「あぁ!」


僕とザムザの顔の間に、ねとりと汚れたゴリラ顔がひょっこりと顔を出す。


「ほーれ褒美だぁ、受け取れぇ」


わきわきと蠢く汚泥まみれのごっつい手が、顔の前から迫りくる。

必死に暴れるけども、肩に掛けられた腕はびくともしない。


「ほーれ、な〜でな〜でな〜〜〜で!」


「「うぎゃっ!!んんんんんんんんんんーーーーー!!!!」」


ねちょり、ぐちょり、ずちょり・・・


僕とザムザは、頭だけではなく、顔面まで丹念に、執拗に撫くり回されたのだった。



・・・

・・・・・

悲鳴を聞きつけたクマジャナイが、僕の元へと物凄いスピードで駆けつけたのだけども、

やっていることを見た瞬間に、げんなりした顔で鼻をつまみ、遠ざかって行ってしまった。


「人間ってド変態なんだな」


クマジャナイは、後にそう語ったという。







ご覧いただき有難うございます。


風邪をひきました、レロレロです。


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