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14,ぶらりと街を見てみよう




フワリと千切って食べられそうな雲の浮かぶ、よく晴れた青空を見げた。

手でひさしを作って、目を細める。


ーー絶好の異世界旅行日和だね!


小高くなって居る場所から街を見渡せば、オレンジの屋根が連なっていて、遠くには意味が分からないほど巨大な岩の壁だ。

道を行くのは複数の馬車、そして様々な種族の人々が行き交っている。

何を見ても新鮮で、今まで生きてきた日常からは、大きく違った世界が広がっていた。


「うっはー!すっごいなぁ、うっきうきが止まらないよ僕っ!!」


あれから勉強会も終わり、クマジャナイのお腹も引っこんだので街へと繰り出していた。

そして気持ちの赴くままに、ぶらり街を見て楽しんでいるのである。


なんだアレ!?何かあの店、怪し気な骨とか葉っぱとかを売ってるぞ!

とてもファンタジックな雰囲気を感じる。


「ねえクマジャナイ!あそこに行ってみよう、そうしよう!」

「おう何だかヨシ楽しそうだな!おもしれー所なのか?いいぜ!」


僕たちは小走りで階段を駆け降りる。


・・・

・・・・・・

少し歩いて店舗の軒先まで行くと、そこは魔女がいた。

いや別に、魔女ですって自己紹介された訳では無いのだけど、見た目が圧倒的に魔女なのだ。

近代的なセクシースタイルの美女などではなく、高齢なオーソドックススタイルである。


「これこれボクちゃん。レディーをそんなに見つめちゃ駄目だよ、照れちゃうじゃないかい」


魔女は煙を吐き出しながら、高めの声で僕をたしなめた。

確かにめちゃくちゃ凝視してた。

でも仕方ないと思うんだ。

年齢不明な鷲鼻のばーちゃんが、タリスマン的な物が沢山ついた黒いローブを着て、ツボみたいなのから伸びるホースで煙を吸っているんだから。

ファンタジー好きのハートを鷲掴みにする、素敵なレディーであることに間違いない。

まあ、どう言い訳しても無粋な目線が失礼なことに変わりは無いのだけど。


「すみません、素敵だったのでつい・・・」

「そうかそうかい。その年で、それだけ口が回るなら将来有望だよ。良かったらゆっくりしていきな」

「え、あはい。お店を見させて頂きます」


なんか分からないけど褒められてしまった。

・・・解んないけどまあ良いか。


ーさてどんな物があるのだろうか。

店内を見渡してみる。

そこには、ざっと見える物だけで、動物のミイラが干し柿のように吊るされていたり、文様が沢山入った透明の玉が置かれていたり、複雑に絡み合った革の腕輪なんかがあったりした。

どこまでも期待を裏切らないお店である。実に良い!

うん?これはもしかして、ポーションじゃないのか!?

色とりどりの液体が、瓶詰めされて棚に並べられている。


「そのポーションがどうかしたかね?」

「おおー!やっぱりポーションですか!?」

「なんだねポーションに興味があるのかい。手にとって見てみな」


言われるがままに、棚にあった赤の薬を手に取ってみた。

やっぱりポーションと言えば色は赤が基本だよね!

緑派と勢力が二分されると思うけど、僕は断然赤派である。


「これを飲んだら、どのくらい体力が回復するんですか?」


僕の言葉を聞いて、魔女さんは目を丸くする。


「そんなの飲んだら死んじまうよ」

「え!?死ぬってなんで??」

「そりゃ強力な殺鼠剤だからねえ、1瓶飲みゃ人間だってポックリさ」


殺鼠・・・ねずみ殺す薬なのコレ!?

えええ、回復薬じゃないんだ・・・


「じゃあこの緑のポーションは何なんでしょうか?」

「それかい?それは、オークの睾丸エキス・・・まあ平たく言うと、性欲剤さね」


何で殺鼠剤の横に性欲剤置いてるのさ!?


「惚れ薬としても使われたりするよ。ほれ、後ろで暇そうにしているお嬢ちゃんにプレゼントしてみちゃどうだい?」

「おん?なんかくれんのか?」

「いやいやいや!?何言ってくれちゃってんの!?」

「飲みやすいように甘く味付けしてあるからえ、飲めば飲むほど・・・旨い!って言いながらイチコロさね、ふぇふぇふぇ!」


やっべえ、この魔女セクハラ大好きなタイプだ!!


「おお、甘くて旨いのか?欲しい欲しい!」

「こ、こら!クマジャナイも欲しがらないのっ!!」

「えー、なんでだよー」

「ふぇふぇふぇふぇ」



そんな感じで、くそばばあ・・・じゃななくてチャーミングな魔女と話しをしながら、お店を見せてもらった。

ポーションは他にも、投げて使うスプラッシュタイプとかあって、とても参考になるね。

いくつかのポーションと、その他にも色々と買ってお店を出た。


言うまでも無いと思うけど、性欲増強ポーションは買って無いからね。

誰がオークの睾丸エキスなんか買うかっ!!!





・・・

・・・・・

魔女の店を後にしてからも、特に目的地を決めるでもなく、街をぶらぶらと見て回った。


「いやーすっげぇ!見たことも無え食い物が沢山あるな!」

「本当にねえ!・・・まあ明らかにヤバそうなのもあるけど。アレなんて、そのまま巨大焼きイモムシだし」

「いい匂いがして旨そうだな、食いてぇ!」

「え!?・・・そ、そっか・・・買ってくる?」

「おうっ!!」


お金を渡すと、クマジャナイは屋台へと駆けていく。

この買物という行為も、クマジャナイはすぐに覚えた。

というか、最初から買い物は知っているけど、自分ではしたことが無いって感じだったな。

どういう生活してたんだろう?不思議なものだよ。


「にしし〜!買ってきたぞ!!」


そんな僕の疑問をよそに、串に刺さった焼きイモムシを両手に持ってご満悦だ。

頭からかぶりついている。

僕は絶対に食べたくないね。


まあ、とはいいつつも、僕の手には飲料水として怪我治水が握られていた。

焼きイモムシとかは例外として、所狭しと並んだ屋台や店舗には様々な食べ物が売られており、凄く美味しそうなものも沢山あったのだ。

お腹も減ってきてたし、我慢できないよね。

基本的には喉元を過ぎれば何とやらである、怪我治水さえあれば何とかなると信じて食べまくっていた。


「どうなのソレ、美味しい?」

「んー、トロトロしてて旨え!ヨシも食えよ!」


そう言って、齧りかけのイモムシの串をコチラに向けてくる。

興味はあるけど、無理だ。断面から滴る汁が、より一層気持ち悪さを感じさせた。


「・・・いや、いらないかな」

「まあそう言うなって!」

「ちょ!やめろ、こっちに近づけるなよ!」


僕はあまりのキモさに、その場を逃げ出した。

クマジャナイがそんな僕を追いかけてくる。


「まてって、1口!1口だけ!マジで旨えからさぁ!」

「く、くるなー!そんなゲテモノいらない、1人で食べてろよっー!!」


ふとクマジャナイの顔を見ると、いたずらっ子のような笑みが浮かんでいる。


「うぉい!もしかして、嫌がってる僕に食べさせてみたいだけじゃないの!?」

「そんなことねーって〜。ほら、仲間で分け合うのは大事だろ〜?」


絶対に嘘だ!

もう顔とかニッコニコじゃないかっ!!


「追いかけてくるなよぉ!!僕は絶対に食べないーーーぐえっ!?」

「ぐお!?」


走って逃げていたら、なんかにぶつかった。

声が聞こえたから、きっと人だろう。


「・・・いてて・・す、すみません!」


ぶつかった反動で、よろけて尻もちを付きながら、僕はとっさに謝った。

結構人通りのある道で前を見ず走ってたんだ、悪いのは明らかに僕だろうし。


「ああ〜ん!?痛ぇじゃねーかぁ!!」


僕の謝罪に対して、返ってきた言葉は明らかにキレていた。

ビクッとして見上げると、そこには圧倒的にヤバそうな見た目男がコチラを睨んでる。

ひょろ長い体型に傷だらけの顔、全身をファーとトゲの付いた茶色い革の服に身を包んでいた。

髪型は・・・赤いモヒカン!?

やばい!間違いなくヒャッハーな人だっ!!


「・・・!?」


眉毛の無い額に、ビキリッビキリッと不機嫌なシワを刻みながら、ヒャッハーな人はこちらを睨めつけくる。


「天下の公道をよぉ、ピーチクパーチク女連れ・・・!!挙句の果てに、この俺っちに体当たりだあーっ?許せね〜よなぁ!?」


そう言って、腕をコチラに伸ばしてきた。


「ーひえっ!?」


僕は恐怖に目をつぶる。


ーーゴッ!


小さく鈍い音が響いた。


「いってええぇぇ!?」


突如響いた悲鳴に恐る恐る目を開く。

するとそこには、ヒャッハーな人が手を抑えながら悶えていた。


「へ?・・・あ・・」


僕の目の前には、手甲から広がる盾がかざされていた。


「な〜にやってんだ、大丈夫かヨシ?」


盾を収納するのと入れ替わるように、クマジャナイがそこに立って、僕へと手を差し出してくれた。

その手にはソドラが装着されている。


「・・・ありがとう」

「いいってことよ!ーーそれより、どうだ?コレ上手く使えたぞスゲーだろ!?」


立ち上がった僕に、ソドムとゴモラを見せながら、自慢するクマジャナイ。


「確かに・・・す、凄いぞ」

「だろぉー?」


とても良い笑顔である。

ーーしかし、


「んだぁコラァッ!!何しやがんだテメーーッツ!!」


そんなマイペースな笑顔の後ろから、怒号が響いた。


「ーーッ!」



声に驚いて、僕の体はびくんと跳ねた。


「んー何だコイツ?うるっせーなぁ」


それに対してクマジャナイは、面倒くさそうにボヤいて、耳をペタンと閉じただけだ。


「なーヨシ〜、うるせーし臭いから、コイツから離れようぜ?」

「臭えだとっ!?ナメやがって!オメーらブッ殺すぞっ!!」


ヒャッハーな人の顔が、赤く染まっている。

臭いと言われて、気にしたのかも知れない。

というか止めてくれっ!これ以上ヒャッハーな人を怒らせないでくれ!


「おん?ぶっ殺す?・・・黙んねーと頭を引っこ抜くぞ」


クマジャナイが、ちらりと後ろを見て何やら恐ろしげなことを言った。


「頭引っこ抜くだぁ〜?おうクソアマ!!やってみろやぁっ!?」


あまりにも挑発的な発言に対して、ヒャッハーな人のキレっぷりは最高潮だ。

勢いに任せてクマジャナイの肩に掴み掛かろうとして・・・


僕の目の前がブレた。


ーーゴチュッ!!


そう思った瞬間、鈍く嫌な音が響く。

あれ?目の前から誰もいなくなってる・・・


ゴッ!メシャッ!!


うお、上から突如降ってきた!何だ!?

降ってきたのは・・・ピーンと立った脚?

その横にはクマジャナイがしゃがみこんでいる。


「・・・一体何がおきて」

「いよっと」


クマジャナイが立ち上がる。

腕を持ち上げた時に、ぐぼっべちゃ、という生々しい音が聞こえてきた。

脚がゆっくりと斜めになり、どしゃり!という音をたてて地面へと倒れ込む。


「・・・う・・わぁ・・・」


仰向けに倒れていたのは、ヒャッハーな人だった。

どうやらクマジャナイが顔面パンチを叩き込んだらしい。

頭部が石畳を叩き割り、地面にめり込んでいる。

顔面の方は見えないけど、無事じゃ済まなさそうだ。


「さーてと。おお!コイツのトサカ持ちやすいな」


クマジャナイがモヒカンを掴んで、持ち上げた。


「キャーーッ!!!」


周りから悲鳴が聞こえてきた。

その他にもざわめきが広がる。

いつの間にか、僕達の周りにはちょっとした人だかりが出来ていたのだ。

ううう・・・悲鳴やざわめきの理由はよく分かるぞ。

モヒカンを捕まれ持ち上げられた顔は、真ん中が陥没しており、見るも無惨なことになっていたのだ。

とめど無く血を溢れさしながら、ビクンビクンと痙攣するヒャッハーな人、コレは・・・生きているのか?

そんな死に体の首に、クマジャナイは手をかけた。


「クマジャナイ一体何を・・・?」

「ん?頭を引っこ抜こうかなってよ」


・・・殺る気満々だ!?

最近の、ちょっと間の抜けた言動を見過ぎて忘れてた!

クマジャナイはクマジャナイ何かである。とっても素直だから、引っこ抜くと言ったらちゃんと引っこ抜くのだ。

そこに道徳など存在しない。


「ま、まって!ちょっとまって!!」

「どうしたヨシ?引っこ抜くのやりたいのか?」

「そんな訳あるかっ!?良いからちょっと止まっておくれ!!」

「んだよー。こんなん、とっとと終わらせて買い物しよーぜ?」

「終わらせちゃ駄目なんだってばっ!?」

「おん?何でだ??」


ぬおー!

上手く伝わらないー!!

というか僕も、あまりにもエグい絵面と状況に混乱してて、分かりやすくなんて説明出来ない。

だってウサ耳美女が、血みどろなモヒカン頭を掴んで持ち上げてて、胴体から引っこ抜くとか言ってるだんだよ?

周りの人も、なんかどんどん増えてる気がするし・・・どうしたら良いんだっ!?



「ごっはっは!俺も坊主の意見に賛成だぜ?」



あたふたとするしか無くなった僕の後ろから唐突に。

よく通る太い声が響いたのだった。









ご覧いただき有難うございます!



今日のことなんですが図書館で執筆中に、横の席で腕を枕に寝ていた女性がいました。

気持ちよさそうに寝てるなーって思てはいたんですが、静かだったので、さして気にもならなかったんです。

ですが、いきなり体をびくんとさせて、まあまあ大きな声で「ふぇ!」と言いながら目を見開いて、体を起こしました。

そのあと、口を拭いながら周りをキョロキョロ見渡して、少し恥ずかしそうにしていたのです。

それを視界の端で捉えてしまった僕は、不覚にも少し萌えてしまいました。

・・・やりおる!!


投稿日2024年3月13日

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