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11,人に紛れ込むぞ




「おいヨシ〜・・・これ窮屈だぞ〜・・・」


獣人になったクマジャナイが、ちょっと情けない声でぶーたれていた。

服の胸元を指で摘んで引っ張りながら、とても嫌そうな顔をしている。


「やめなさいって、折角作ったのに服が伸びちゃうだろ、それに・・・」


色々見えてしまいそうだ、でもそんなこと僕には言えない。


「それに何だよ?」

「い、いや、何だって良いから、やめておくれ!」

「んだよ〜」


今は二人で密林の比較的歩きやすい所を進んでいる。

クマジャナイが体の変化に慣れるためだ。

それについては運動神経の良さからか非常に順調である、あとは服や靴にも早く慣れてくれれば良いのだけど。


ちなみに僕達が着ている服は、旅をしている冒険者風な布の服セットだ。

クマジャナイの分は、丈夫さの中にも女の人に合うように、アクセントを加えてゆったり感を出した。

もちろん新品でピカピカなんてことはなく、汚しなどもしっかり描き入れてあるので実に旅人っぽい。

僕はプラスで、肩から斜めがけする大きめな革のカバンを装備している。


この冒険者風布の服セットは細部まで拘り、とっても満足行く仕上がりになったよ。


「ヨシは人間に戻っちまうし、何でアタシだけこんなことやってんだ全く」

「まーまーそう言わず。はいコレあげるからさ」


そう言って、描きあがったばかりのリンゴを渡す。


「おお、やった!!」


クマジャナイはさっそくリンゴにかぶり付いた。


「う・・・めええぇぇぇ・・・」


そうだろう、そうだろう。

僕の大好きなサン富士リンゴだ。

旬の採れたてをイメージしたので、瑞々しく密たっぷりである。

・・・って、うわ。

芯まで食べてる、相変わらずワイルドだ。

美人さんな顔でそんなことしたら、違和感がすごいぞ。

やっぱり見た目が変わってもクマジャナイなんだなあ。



「どうだい、変身には慣れてきた?」

「おう、バッチリだぞ!・・・ほいっと」


リンゴの果汁が付いた手を舐めていたクマジャナイは、そう言って腕輪を構えた。

すると体が淡く光り、どんどん大きくなっていく。

光が収まるとそこには、とても大きな熊じゃない何かがいた。


「そしてあらよっと!」


もう一度気合を入れて、腕輪を構えると。

また体が淡く光り、どんどん小さくなっていく。

光が収まると、旅人の服を着込んだとても美人な、うさ耳獣人がいた。


「おおー、完璧じゃないか!」

「にひひ〜!だろー?」


僕達二人の腕には今、変身の腕輪と一緒に、着せ替えの腕輪も付いている。

この腕輪は、登録して亜空間に収納した服を、全自動かつ一瞬で着脱してくれるんだ。

何と10着まで登録可能という優れ物だよ。


これで変身した後の真っ裸&服ビリビリ問題は解決だ。

僕は学ぶ男だからね、賢者は同じ失敗を繰り返さないのさ!!


「なーヨシー、そろそろこの服脱いで良いかー?」

「良い訳無いでしょ!?」


ううう・・・

まだまだ賢者への道は遠そうだ。




◇◇◇


「さてさ〜てっと」


密林に潜み、僕はニンマリと笑った。

眼前に広がるのは、川に沿って切り開かれた道である。

そう、人々が行き交う道へとまたやって来たのだ。


「それじゃ話し合った通りに行くぞクマジャナイ」

「おう、分かったぜ!」


二人でうなずき合った後、誰も見ていないことを確認して川沿いの道へと合流した。

そして出来る限りゆっくりと歩き出す。

結構な人通りがある道とは言え、目的の壁まではまだ数キロある。

まだ通行人もまばらなので何の問題もなく溶け込めた。


歩くのが遅い僕達を、様々な種族の人たちが追い抜いていく。

あ、猫耳・・・

うおお!猫耳の女の人達だ冒険者さんかな?テンションあがるー・・・っとだめだ、平常心っと。


僕がチラチラと目線を飛ばしていると、道行く人たちもコチラを見ていた。

いや正確には、クマジャナイが見られている。


・・・しまったな。

獣人バージョンのクマジャナイは、かなりの美人さんだし背も高くスタイルも良い。

さらに頭の上に長々とある耳も、ピョコピョコと可愛らしく動いてて目が行く。

もし僕と美的感覚が同じならば見るのは当然だよ。


あまり目立ちたくはないんだけどな。

でも今更顔を隠し始めるのも変な気がするし・・・しかたないや、このまま行こう。


・・・

・・・・

そんな感じでクマジャナイと2人で、道なりにゆっくり歩いていると、お目当てがやって来た。

1頭の馬を使って、荷台を引いている馬車だ。

汚いのは旅の勲章と言わんばかりに、荷台には壁の代わりに汚れの目立つ白い布が張ってあった。

馬車の上には御者さんが1人いて、周りには護衛が数人ほど共に歩いている。


多分なんだけど、この人達は行商人一行ではないかと思うのだ。

そんな人達がここまで来るのを僕は待っていた。

せっかく作ったこのチャンスを逃すわけにはいかない。

行商人一行が横を通り過ぎるタイミングで、僕達は少しずつ近づいて行き、


「すみませーん、あのーちょっと良いですか?」


護衛の1人に、できるだけ笑顔で声をかけた。

何だコイツは?って感じでジロリとこちらを見てくる。


体格が良く目つきの悪いおじさんだ、薄汚れた服装だし、剣を腰に吊るしている、正直怖い。

怯えながらも、その素振りを見せないように返答を待つ。


・・・・

しかし、いくら待っても返事は無い。

もしかしたら言葉が通じていないのだろうか?


翻訳のネックレスはクマジャナイに渡した物と一緒に、現地の人間が喋る言葉が分かるようにアップグレードしている。

問題無く言葉は通じているハズだけど返事が帰ってこないから不安だな。

もう一度しっかりと声を掛けてみよう。


「あの~!すみませ〜・・・」

「るっせえぞ!なんだよさっきから!」

「ひぇ」


僕の言葉を遮って、護衛のおじさんが面倒臭くさそうに、怒鳴るような返事をした。

よ、良かった、一応ちゃんと言葉が通じてたんだ。

折角なんだ、ビビってばかりはいられない、アピールしなくては!


「え、えっと。もし出来るなら、ちょっと珍しい物が手に入ったので、買い取って欲しいんですけど、どうでしょうか?」

「珍しいものだとぉ?」


まるで僕とクマジャナイが、珍しいと言わんばかりにジロジロと見てくる。

ううう・・・やっぱり、いきなりは変だったかな?

でも、お金とかがあれば欲しいしなあ。入手方法が、他には思いつかないのだから仕方ない。


「分かった伝えてやる。待ってろや」

「ありがとうございます!」


やった!有り難い!

思ったよりもすんなりと伝えてくれるみたいだ。

そのまま御者の所へ行き、何やらヒソヒソと話しをしている。


お、こっちを見た。

僕は軽くおじぎをする。

・・・うーん、おじぎってここでも通じるのかな?


僕がそんなことを考えていると、護衛のおじさんがコチラへ向かって手招きをした。

手招きはあるみたいだね。


僕はクマジャナイを連れ立って、停められた馬車へと近寄っていく。


うわー、馬だよ大きいなあ。

競馬のCMとかで見るのより大分ゴツいや・・・でもなんか少しくたびれてる気がする。


「お前か女、何か売りてーんだって?」


きのこのようなおかっぱヘアーで痩せ型糸目の御者が、馬車の上からクマジャナイに声をかけてきた。

なんだかとっても、語尾に〜でゲスって言いそうな見た目と声質である。


「しょぼいモンだったら承知しねーでゲスよ」


ああ!翻訳の首飾りが僕の意志を汲み取って語尾にゲスをつけ始めた!

超似合ってる、吹き出しそうだ堪えなきゃ!


「おいどうしたんでゲスか女!返事するでゲス!」

「・・・・」


御者の人は僕のこと何か眼中にも入らないかのようで、クマジャナイへと話しかけ続ける。

声に対する返事の代わりに、クマジャナイは無言で僕の両肩を掴む。

そして、そのまま視線と視線の間へと強制的に引っ張り込んだ。


「うわっ!」

「あーん?でゲス」

「・・・ぷぷっ・・・・・・・

 ーーふう・・・僕です。売りたい物があるので見て頂けませんか?」


失礼ないように、笑いを噛み殺した僕は正面から御者の人と目を合わせて説明した。

そんな僕をジロジロと見返してくる。


「は~〜っ」


御者の人は深くため息をついた。

ええ、なに!?もしかして笑ったのバレた??だったらごめんなさいっ!

あたふたと考えていると、御者の人は護衛のおじさんへと顔を向けて口を開いた。


「んな貧乏そうな小僧が金目のモン持ってるわきゃね~だろでゲス!」


いや、うん。

笑ったのがバレたとかじゃないね。

純粋に僕が馬鹿にされてるだけだコレ。


「俺もそう思うけどもよぉ、外で売りもんになりそうなの見つけたら、伝えろって言ったじゃねーですか」

「あん?・・・ああ・・・ふふん。そうだな、そうだったでゲス」


御者の人は僕とクマジャナイに再度目をやり、笑った。

おい何だその笑みは、何だかニチャついてるぞ!


「小僧と女、話しはわかったでゲス、ちと向こうで商談といくでゲス」


そう言って御者は、道の端のそのまた向こう、森の方を親指で指し示した。

・・・

・・・・・うぉい!?

明らかに変だろソレ!なんでわざわざ森の中なんかで商談するんだよ!何かする気だろ!!

こいつ見た目と語尾がゲスなだけじゃない、中身までゲス男だっ!!


「いや、あの・・・」 


たじろぐ僕をよそに、周りではゲス男の護衛達がゆっくり僕とクマジャナイを囲み始めていた。


うっそだろ!?

ちょっとまって、ヤバい!ヤバいって!!


あまりのことに周りをキョロキョロ見回していると、


「どうかされましたかな?」


場に似合わない柔和な雰囲気の声が、唐突に響いた。

そんな声の方に目を向けると、そこには2頭の馬が引く馬車がいて、その馬車から御者さんがこちらを見ていた。

平べったい帽子を被った、鼻の下にクリンとした髭のあるおじさんだ。


「げっ!でゲス」


一番最初に反応したのはゲス男だった。とても嫌そうな顔をしている。

そんなゲス男に気付かず護衛のオッサンが怒鳴り声を上げた。


「オウ!なんだオメー!口挟んでんじゃねよ!!」

「ちょっと!ちょっと待つでゲス」

「んお?なんですかい、何で止めるんで?」


ゲス男はもう一度声の主にちらりと目をやり、渋い顔をして小さな声をひねり出す。


「ギルドの会合衆でゲス」

「ーなっ!」

「勝手に事を起こしたりなんかしたら、オヤジに殺されるでゲス」

「そ、そいつぁ・・・確かに・・・」


狼狽えるゲス男達を尻目に、帽子にヒゲのおじさんは僕達へと声を掛けてきた。


「何かお困りでしたら、お話しをお聞きしましょうか?」

「・・・は、はいあの」

「ちょ、ちょっとまて!そいつはルール違反じゃね~でゲスか!話しを持ちかけてきたのは、この小僧からでゲスよ商談を横からかすめ取られちゃ流石に黙ってられねーでゲス!!」


ゲス男の話しを聞いて、思案顔になる帽子にヒゲのおじさん。

って、ちょっとまて!

何が商談だ!周りを囲んで森に連れ込もうとしてただろ!!

帽子とヒゲのおじさんに助けを!

助けを求めなくては!!


「ふむ。話しは分かりました、確かにワタクシが無粋でしたな」

「へっへ、分かってくれりゃ良いんでゲスよ」

「えっ!?あのちょっと!!」


思わぬ流れに僕が焦って口を開くと。

帽子とヒゲのおじさんは、パンっと手を打ちニコリと笑って言い放った。


「ではその商談ごと、ワタクシに買わせて頂けませんかな?」


言葉が終わるより前に、小さな革袋に手早く何かを詰めて、帽子とヒゲのおじさんが乗る馬車の脇にいる、護衛だと思われる男の人に手渡す。


こちらにやって来た護衛は、髪を短く刈り込んだゴリラっぽい感じの人で、ゴリラ世界ならきっとイケメンで通るだろうキリッとした顔だ。

耳が上に無いので、獣人か人間かの判別は僕にはつかないな。


「な、何だお前!」


皮の鎧に身を包み背中に両刃で巨大な斧を背負った、高身長ゴリマッチョが近づいてきて、ゲス男の護衛がいきり立つ。

しかしゴリラっぽい護衛の人は、歩みを止めること無く両手を軽く上げ、ニヒルに笑う。


「なーに、気にしなさんな。コイツを渡すだけさ」


上げられた手の片方には、皮の小袋が摘み持たれていた。

そしてそのまま、ゲス男へと小袋をひょいと渡す。


「お、おう?」


ポカンとしていたゲス男は、ゴリラっぽい護衛の人に少し顔を引きつらせながらも小さな革袋を受け取った。

ゲス男は直に我へと返り、小さな革袋を開いて覗き込む。

そして更に目を見開いた。


「ーー売ったでゲスっ!!」


ゲス男は満面のゲスな笑顔で顔を上げ、脊椎反射の如き速さでそう言い放ったのだった。





◇◇◇





うわー、馬車だよ高いなあ。

ぽこぽこぽこカタカタカタと響く音がとても楽しい。


馬車なんて絵本でしか見たことしか無かった、でも今はそんな馬車の御者台へとクマジャナイと一緒に乗せてもらっているのだ。

しかも引っ張るのは普通の馬ではない、なんと足が六本もある馬なのだ、しかも全体的に艷やかで筋肉が隆々である。

そんな6本足馬が2頭引きの大っきい馬車だもんね。これは何ともテンションが上がる。

おおー馬の尻尾がふぁさふぁさだ、人参とかあげてみたいな。


「馬がどうかされましたかな?」


僕が馬に気を取られていると、横で手綱を手に持ち座っている、帽子にヒゲの御者の人がコチラに話しかけてきた。


「あ、はい、動物が好きなもので・・・馬ですよね?」

「なるほど、その子達はニール種の馬、クリスティアーヌとロドリゲアタです。可愛いでしょう?私が毎日丹精込めて世話しておりますからな」


馬の名前めっちゃゴージャス!?

いやまあ、馬を見ただけで愛情を注いでいるのは充分理解出来た。

個人的に動物好きの人は好感が持てるね。


「はい、とっても可愛いです」

「そうでしょうとも、そうでしょうとも。・・・失礼、申し遅れましたな。わたくし、商人のカイゼルと申します。カイゼル髭のカイゼルと覚えて頂ければ幸いです」


御者さんじゃなくて商人さんだったのか。


「あ、僕は角野 好って言います。ヨシって呼んでください。よろしくお願いしますカイゼルさん。・・・そのヒゲってカイゼル髭って言うんですね、覚えやすいです」

「はっはっは、それは良かった。商人は印象付けが大事ですからなー。よろしくお願いしますなヨシ君と、そして美しいお嬢さん」


そう言って、僕たちに目を向けたカイゼルさんは、カイゼル髭の先端を指で摘んで撫上げ、ニコリと笑った。

さっき助けてもらったことへの御礼を言った時にも感じたけど、何とも親しみやすい人だなぁ。


「それで、ヨシ君は何やら商談がお有りになるとか?」


ああ、そうだ!

怖い思いまでして馬車を探していたのは馬を見るためじゃない、売れそうなもの物を見せに来たんだった。

僕は肩掛け鞄を探って、お金に変えたいと思っていた物を取り出す。


「は、はい。まずは、これです!」

「なるほど・・・止まりますので少々失礼しますな」


カイゼルさんは周りの護衛に声を掛けてから、道の端に馬車を寄せて止めた。


「おまたせ致しました。では、拝見させて頂きますな」


そう言って、僕から小太刀を受け取った。


手渡したのは、洞窟でお絵描きの実体化を実験した時に作った白鞘の小太刀である。

あの小さくて斬鉄剣っぽい見た目のやつだ。


僕の肩掛け鞄には、そういった物が色々と詰まっている。

こんな重量物の沢山詰まったカバンを肩に斜めが掛けしてたら、首がモゲてしまいそうだけど、そうはならない。

なんとこのは中が異空間となっており、布団が入っているような押入れほどの空間が広がっていて、入れた物は重量無しで持ち運べるという優れ物なのだ。


通称、押入れ鞄!

ファンタジーな物が作れると分かってから、真っ先に挑戦したのである。

本当は無限に物が入り、中の時が止まった袋を作りたかったのだけど、どうにも無理だった。

何度も失敗しつつも、小さい頃に秘密基地として遊んでいた押入れを、強く思い描いて書き込んでようやくまともに実体化したのがこの押入れ袋なんだ。。

残念ながら時を止めることなど僕には想像しきれず、普通に入れた物の時間は流れてしまう。

ここが今の僕が描き出せる限界のようだ、いつか最強の収納鞄を作りたいものだね。


「ほう・・・なるほど、片刃の短刀ですな。刀身が薄く、紋様が入っていて何とも美しい。

 おおお、爪の先が熱したスプーンですくうバターより滑らかに切れましたな。何という切れ味でしょうか!いやはや実に凄い!」


おおー分かってるぅ!

こだわって描いた所を的確に褒めてくるね。

穴蔵の中でリンゴを使って試し切りした後、きちんと刀身を磨いたからピカピカだろう?ふっふっふ。


「それで、次にコレです」

「おおおおお!!!なんと美しい真っ白なお皿でしょうか!!」

「更にこれもいかがですか?」

「なんですと!?拳よりも大きなクリスタル・・・しかも神秘的なオーラが・・・これは!!」


お皿は、パンのお祭りシールを集めてもらえるやつをイメージした簡素な物だし、クリスタルは洞窟に沈めた物の試作ミニチュアだ。

こんなので良ければ、まだまだ沢山ある。


「コレも中々素敵で・・・」

「ちょ、ちょっと!ちょっと、お待ち頂きたいんですなあ!!」


お、おおう!?

カイゼルさんが突然、すごい剣幕でストップをかけてきた。

びっくりしたあ。


「ど、どうしました?」

「いやはや、いやはやはや・・・驚きましたな。わたくし・・・ヨシ君・・・いえヨシさんを、まだ若いと見くびっておりました!!」


お、おう。

そうなの?見くびられてたの?


「・・・いや、全くそんな感じはしなかったんですけど」

「いいえ、わたくしは恥ずかしいッ!!」


そう言って額に左手の指先を当てて沈痛な表情をするカイゼルさん。


「そ、そんなこと無いです!買い取って貰えれば全く問題無いんで!!」

「ぬぐう・・・それが・・・こちらの商品ですが、今は買い取りが難しいんですな」

「ええ、そんな!?」


あんなに褒めてたのに何故!?

驚く僕にカイゼルさんは話を続けた。


「失礼、言葉足らずでしたな。買い取りたいのは山々なのですが・・・行商の最終地なので、今はそれに見合う持ち合わせが無いのです」

「え、ああ。なるほど・・・」

「道行く少年が差し出す品なら、わたくしのポケットマネーで買えるでしょう、などと思っておったんですな。何たる人を見る目の無さでしょうか!!申し訳ありませんッ!!」


そう言って、ガバっと頭を下げるカイゼルさん。


「いやいやいや!別に良いですって!」


温厚そうな髭のおじさんかと思っていたら、商売に関してはめっちゃ熱いぞこの人!?

なに?商売人って皆こんな感じなの??


「えーっと・・・払える分だけ買って頂けたらそれで良いですから。ほら、お皿1枚からでもお売りしますので・・・」

「そこをなんとかッ!大変恐縮なのですが、わたくしにもう一度チャンスをお与えくださいませっ!」


そういって僕の手をガッと両手で握ってきた。

うおお、なんだ!?


「・・・どうでしょう!わたくしと共にこのまま城郭都市へと行きませんか!!」

「え、ええ?城郭都市って今見えてるあの壁の向こうですか?・・・入りたいんですけどちょっと許可書とかお金を持ってないっていうか・・・」

「なるほど!わかりました。それでは入り口の手続きなどは、わたくしが全て行いますな!同行者扱いになりますから、問題なく入れるでしょう」

「ええっ!?良いんですか!!」

「もちろんですとも、そうと決まれば早速まいりましょうかな!」


そう言って、カイゼルさんは護衛の人に指示を出してから、馬車をまた歩かせ始めた。


「やったぞクマジャナイ!壁の向こうへ案内してくれるってさ!!・・・って何やってるんだ?」


クマジャナイは右手で口を抑え、左手でお腹を抑えて、かなしそうな顔をしてこちらを見ていた。


「ど、どうしたんだ、お腹痛いのか?」

「・・・もう喋っていいのか?」


あ、そうだった。

最初の取り決めでクマジャナイには、喋らずに出来るだけ静かにしていて欲しい、とお願いしたんだった。

それを守ってくれていたのか。


「うんもう良いよ。ありがとう」

「ぶは〜・・・うへー。マジ疲れた・・・」


黙ってる方が疲れることとかあるんだ。


「なんかお腹を抑えてたけど、どうしたんだい?」

「腹が減ってさぁ、グ〜って鳴るんだよ。でもヨシが静かにしとけって言うからさー、抑えてたんだぜ」


おおう、知らぬ間に頑張ってくれてたみたい、感謝だね。


「そっか、リンゴまだあるけど食べる?」

「食う!!ぜってー食うぞ!!」


リンゴを差し出すと、待ってましたと言わんばかりにリンゴを取って食べ始めた。


「フハ〜〜!やっばりハンパないな、うめ〜〜!!」


一口シャクリと齧った瞬間から、クマジャナイは大喜びしている。

うーむ、しゃべり始めると、いきなり騒々しいな。

いやまあ見てるとこっちまで楽しくなるし、良いんだけどさ。


「わたくし見たことが無いのですが、真っ赤なソレは、果物ですかな?」

「え、あはい」


おおっとカイゼルさんが前のめりに興味深々だ。


「そうです、リンゴっていう果物ですよ、お1ついかがですか?」

「これは有り難い!珍しいものに目が無いものでしてな。・・・では失礼して」


僕からリンゴを受け取って、カイゼルさんは一口齧った。


「ふぬおッ!?うまいーー!!」





・・・

・・・・・

その後、カイゼルさんからのリンゴも売ってくれという、熱烈ラブコールを受けたり、それを聞いたクマジャナイが自分の分が無くなると、ブーブー言い始めたのをなだめたりしつつ、僕達は川の横に続く道を、ぽこぽこカタカタと馬車に揺られながら進んでいくのだった。







読んで頂きありがとうございます。


僕は昔から紅茶が好きで、日本人の上位5パーセントに入るであろう紅茶の飲みっぷりだったんですよね。

でも今では、より強いカフェインを求めて、すっかりコーヒーばかり飲む生活となりました。

最近は、さらにブラックチョコをキメたりするしまつ。

なんだか文章を書く時の集中感が違うんですよね。

トリップします。


投稿日2024年3月10日

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