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No.0002 1人目の客

イラッシャーセー(いらっしゃいませ)何名様でしょうか?」


そう言って客を出迎えるのは執事の服に着替えた俺だ。

そう、今のところ店員は俺しかいない。寂しいね!


「空いているお席へどうぞー!1名様ご来店でーす!」


他に店員がいる訳でもないのに見栄を張ってみる。


初めての客はいかにもな冒険者だった。内装やその他諸々が想像していたのと違ったのか、戸惑いつつも常に周囲への警戒は怠っていない。だってここ魔王城だもんね!


一歩歩く毎に床を叩いたり、偵察スキルを使ったりと喫茶店の中でやるには過剰なほど警戒しながら客第1号は席に座る。


「こちらがメニューになりまっす!」


いけない、初めての客でちょっとウキウキしている自分がいる。


そんな俺の態度とは裏腹に冒険者はおっかなびっくりといった様子でメニューを受け取った。そしてすぐさま鑑定魔法を発動する。


それにしても、鑑定持ちか…珍しいな。5000人に1人しか適性がないと言われているのに、こんな所で鑑定持ちに巡り会えるとは。


どうやら、冒険者はメニューを開いた瞬間に発動する罠の類を疑っているようだ。受け取る前に鑑定しなかったのは、鑑定魔法の発動条件が「対象に触れていること」だからだろう。


だが、残念だったな。それはただのメニューだ。特別な仕掛けがある訳なかろう。心なしか冒険者も落胆している。


…いや、そこはホッとするところだろ!?なんで落胆してんだコイツ。


変な奴だな。…まあいいか。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


丁寧な接客、これ大事。


冒険者はコーヒーの文字を指さした。


…なるほどね、読んだ瞬間に発動する罠を疑ってるのね。だが、そんな罠は存在しない!フハハハハ!


ニヤリと笑う俺の顔面が凶悪だったのか、冒険者はチャキっと武器に手をかけた。


どうどう!ステイステイ!


俺は必死に無害アピールをする。


5分間の沈黙を経て冒険者は剣の柄から手を離した。


「ご注文はコーヒーでよろしいでしょうか?」


冒険者は頷く。これはアレだな、「はい」と言ったら発動する契約魔法を警戒している顔だな。そんな罠ねぇけどな!


俺は店の奥に移動する。《喫茶店経営》スキルの収納から直接提供しても良いが…やはりここは雰囲気をだな、大事にするべきだと思うんだよ。


なんちゃって厨房の中で銀製のトレーにコーヒーを乗せてから客の元へ行く。


「コーヒーになります。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」


すまし顔でコーヒーを提供。完璧だ。


俺の微笑みを見た冒険者の顔が少し引きつっている。そしてすぐさま鑑定魔法を発動!…きっと、毒物を疑っているのだろう。そんなものは…以下略。


数分間のコーヒー観察を経て、冒険者はやっとカップを持ち上げた。そしてズズっと1口。…なんだその顔は。


数秒間、沈黙が場を支配する。


すると、冒険者の体に異変が!体から光が!くっ眩しい!!


「な、なんだ…!?くっやはり毒が…!!」


冒険者は自分の体に起きた変化に驚いているようだ。…毒じゃないんだけどな。


これがステータスupの輝きか…。いや、そんな輝き知らんけど。


冒険者は毒を疑い、すぐさまステータスを開いたようだ。空中で指が踊る。ステータス操作中って傍から見ると何やってんだコイツって思うよな。エアーピアノを弾いているみたいな動きだ。


冒険者が不思議そうな顔をする。…これは多分「状態異常に罹っていないだと!?」という顔だ。


冒険者が目を見開く。…これは多分「ステータスが上がっているだと!?」という顔だ。


そして冒険者はぐりんとこちらを向く。俺はとりあえずサムズアップしておく。オイオイ、生き別れの兄弟に会ったみたいな顔すんなよ、控えめに言って面白いぞ。


再び沈黙。


「…どういうつもりだ?なにを企んでいる」


どういうつもりも何も、企みなんて存在しない。

強いて言うなら…


「俺はこの世界で生き残りたい…そのためなら喫茶店経営だってしてやるさ!魔王だけどな!!」


カッコつけながら言ってみた。


「…………………………」


「……………( ´•ω•` )」


白けた。悲しい。


悲しいのでちょっとぼったくることにした。

コーヒーの相場は500スピカだが…


「お会計は50000スピカになりまーす」


ちなみにスピカは城塞王国スピカの通貨だ。


今ここにぼったくり喫茶が爆誕した。さて、冒険者の反応は…!?


「む、50000スピカか…高い。いや、そうでも無いのか?先程の現象がもし、狙って引き起こされたなら、この魔王とやらは料理を通じて他人のステータスを弄ることができるということになる。ステータスupのアイテムなんて他に聞いたことがない。つまり、コレの価値は計り知れないということだ。…となると50000スピカでも安い買い物だな。」


お、おおぅ…冒険者がなんかブツブツ呟いてて怖ぇ。……ひっ目が合った!


「少し質問をしたいのだが、いいだろうか?」


俺はコクコクと頷いておく。やましい事なんて何もしてないんだからね!!


「名もしれぬ魔王よ、お前はお前の能力を悪用しようという気は無いのか?モンスターにこの能力を使えば無敵の軍勢を作れるはずだ。それなのになぜ、人間に有利なことをする?

これでは、お前の料理を利用してステータスを上げるだけ上げてお前を殺そうとする人間も出てくるはずだ。或いは、王族に目を付けられて拉致監禁…なんてことも有り得るぞ?」


「…………(꒪⌓꒪)」


しまったァァアア!そこまで考えてなかったァァアア!!

俺にはまだ、俺TUEEEEの道が残されていたのか!いや、でも喫茶店経営してる方が楽しいと思ってしまう自分がいる…!


つーか王族怖ぇな。魔王を拉致監禁って恐れ知らずも甚だしいぞ。


い…いいもんね!俺は、人間のステータスを底上げして、ほかの魔王を倒してもらって、喫茶店という名の領土を拡大するんだ!そしていづれ世界を喫茶店で征服するんだ!


利用される?やれるもんならやってみろ!そんな奴のステータスは下げてやる!!


「…………(`・ω・´)フンスッ!」


「ハァ…お前が悪いヤツではないってのは分かったよ。ほらコレ、50000スピカだ。コーヒー美味かったし、また来るよ」


冒険者はそう言い残して去っていった。きっちり50000スピカが置かれたテーブルを見て俺の思考はしばし停止する。


え?マジで50000スピカくれるの?罠?罠だよね?


恐る恐るスピカを手に取る。何も起こらない。罠ではなかったらしい。


冒険者が店を出ると同時にcpも1700入った。これでcpは4500だ。これが多いのか少ないのかはよく分からないが、多分、コスパは良かったんじゃないだろうか。無駄に警戒されていたおかげで、コーヒーしか飲んでいない割に滞在時間が長かった気がする。


「…………(ΦωΦ)フフフ…」


思わずにやけてしまう。

これなら上手くやっていけそうだ。

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