No.0001 喫茶《魔王城》開店!
「ぬぬぬぬ!ぬぅわんだとぅ!?」
バリイイィイン!!!
魔王の雄叫びにビリリと大気が揺れる
その叫び声は邪神殿の全てのステンドグラスを破壊した。
心なしか、衝撃波を間近で食らった邪神父の耳が尖ってしまっている気がする。…生まれつきですか、そうですか。
つーかこの人、いや魔族か…まあそれはどうでもいいんだけど、魔王の咆哮を半径1mの距離で聞いてナンデ無事なの?
もしかして俺よりステータス高いの?そこんとこどうなの?
自分以外見ることの出来ない設定になっているステータス欄を見ながら俺は考える。
俺氏、25歳にしてモンクから魔王に転職…した所まではよかったんだがなぁ。
え?なんで光神サイドのモンクが邪神サイドの魔王なんぞに転職したのかって?まあ、それはまた今度話すよ。
それより、どうしてこんな事になってしまったのか。まさか、邪神系最強ジョブである魔王のランダムスキルが《✕✕✕✕✕》と《✕✕✕✕✕✕✕》になってしまうとは。
コレでは所謂「俺TUEEEE」も「ハーレムでキャッキャウフフ」も出来ないではないかー!!!
ちなみに魔王の固有スキルは《魔王城建築》だ。
魔王の拠点がなぜか必ず城っていうのはこういう訳だったんだな。俺も魔王になるまで知らなかった。
そう、なんかこう…もっと厨二チックなカッコイイスキルを想像していたんだ。
カッコイイとは言えないにしても、魔王の固有スキルはせめて、攻撃スキルであって欲しかった。なんとなく理想を壊された。
とぼとぼと邪神殿を後にする。ステンドグラス破壊したし損害賠償請求とかされるかもだけど、今はとりあえず1人になりたい気分だ。
気づくと俺は魔界の端っこに来ていた。人類最後の砦、城塞王国スピカが眼前に迫る。
その堅牢な城壁は7万年もの間破られていないというから驚きだ。まあ、全てのスペックを防御に費やしてるんだもんなぁ。
ハァ疲れた。この辺で休もうかな…。
丁度いい木陰があったので、地面に手をつけてどっこいしょと座る。年寄りくさい?そんなこと言うなよ、悲しくなるだろ。
ふぅと息をついた次の瞬間、俺の周り半径15メートル程を禍々しい光が包み込んだ。
ゴゴゴゴゴ…と地面が激しく揺れる。
四つん這いになっていないと耐えられないレベルの揺れだ。
トラップか!?と身構えるが、攻撃が飛んでくる気配は無い。
ただ、俺の周りの地面が盛り上がってナニカを形作ろうとしている。
地面の揺れが小さくなってきたタイミングで俺は目眩に襲われた。
これはアレだ、ヤケ酒の後の感覚に似ている。或いは車酔い。若しくはMP切れ…MP?
MPが削れるような極めて高度な罠なんて、こんな人里の近くにあるわけが無い。あったとしても7万年の歴史のどこかで誰かが触って無害化されているはずだ。…そうか!そういうことか?
急いでステータス欄を見る。
やはりと言うべきか、とあるスキルの文字が使用中を示す灰色に変わっていた。
そのスキルは《魔王城建築》。まじかよ、こんな所に魔王城建てたら即詰みだろ。目の前に人類最大の補給地点があるんやぞ。
そんな俺の叫びも虚しく、魔王城はどんどん大きく…いや?そんなに大きくなってないな。
このサイズ感、このデザイン…これじゃまるで……
「喫茶店じゃねーか!!!!」
ご丁寧に看板まで付けられている。もしかして、俺の休みたいという願望が魔王城をこんな姿にしてしまったのだろうか。いや、そんなわけないよな。
まあ、入り口前でウロチョロしてても状況が変わる訳では無い。ここはそうだ、ひとつ、偵察といこうじゃないか。勇気を振り絞って…いざ、入店!
外観から想像はしていたが、内装も至って普通の喫茶店だ。それも人間界基準のやつ。イカしたドクロとか棺桶とかそういう魔王城じみたインテリアはひとつもない。
店内を一通り見た感想は、「普通にオシャレな喫茶店」と言ったところか。なんて言うか、これなら人間も攻めてこないんじゃないかと思ってしまう。
店の外から、「なんだこの禍々しい気配は!!」とかなんとか聞こえてくるのは気のせいだ。
もう、開き直って喫茶店のマスターでもするか?どうせ攻撃スキル皆無だし。ステータス値は兎も角として、勇者と戦ったらもれなく負けるようなスキル編成だからな。
ハァ…このスキルは使う気が起きなかったんだけどなぁ。
ボヤきながらステータス欄をポチる。
そう、魔王になって手に入れた《喫茶店経営》スキルをね!もう、俺には「無害な魔王」として振る舞う道しか残されていないんだ!!悔しい!
それはさておき、ステータス欄をいじって分かったことがある。《喫茶店経営》はヘルプ機能付きだってことだ。
いや、有難いんだけどね?有難いけど、もっとそこはこう…攻撃面をね?サポートして欲しかったなぁって俺は思うよ?
1人で泣き言を言っても仕方が無いので、ヘルプ機能を贅沢に使いながら開店の準備をする。あれ?意外と俺って手際がいい?もしかして俺、マスターの才能あるんじゃね?
…スキルの補正とか言うなよ。悲しくなるだろ。
開店準備はものの数十分で終わった。まさか、仕入れまでスキルがサポートしてくれるなんて…!
なんか、聞き覚えのない通貨《喫茶ポイント》を消費したが、店に客が来ればその滞在時間に応じて《喫茶ポイント》は増えるらしい。
ちなみにスキルで入手した食料は俺も食べることができる。
《喫茶店経営》メニュー欄を弄っていたところ、食品それぞれの食事効果は自由に設定できるらしい…ということが分かった。
試しに何か付けてみようと思ったが、1つの料理ごとに500ポイントも使わないといけないようだったので諦めた。
現在の手持ちのポイントは初期の1万cpから開店資金の7200cpを抜いて2800cpだ。cpって言うのは《喫茶ポイント》の略らしい。正直、ポイント的に余裕があるとは言えない。
ここでひとつ、気になっていたことがある。
もし、俺がこの店を開店したとして、立地的に主な客は人間ということになる。俺は人間の敵である魔王だ。そして俺は攻撃スキルを持っていない雑魚。つまり、掃いて捨てるほどいる魔王の中で最弱である俺を討伐しようと思う奴はごまんといる。
そして居城はなんと人間界の目の前だ。これではどうぞ討伐してください、ぼくはチュートリアル魔王ですと言っているようなものだ。
…何か、人間たちが俺の討伐を踏みとどまるような一手が無いものか。今の俺ができるのは《喫茶店経営》だけ。いや、待てよ?もう1つスキルがあったよな?
…そうだ、これだ!《ステータス付与》!
このスキルは他者にステータス値をランダムに付与するスキルだ。…自分に付与できないのが残念でならない。まあ、このスキルを使ったからと言って自分のステータス値が下がる訳でもないから良いのだろうか?
それはさておき、このスキルを料理に付与すればステータスupの食事効果が付く。そして、その価値に気づいた人間たちは俺を襲わない!どうだ!完璧な作戦じゃないか!?
フッとカッコイイ(当社比)笑みを浮かべつつ料理にステータスupを付与する。ふむふむ、力を上げる代わりに防御とか速さが下がるなんていう付与の仕方もあるようだ。そういうのも混ぜとくか。
ちなみに作った料理は異空間に仕舞われているらしい。取り出したものはいつでもできたて…つまり異空間の中は時間が止まっているということなんだろうな。
…なんだその便利な力は!?
あ、料理とお金とインテリア以外は収納してくれないのね?しかも、俺が作った魔王城から1歩出ると引き出し機能が凍結される…。旅先で引き落としは出来ないのか…。貯金はできるけど。
まあ、旅先で買い物袋を両手に持たなくて良いという点は素晴らしいかな。
ふぅ、と一息つく。準備はこれくらいでいいだろう。後は客を待つだけだ。
カランカラン〜
早速第1号の入店者が来た!