三つ目の巨神
「そしたら、その部族の酋長が、俺に娘と結婚して欲しいと言い出してね」
南洋帰りの大平が笑いながら言う。
「それで、どうしたんだ?」
「丁重にお断りしたよ」
もったいないことをしたなと思ったが、口には出さなかった。
「ところで、みぶに面白いお土産があるんだ」
「何だい?」
「ちょっと待てよ」
大きなバッグを開けて、茶色い紙包みを出す。
中から出て来たのは、タブレット位の大きさの不思議なお面だった。
南国の民芸品風の顔をしているが、何故か額に三っつ目の大きな目がついている。
「なんか、これが神様のお面らしいんだ」
「そんなの貰っていいのか?」
「ああ、君がラジオでやってる怖い話のネタにでもなればと思ってね」
「それは、どうも」
せっかくだから、本棚の上に飾っておいた。
「その写真はなんだい?」
大平が、やはり本棚の上にある秋田犬の写真を見て尋ねる。
「去年亡くなったリキだ」
「そういえば、前に来た時には犬がいたなあ」
懐かしそうに大平が言った。
生まれて3ヶ月の頃から飼い始めたリキは、去年の十月に天寿を全うして召されたのだ。
人懐っこい犬だった。
大平は、同じく土産に持ってきた得体の知れない南の島の酒を酌み交わし、夜遅くに帰って行った。
彼が帰ると、酔いも手伝ってソファーの上で眠ってしまう。
夜中に目を覚ますと、意識はあるのに体が動かない。
金縛りというやつだろうか。
枕元に人の気配がする。
目だけを動かして見ると…
黒い影が立っていた。
天井まで届くような巨人だ。
額に三っつ目の大きな目がついている。
翌日、確認しようと大平に何度も電話をかけたが、全く通じない。
彼の身にも何か起こっているのかも知れない。
このお面を捨てれば解決するのかも知れないが、何やら呪いがかかりそうでそんな勇気も出ない。
とりあえず、本棚の上から別のラックの引き出しに移動した。
本棚の上には母親の位牌とリキの写真が並べて有り、ある種、神棚のように使っているのだ。
買い物に出かけて帰宅すると、どうしたことか、引き出しの中にしまっておいたはずのお面が位牌やリキの写真と並んで棚の上に戻っている。
やはり、このお面には不思議な力があるらしい。
その夜は、本棚から離れて隣の部屋で寝た。
深夜にふと目が覚める。
体が動かない。
違う部屋にいても、金縛りに合うとは…
枕元には三つ目の巨大な男が立っている。
巨人は位置を変え、ぼくの胸の上に座り込んだ。
苦しいが動けない。
そのまま、巨人が首を絞めて来る。
ぼくはベンチプレスなら120キロ挙げるし、空手の有段者でもある。
体さえ動けば跳ね除ける自信があるのだが、次第に意識が遠のいて来た。
その時…
黒い影が飛び出してきて、巨人の首に飛び掛るのが目に入る。
巨人は首をかきむしるが、黒い影は喉に喰いついて離れない。
その時、黒い影がリキのたくましい姿であることに気づいた。
巨人は抵抗をあきらめ、空気に溶け込むように消えてしまう。
リキの姿も、やはり消失した。
体が動くようになったので、隣の部屋へ行ってみると…
三つ目のお面は真っ二つに割れており、その切り口には秋田犬の歯型がついていた。