表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/2

1:はっ、随分派手な始まりだな

とある街の、とある夜、戦いが起きていた。と言っても、かなり一方的のようだが。


「おらよ!」


掛け声とともにパンチが繰り出される。


「ぐあっ!」


相手はパンチを避けきれず、思いっきり鳩尾に命中したようだ。倒れ込んだ相手の前に立ち最後の一撃を喰らわせる。

右手に力を貯め、大きく振りかぶり、殴る!


「いくぞ、くらいやがれ!」

「がぁ……」


ドン!と鈍い音が少し響く。相手は少し呻き、完全に脱力した。


「才能や能力に頼るのもいいが、ちったぁ努力するべきだったな。」


意識があるか怪しい相手に向かってそう言い放つと、彼は立ち去った。



「おっはよー!あの話みんな聞いた?」

「知ってる!あれでしょ、あの火寺(ひでら)先輩が昨日の夜やられたんだって!」

「あー、聞いたような、聞いてないような……。」

「でも、あの人調子乗りやすいからね。どうせ調子乗ってたんでしょ。」

女子高校生たちが教室で話しているようだ。

……朝から少し物騒な話のようだが、それもそのはず。この世界には、特殊な能力を持った人間しかいない。例えば炎を出す能力だったり、空間を移動する能力だったり、姿が透明になる能力だったり。

そんな世界、特にこの街では能力者同士の戦闘行為が推奨されている。(さすがに周囲に被害が及ぶような戦闘は禁止されているが。)


「でも、火寺を倒したやつって誰なんだろ。道に倒れてたって聞いただけだし。あおいっちは、どんな奴がやったと思う?」

「私は……うーん、よくわかんないや……。」

「あはは、そりゃそうだよね。私らも何も知らないもん。」


ガラガラっと勢いよく教室の扉が開き、先生が入ってくる。


「お前ら、席につけー。ホームルーム始めるぞー。」


やる気のない声で先生が言う。生徒たちがそれぞれの先に戻ると、また先生が話し始める。


「えっと、全員揃ってるな。特に言うこともないしこれで終わり……といきたいところだが、今日は転校生がいる。」


おおおおおおおおおおお!とクラス中が盛り上がる。

「転校生か、珍しいな。」「このクラスについていけるかな?」「かっこいい人だといいなぁ。」「そもそも男か女かもわかってねえだろ。」

皆が騒ぐ中、扉が開かれ、人が入ってくる。皆が彼の一挙一動に注目する。教壇の前に立ち、息を吸い、自己紹介する。


「おっすおっす、佐久間(さくま)だ。よろしく。あー、結構遠いところからここに来たんでな、あんま勝手がわからん。ま、そうだな。色々とよろしく頼む。」


一瞬教室が静まり返る。その後、ボソボソと喋りだす。

「思ってたよりヤバい奴がきたな……。」「顔はいいけど、中身がちょっと……。」「何いってんだあいつ?」「まあ、良くも悪くもこのクラスにはあってるんじゃないか?」


「やれやれ、酷い言われようだ。ま、そんなもんか。」


そう佐久間は呟いた。

「そうだ」と思い出したように先生が佐久間に言う。


「席の方だが、一番後ろを使ってくれ。何か問題があっても、俺じゃないやつに言えよ。」

「そんじゃ、授業始めるぞー。」



放課後、佐久間を一目見ようと、彼の周りに生徒たちが集まった。


「おいおい、邪魔だな。これがこの街の歓迎方法だってのか?」

「転校生が来るなんて滅多にないことだからな。みんな飢えてんだよ、出会いに。」


佐久田の側にいる男の名前は、藤本(ふじもと)龍樹(たつき)だ。背も高く、筋肉もなかなかなものだ。簡単に言えばごつい。見た目から察するに、体育会系なのだろう。勝手がわからない俺に色々教えてくれるのだが、どこにでもついてくる。それこそトイレにまで。


「だが、出会いと言うと少し違う気もするな。正確には……」

「戦い、だろ。」

「!!!」

「皆に聞こえるよう少し大きな声で言ったが、上手い具合に驚いてくれるな。で、藤本も同じようなもんだろ。俺と戦う機会を狙ってた。違うか?」


質問する佐久田に、藤本は驚きながらも応じる。


「そう、だ。よくわかったな。頭の回転もずいぶん早いみたいだな。」

「そこも自慢なんでな。で、どうする?」


ニヤニヤしながら佐久間が尋ねる。

藤本は拳を自身の胸の前で合わせ、応える。


「もちろん決まってるだろ。戦闘を申し込む!」

「ここまで来るのに結構時間がかかったな。その分早く終わらせてやるよ!いいぜ、勝負といこうぜ!」



狭い廊下から、グラウンドへと場所を移した佐久間と藤本。もちろん少し離れた所には生徒が大勢いる。校舎から見ている生徒もいるようだ。


「ここでいいか、佐久間。嫌とは言わせんが。」

「もちろんだ。ギャラリーも十分だしな。」


佐久間は辺りを見回し、藤本と向き合う。


「行くぞ、戦いを始めようか!」


そう言うなり、藤本が佐久間の方に向かって叫びながら走り出す。


「おおおおおおおおおおおおお!」

「これが俺の初戦ってわけか。いいぜ、魅せてやるよ!」


走る藤本に対して、佐久間は逃げることしかしていない。

「なんだ、戦闘向きじゃないのか?」「あんな自信満々だったくせにか?」「もっと派手にいけや!」

生徒たちが好き勝手言う。だが佐久間は気にしていない様子だ。

追い続けていた藤本だったが、急に止まった。


「どうした?もう体力が尽きたか?」

「逃げてばっかりじゃつまらねえだろ!俺の力、使ってやるぜ!」


藤本が右手を前に突き出したとき、突き出した手から炎の球がでた。


「うおっ!危ねえ!」

「隙ができたぞ!くらえ!」


佐久間はなんとか炎の球を避けるが、その隙に攻撃をくらってしまった。


「ぐっ、なかなかやるじゃねえか。」

「だろ?お前の力も見せてみろよ!」


そう言って藤本が左右の手を交互に突き出し、炎の球を佐久間に向けて撃つ。

だが、5発ほど出た後はいくら手を突き出しても炎の球が出なくなった。


「な!何をした!佐久間!」


ニヤリ、と大胆不敵に佐久間が笑う。


「これが俺の力だ。さ、来いよ。」


能力が使えないならば、と藤本が素手で殴りにかかる。だが、先ほどよりも走るスピードが遅くなっている。

自分の体に異変を感じた藤本が叫ぶ。


「なんだ、なんなんだ!お前の能力は一体なんなんだ!」

「いつかはバレることだ。なら今教えてやるよ。」


冷静に、実に冷静に佐久間は返す。


「俺の能力は、範囲内の人間が努力で得た力以外使えなくなる能力だ。ま、何を言ってるか、今の頭じゃ理解できねーだろうがな。」

「ぐっ!舐めるなよ!」

「猪でももう少し賢いぜ。そんな単調な動きを捌く程度、なんてことねーぜ。」


佐久間目掛け、一直線に走ってくる藤本を力一杯殴る。よろけ、片膝を地面につけた藤本の前に佐久間が立つ。

そして佐久間は右手に力を貯め、大きく振りかぶり殴る!


「っ!」

「いくぞ、ありったけでもってぶん殴る!」


殴られた藤本が倒れる。意識は保っているが、それもギリギリなようだ。


「才能や能力に頼るのもいいが、ちったぁ努力するべきだったな。この勝負、俺の勝ちだ。」

「はっ…………」


藤本は、佐久間の言葉を聞き、負けを認めたかのように意識を手放した。

戦闘の途中から、見入っていた生徒たちが、急に盛り上がる。

「なんだあいつ!やべえよ!」「すげえもん見たな。こりゃあ盛り上がってきたぜ!」「おい転校生!俺と戦え!」「相当強いな!次は俺が戦ってやるよ!」


「やれやれ、随分野蛮な連中だ。いいぜ、1人ずつかかってこい!俺が相手してやるぜ!」

「「「「「行くぞおおおおおお!!!!!!!!」」」」」


そうして、佐久間の転向初日は過ぎていった。



「ふう、ずいぶんと疲れた。もう戦える奴はいなさそうだな。俺は先に帰らせてもらうよ。じゃあなー。」


グラウンド中に生徒たちが倒れている。どうやら佐久間が勝利したようだ。佐久間が帰ろうとしたそのとき、1人の生徒が立った。


「ま、待ってくれ……。お前、めちゃくちゃつええな……。」

「ようやく目覚めたのか、藤本。」


満身創痍で立ち上がったのは藤本だった。


「なんだ?まだやるつもりか?」

「いや、流石にそこまで気力はねえよ……。」

「まあ、冗談だ。で、何の用だってんだ?」


佐久間は一瞬本気で身構えたものの、冗談だと言った。冗談だと言った時の藤本の顔は相当引きつっていたが。


「友達に、ならないか?」

「友達?」

「ああそうだ。お前はここにきたばっかだろ。友達、ましてや知ってる奴なんていない。だから、俺がこの街で最初の友達になってやる。どうだ?」

「友達、か。そんなものいなかったから、どうすればいいかわからないな……。だが、そうだな。」


佐久間が優しい顔を見せる。今まで見せた大胆不逞な笑みとは全く違う。


「よろしく頼もうか、藤本……いや、龍樹。」

「ああ!これからよろしくな!」



そんな2人を見つめる影があった。


「佐久間……あの転校生が火寺を……?」

こっちが本命。がんばる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ