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 おもむろに三船刑事が付けた車のラジオからは今流行りの音楽が流れていた。

 一時期流行った高音中心の歌から、一般に歌いやすい音域が最近のトレンドのようだ。


「そういえば、今日のWERDOの爆発事故は大丈夫だったかい?」


「それが……、爆発の時に何故だか気を失ってしまったんですよ」


 ネットで見る限りは同様に気絶した人が沢山いたようだった。


「それは災難だったねぇ、うちの署でも同様の通報が多発して大パニックになってたよ。交通課なんて泡くってたっけかなぁ」

 苦笑いをしながらそう言うと、ボトルに入ったガムを取り出して、口に入れた。

 眠気予防だろうか。


「じゃあ通報から到着が遅れてたのも、そのせいだったんですか?」


「あーそれも原因ではあったんだけど、済まなかったね。優先すべき案件だった」


 平和な日本での殺人事件、それもかなり悪質だ。

 通報をイタズラと判断して現場への到着が遅れたというのは、メディアに知られたら恰好のネタに違いない。


 もっとも、早く到着したとしても被害が抑えられたとは考えにくかったけども。


「犯人はあの後どうしてるんですか?」


「ああ、今は病院で治療してるはずだよ。意識も戻っていないから、取り調べも出来なくてね」


「そう、ですか……」


 安心して良いのか、不安になる。

 意識を取り戻したらまた惨劇が繰り返されてしまわないだろうか……。


 不安が顔に出ていたのか、フォローを入れるように三船刑事が笑いかけてくる。

「病院って言っても容疑者のすぐ側には私服の警官がいるし、何よりあの怪我じゃ、身動きすらままならないはずさ」


「思いっきりフルスイングでしたからね……」


 まるで車に跳ね飛ばされたんじゃないかと疑うほどの威力だった。


「正当防衛ってことで進めるけどね、流石にやり過ぎってのと容疑者の証拠が目撃だけ、ということでちょっと難航しそうなんだ」


 あの時、店内の電気が落ちていたせいで、監視カメラも停まってしまっていたのだろう。


「でも、あの男が間違いなく人を二人殺してますよ。それは本当です!」

 思わず語気が強くなってしまう。


「うん、それは間違いないとこちらも理解してるよ。返り血の浴び方や、複数の証言が出ているからね」


「そうなら、良いんですけど……」


 警察を信頼していない訳ではないけれど、自分が全てを話していないことと、あまりにも常軌を逸した現実は、不安を掻き立ててくる。


「もしかしたら、法廷で証言をお願いすることもあるかも知れないから、その時はよろしく頼むよ」


「ええと……もちろんです!」


 法廷ということはあの男ともう一度顔を合わせる事になるのだろう。

 一抹の不安は拭い去れないものの、自分の発言が必要ならば行かねばならないと思った。


「頼もしい限りだね!……そうだ、一つ忘れていたことがあったんだけど、良いかな?」


「何ですか?」


「うん、若い男性の怒鳴り声が聞こえた後、店内が昼間のように明るくなった瞬間があった、という目撃情報があってね。これは君かな?」


「それは……」


 急に言われた言葉の意味、明るくなったという言葉にドキリと心臓がはねるが、そこに意図は無いはずだ。


「たしかにあの時、犯人の男を怒鳴りました。だけど、コケた時だったはずなので、光ったかどうかはよく分からないですね」

 自分の証言に辻褄を合わせながら、誤魔化す。


「そうか……、喧嘩を止めようとしていたって言ってたもんなぁ。しかしね、威勢が良いのは悪い事じゃないけど、ほどほどにしなさいね」


 呆れながら嗜められる。

 納得してくれたようだ。


「はい……。殺人なんてもう二度と関わりたく無いです」


「はっはっは!そりゃあ、そうだ!ん、そろそろこの辺りじゃ無いかい?」


 言われて気づくと、辺りは見知った景色に移っていた。


「あ、本当だ。この先の信号を右折した所で大丈夫です!」


「はいよ」


 家のすぐ側の路地に停めてもらう。

 時刻はすでに夜中の2時だ。


「それじゃあ、夜も遅いから最後まで気をつけてな」


 車を出るとヒンヤリと夜の涼しさが肌を撫でる。


「送って頂いてありがとうございました!」


「いやいや、これも仕事のうちさ。じゃ」


 お見送りの挨拶をすると、手を軽く振って三船刑事も去って行った。


 さて、家に帰ろう。




ーーーーーーーー




「今日は本当に疲れたなぁ……」


 部屋でひとり、呟いてみる。


 現実味の無い一日で、夢を見ているような、他人事のような、不思議な気持ちだ。

 人の死に直面しているし、自分もあわやという所だったのだ。

 取り乱してもおかしくないはずだった。


 それでも、心は何故か落ち着いている。


 家に帰って、結衣に会った時にはどこか安心した気もしたから、もしかしたらショックのあまり一時的に麻痺してしまったのかもしれない。


 ……いや、違う。


 自分という人間の浅ましさが嫌になる。

 心を痛めてしまったが為に、現実を受け止めきれない訳では無い。


 馬鹿さ加減に思わず笑いが込み上げる。

 俺はただ、魔法が使えたことが嬉しかったのだ。


 どれだけそれらしい理由を並べても、どれだけ感情を揺さぶる事があっても、頭の中では魔法で一杯だった。


 危うく死にそうになっても、警察に調書を受ける時も、泣いている妹を抱き止めている時でさえも。


 頭の片隅にはずっと魔法がチラついていた。

 そしてそれは、今も同じだ。

 

 電気を消して、布団に横たわる。


 ーー右手に意識を集中する。


 全身から力を集めるように、感覚を研ぎ澄ませる。

 あの時の感覚を思い出して、電気を溜めるようにしてゆっくりと。

 イメージは豆電球を人差し指の先端で作るように……。


 ーー!光った!

 しかし、すぐに消えてしまう。


 溜めたエネルギーを一気に使ってしまった感じだろうか。


 もう一度同じ手順で繰り返すと、やはり同様に光る。


 魔法が使えるようになったんだと、頭が理解するが、心が追いつかない。


 何故突然使えるようになったんだろう?

 ……今までは使えなかったのに。


 考えても答えは見つからない。

 それよりも、どこまで自分が出来るのか知りたい気持ちが強くなる。


 今度は、長く光るように力を流し続けるイメージでやってみようーー。


 ……先程より数秒長くなるが、光量が弱々しくなり消えてしまう。

 なかなか感覚が難しい。


 何にせよ、変化があったということはいずれ使いこなせるのではないか。


 ーー成功するまで試してみるか。


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