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「直接は見ていない……か」

 目の前ではグルメコーポ殺人事件の担当刑事である三船刑事が眉間に皺を寄せている。


 結局2時間遅れて来た警察は1度目の通報をイタズラだと勘違いしていたらしい。

 複数人からの通報と一部の剣幕に負けて来たら本当だったというお粗末な流れだ。


 現在は現場に居合わせた人達への取り調べではあるが、難航しているのは言うまでも無いのかも知れない。


「もう一度質問するけどね、君の服についていた被害者の血はどうやって付いたんだい?」


 何度か繰り返された質問だ。


「暗闇で足下が覚束なくて、犯人に驚いてコケました」

 悲しい事実だ。


「コケた、ねえ。なんで犯人に近づいたんだ?危ないかもしれないじゃ無いか?」


「その時はまだ、人が死んだということも分からなかったんですよ。ただ、アナウンスしていた店員さんの声が途切れて……他の店員っぽいやつが叫んでたんで喧嘩なら止めなくちゃって思って……」


 真実を正直に答えてしまえば、惨劇に対峙した事によるPTSDだと思われてしまうはずだと、笹城さんの旦那さんから助言を貰っていた。

 ただ、嘘を吐くと無駄に怪しまれる可能性があるから、こうして削り取った内容で話している。


「そう、か。では次の質問に移ろうか。その叫んでいた店員、犯人だけどね、何か凶器は持っていたかな?」


「いいえ、持っていなかったと思います」


「それじゃあ……どうやって人を二人も、それも上半身を原型が失われてしまう程に吹き飛ばしてしまったんだろう?」


 先程とは違う質問。


「あの時は本当に非現実的で、人が死んでいるっていうことも後から実感が湧いたんです。どうやって殺したかなんて……」


「後からでも構わないんだ。何か想像がつくかい?」


 そう、あの時は皆目検討も付かなかった。

 自分が光を放つまでは。


 今では犯人が何かしらの魔法、内側から爆発するような力を使ったのでは無いかと考えてしまう。

 広範囲に飛び散っていたことや、特定の方向というより円形に近い形での飛散は、中から圧が掛かって爆発したようだった。

 イメージをするなら、電子レンジの卵だろう。


「ああ、済まないね。思い出させてしまったかな。実は……警察としても困っていてね、凶器が見つからないんだ。もっとも、あんな風に仏さんをしてしまうなんてのは信じ難いものだけど」


「すいません。全く思い当たるものが無くて……」


「いやいや、良いんだ。済まなかったね。では、これで取り調べ終了!夜遅くまでご協力ありがとうございました」


「はい、こちらこそありがとうございました」


 これで終わりかと思うと、途端に眠くなってくる。あくびをかみ殺しながら、席を立つ。


「後はもう帰って良いんだけど、歩いて帰らせる訳にも行かないからね、ちょうど僕も仕事帰りだから、送って行こうか」


「本当ですか!助かります!」


 時刻はすでに日を跨いでいたので、素直にありがたい提案だ。


「よし!ちょっと用意してくるから、廊下の長椅子にでも座ってて」


 ガチャリ、と扉を出てすぐそこの椅子へと誘導される。


「それじゃあ、後でね」

「はい!」


 優しい刑事さんで良かったとホッとする。


 今度は忘れずに、今から帰るけど先に寝てて、と結衣に連絡を入れておく。

 すると、1分も掛かっていないだろうか。待ってるよ、と返事が返ってきた。

 本当に良い子に育ったなぁ。彼氏ができたら相当にショックを受ける気がしてならない……。


 1日を振り返ると色々ありすぎて、本当に現実なのか疑いたくなるほどだ。

 新しいエネルギー、魔素と魔法、WERDO日本支部の爆発事故、意識を失った事、グルメコーポ殺人事件、そして光を放ったーー。

 

 ふと、右手を見て思い返す。

 あれは、たしかに自分でやった事だ。


 あの時と同じように、全身から力を集める感じで、右手に集中してみる。

 ……光らない。


 なんだろう、あの時のグッと何かが集まる感覚が足りない。集中力の問題だろうか、追い詰められていないから?それともーー。

「おーい、待たせたね」


 急な呼びかけにびくりとする。

 顔を上げると先程の刑事、三船さんがこちらに歩いて来ていた。


「わざわざすみません。ありがとうございます」


「なーに、アフターフォローも刑事の仕事さ!さ、行こうか!」





ーーーーーーーーーー





「あの青年、何か隠していますね。肝心な所は語らないで上手くはぐらかしているような印象を受けました」


 取り調べ後の署内で三船刑事は先輩刑事と情報を交換していた。


「そっちもか、俺の担当した夫婦もどうにも怪しくてな……」


「あれでしょう?奥さんが犯人を荷物で殴り飛ばしたっていう……。豪快な話だよなぁ。殺人犯相手にエコバッグで立ち向かうってのはなかなかできるもんじゃ無いですよね」


「いや、それもそうなんだが、その犯人な、結構な怪我なんだよ。眼底骨折、頚椎捻挫、脳震盪、その他裂傷、だったっけな。それこそ、熊にでも殴られたんじゃ無いかっていうくらいらしい」


「まぁ、仏さんのこと考えたらその程度大した事ないじゃないですか。ありゃあ遺族になんて説明したら良いのか……」


「俺が言いたいのはなんていうか、おかしいのは犯人だけじゃ無いぞっていうことなんだよ。三船、お前あのガキマークしとけ」


「考えすぎな気もしますけどね……。現に犯人はもう捕まっていますし」


「バカやろう、警戒しすぎなくらいが丁度良いんだよ。ただでさえ……今日は変な事件が多いんだからな」


 同日、警察ではいたずら電話にも思える通報が多発していた。

 体が半分壁に埋まった男や、電柱のてっぺんで動けなくなった少年、突如として消えた宝石店の商品など多岐に渡ったものがあった。


「分かりました。ちょうど送って帰るつもりでしたし、少し探りを入れてみますよ」



 急速な変化は目に見えず、それでいて確実に世界へ広がっていたーー。


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