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「ごちそうさまでした!」
結衣の元気の良い挨拶。
「はい、おそまつさまでした」
我が家は共働きの両親のため、毎週日曜日は兄弟でお昼ご飯を作ることになっている。
……もっとも、由依は作らないので実質自分の担当だ。
お昼もこなし、どことなく睡魔に襲われる。
ソファーに吸い込まれるように沈み込むと、洗い物をしていた由依から抗議の声があがった。
「あー!お兄ちゃんずるい!そこは私が予約してたのに!」
「うん?おやすみ〜」
このソファーは先着順だ。
「もー!食べて寝ると牛になっちゃうよ!?」
ガチャガチャと食器を洗う音が大きくなる。
急いで洗い物を終えようとしているようだ。
「良い心地じゃ〜」
意味はないけれど、少し煽ってみた。
そういえばと、天井の灯りを遮るように右腕を眼の上に置き、手のひらに集中する。
何となく、いつかは魔法が使えるようになるんじゃないかと思い、ついやってしまう行動だ。
全身から右手にかけて何かを集めていく感じで、
ゆっくりと感覚を探る。人間には五感しか無いはずだけれど、それ以外の感覚を探し出す気持ちでーー。
集まった感覚をゆっくりと光に変えるイメージで手を……。
「はい、どーん!」
唐突な腹部への衝撃。
「ゴッ…!流石にダイブは駄目でしょ!」
「ゴッ!だって!あはははは!」
妹による強襲。まるで容赦が無い。
「ほらほら、どいたどいた!」
半ば強制的に足元から床のカーペットに降ろされてしまう。ソファーには寄り掛かる程度しか許されない。
「昼下がりの安らぎが……」
シクシクと悲しんでいると、定位置についた結衣に頭をクシャクシャと撫でられる。
「よしよし。温めご苦労であったぞ」
「いや、どこの武将だよ!」
ワラジは温めてもソファーは温めないだろう。
文句の一つでも言ってやろうと後ろを振り返ると、結衣と目が合う。
「えへへ、でも洗い物ちゃんと終わらせたよ?偉いでしょ?」
「む……はぁ、ありがと」
屈託なく笑いかけられると、気が削がれてしまう。我ながら妹に甘い兄だ。
「お兄ちゃんはさー……」
しばらくの沈黙の後、ふと結衣が何かを言いかけた。
「どうした?」
「うん……なんて言うか、別に彼女とか焦って作らなくても良いんじゃないかなぁ?」
やや言いづらそうな雰囲気を感じる。
「え、滲み出る必死さが良く無いのかな?」
余裕のある男がモテると聞くことがある。実際女友達もあまりおらず、女性と話すとテンパる自覚はあった。
「ううん、そういうんじゃないんだけど……」
答えは違うようだ。
「えーじゃあ結衣はどうしたら良いと思う?」
わからない時は素直に助言を求めると良い。
「もっと妹にかまう、とか……。魔法でもあれば良いのにね!」
最初の方は聞き取りづらく分からなかったが、魔法あたりからハッキリと聞こえた。
「あー魔法でもあれば、ねぇ」
魔法頼みってことは現実ではもう手遅れっていうことだろうか。
そこまで危機的状況だったとは……。
「いや魔法があったらってのは、言葉のあやっていうか!てか、そうだ!魔法!結局、何で使えないって結論になったの?」
「あーそれなぁ、まだどうやって魔素を魔法に変えるか公表されてないんだよ」
そういえばと魔法について調べていたことを伝える。
「えー、それならまだ使えないかどうか、分からないんじゃないの?」
「そうなんだけどさ、ネット見てると政治とか経済がとか、大人の事情ってやつで普通の人には使えなそうなんだよね」
新しいエネルギーともなれば、利権問題が出てくるだろうし、何より、誰でも魔法を使える世界なんて危なっかしい。
結局は今まで通りの生活に大した変わりは無いだろう。
「ふーん、大人の事情ねぇ」
「そう、大人の事情ーー」
ーードッバンッ!!突然の音に思わず飛び上がる。
それは大きな花火がすぐそばで上がった時のような、振動と爆音だった。
「えっ……何の音!?」
結衣が驚いて窓に駆け寄る。
「今のは尋常じゃないね……どっかの工場の爆発?」
窓から伺うに煙などは見えない。すぐ近くで起きた爆発などでは無いようだった。
「あ、そうだ!お兄ちゃんテレビ付けて!流石に今のはニュースクラスでしょ!」
「確かに!」
言われて慌ただしくリモコンのスイッチを押すと、先ほど見ていたチャンネルに速報が流れていた。
『えー、ただいま臨時のニュースが入りました。臨時のニュースが入りました。番組の途中ではございますが、中断してお送りいたします』
『現在、WERDOの日本支部、魔素研究所にて爆発と思われる衝撃音が確認されました。繰り返します。WERDOの日本支部、魔素研究所にて爆発と思われる衝撃音が確認されましたーー』




