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「魔物って言うと、やっぱり人を襲ったり危険な存在なんですかね?」
脳裏には、出会った瞬間に襲いかかってくるイメージが浮かぶ。
「思考が短絡的になっているぞ。まったく、魔物と聞いて、大方ゲームの知識でも連想したのだろうな。たしかに肉食の生物はより危険性も増すだろうが、そもそも日本にそうした生物は数が少ないだろう?」
呆れたように諭される。
言われてみると、日本ではせいぜい熊くらいしか危険な生物はいないか……。でもそれなら、海外は危ない魔物も増えるのだろうか。
「えーじゃあその辺の動物と変わらないんですかぁ?」
霧島さんが残念そうに言う。
「うーむ、どうだかね。進化に対してどのように魔法が働くのか、まるで不明だ。もしかしたら巨大化した生物や、知性も持った生物なんかも、現れるかもしれないな」
博士は霧島さんが質問すると、やはり応対が甘くなる気がある。
「うーん。魔法はまだまだ、分からないことだらけなんですねぇ」
「結局は後手で調べて発覚した事ばかり、だからな。さて……大方話したいことは話したから、ここらで帰るとするか。何かあったらここに連絡しなさい」
博士は立ち上がると、胸ポケットからケースを取り出し、名刺を渡してくる。
受け取ると、そこには『皆で切磋琢磨し、個人が規律を持つ社会を目指す会』と言う長ったらしい組織名と、『会長 博士』と書かれていた。
……本名を語るのはやはり嫌なようだ。
「最後に教えて欲しいんですが、色々な魔法を使う事は可能ですか?」
実はこれが一番知りたいと思っていたことだ。原理だとか、始まりの理由よりも、魔法で何が出来るのかを知りたい。
博士は一瞬考えるような顔をするが、すぐにニヤリと笑うと、「それは君次第だな」と答えた。
詳しく話を聞こうと口を開くが……。
ーーピンポーン。チャイムが鳴った。
ッ!またしても間が悪い!
再度遊崎さんが来たのだろうか。と、警戒しながら扉を開ける。
そこには、いつぞやの三船刑事が立っていた。
「やあ、急に済まないね。少しだけ時間をもらってもいいかな」
「えっと、今来客中でして……」
「ああそうだったのか……。出直すか」
三船刑事は苦笑いをして、頭をかいている。
非常識な訪問販売みたいな人達が続いたため、大人の対応に謎の感動を覚える。
なんとか力になってあげたいところだけど……。
「あ、私そろそろ帰りますから大丈夫ですよ!」
霧島さんが荷物片手に話しかけてきた。
「おや、彼女が来ていたのか。無粋な真似をしたね。後日また伺うよ」
「いやいや! 訳あって……知り合った仲というか! そんな恋人だなんて!」
思わず声がひっくり返りそうになりながら、否定をする。自分には不釣り合いだし、勘違いされること自体が霧島さんに申し訳ない。
「そ、そうかい? 勘違いして悪かったね」
「む、まだこれからの仲ってことですよ!」
何故だか霧島さんは否定の否定をする。
秘密を共有している仲だし、友達くらいにはなれる関係性なのでは。と思いはするが、妹の友達というポジション程度に落ち着くだろうか。
微妙な雰囲気に気まずさを覚えていると、大事な人物を忘れていた。
「それに博士も……、あれ? 博士ー?」
部屋に向かって声を掛けるが返事が無い。
「博士なら帰っちゃいましたよ」
あっけからんと霧島さんが言ってのける。
「え? でも靴もあるし……」
目の前には、中年男性向けの革靴が一足並んでいる。
「それが『公僕の匂いがする!』なんて捨て台詞を吐き捨てて、バルコニーから……」
博士……。思わず頭を押さえてしまう。
なんとなく警察とか組織を嫌ってそうな雰囲気は確かにあった。それにしたって、靴を置いて逃げるように出ていかなくても……。
「あ、あははは……。変わった来客の人がいたのかな」
三船刑事が引き攣るような笑いで、気にしてないというように場を取り繕う。
申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、溜息が口から漏れ出てしまう。
「あの、色々とすみません……。大した物もお出し出来ないですが、中にどうぞ」




