19
「えっ!?」
想像以上にというか、もっと飛躍した話だった。
全生物とはどういうことだろう?
「驚くのは無理もない。もっとも、正確には潜在的なスペックの話ではあるがね。全ての生き物はある時を境に、魔法と通じるようになった。ーーWERDO日本支部爆発事故をきっかけにね」
「やっぱりあの日が始まりなんだ……」
「ふむ。やはり早期に力の獲得をしていたわけか……君達は何を魔法に祈った?」
祈る、か。最初に使えたのはいつものようにして……。
「俺は……光、です」
「私は……よく分からないです」
霧島さんは魔法の前段階が視えるけれど、それが魔法なのかはいまいち分からない。
「おや、お嬢さんは未覚醒なのか。まぁ、魔法自体、いずれ知ることには違いない。それにしても光とは……どんな暮らしをしていれば、この豊かな日本で光を求めるのやら」
「珍しいものなんですか? というか、そもそもどうして魔法が使えているのか分からないんですが……」
原因はWERDOの爆発事故であると分かったが、肝心の何故使えるのかの説明が未だに無いのだ。
「順に説明するから落ち着きなさい。まったく、若者というのはすぐ答えを知りたがる」
博士は散々時間が無いとか言っていたわりに、ゆっくりと話している。
下手にこちらが話すと余計に長引きそうなため、黙って続きを待つことした。
「……あの日、私は予算の増額を目的に本部へ足を運んでいた。メディアへの情報開示とともに、一挙に開発を推し進める必要があったからだ」
まさかの自分語りに入ってしまった。
これは長くなるのではないだろうか。
「魔素、そして魔法、これらを名付けたのは、他ならない私なのだ。そのため、予算の獲得は私が直接交渉した方が良いとの判断だな」
「はぇー、博士は凄い人なんですね!」
霧島さんが褒めると、博士は期待通りといった表情で、「そういうことになるな」とニヤついている。
「そして私の不在時に、問題は起きたのだ。そう、知っての通り【魔素供給機構】の暴走と【熱エネルギー変換装置】の許容を超えた末に起きた事故、だ」
し、知らない話だ!
「博士が居なかったから、起きちゃった事件だったんですね……」
霧島さんはそっかぁ、と少しテンションを下げて相槌を打つ。
「そう、私さえいればこんな事にはならなかっただろう……」
博士も同様に、当時を悔やんでいるようだ。
それにしても……霧島さん、ヨイショして博士の機嫌をコントロールしていないか? もしかして。
「今となっては、過ぎた事だよ……。そして、世間には知られていないもう一つの真実が、そこにはある。」
「まだ秘密があったんですね!」
「ふふ、良い食いつきだ。そう、あの事故は人為的に何者かの手によって起きた可能性があり、結果として【魔素の知覚現出作用】による世界規模の【連鎖拡散反応】を引き起こしたのだ!」
バーン! と博士が声を大にして発表する。
知覚現出作用? 連鎖拡散反応? 一体どういうことなのだろう。
思わず疑問を口に出しそうになったが、ここで何か言うと、『また近頃の若者は』などと言われてしまいそうだ。
……ちらり、と横を見る。
「うわぁ、博士凄いです! そんなこと知らなかったー! でも私あまり詳しく無くて、どういう事が起きるんですか?」
霧島さんは博士を褒め、そして角の立たないように詳しい説明を求めた。
「はっはっは、流石にこの内容は分からないだろうな。大丈夫、ちゃんと説明してあげよう!」
「やったぁ!」
……どんどん博士はノリノリになっていく。
きっと、霧島さんはキャバクラとかに居たら相当のやり手になるだろうと、場違いな想像が膨らむ。
「まず、魔素とは素粒子と似た性質を持っている。これは観測すると、された側に影響を及ぼす【観測者効果】と呼ばれている。分かりやすく言うならば、イケメンに見つめられた女性はみんな顔を赤らめる、みたいな話だな。これが【知覚現出作用】の肝だ」
つまりは観測すれば魔素が使える、ということだろう。
そういえば、魔法の発動にはいつも魔素の認識から始まっている。
「われわ……WERDOではその性質を特殊な装置を用いて応用したのだ。認識された魔素は次にシグナルを与えられると熱エネルギーへと変換される。これが世間に公表された魔法の正体といったところだな」
シグナルを与える、これは魔法をイメージすることが、流れ的に同義だろう。
そして魔法が発動する、という訳か。
原理はイマイチ理解出来ないが、自分で魔法を使っている時の流れから、なんとなく分かる気がした。
「魔法って凄く科学なんですね!びっくり!」
「そう!魔法とは銘打ったものの、全ては科学で証明できるのだよ。だからこそ悔しい話でもあるのだがね……」
急に博士は、遠いところを見ているような、哀愁を感じさせる表情に変わる。
「元来、魔素というのは存在していても、実態が無い物質だ。それを観測することで、有る物質に変えた訳だ。そして魔素は伝播する性質も兼ね備えていた」
「伝播……あ、反応していないのも隣にあると、反応するってことですか?」
霧島さんがなるほど、と考え込む素振りを見せる。
一見おバカそうな相槌だったが、恐ろしい事にちゃんと内容についていけているようだ。
どこまでを理解してやっているのだろう……。
「聡明な子だな。想像がついたかもしれないが、この伝播が事故の原因であり、全ての始まりとなった理由だ。……魔素は一度観測されると連鎖的に励起されてしまう。ウランの核分裂反応だとか、集団心理のバンドワゴン効果などを、イメージすれば分かるだろう」
……例えがさっぱり分からない。
たぶん、一つが変化すると、周りも巻き込んで変化してしまう、ということのようだ。
正直なところ、霧島さんの応対が気になって、内容が頭に入ってこないのだ。
「今の話だと、コントロール効かなくなっちゃいますよね……? 一定量の魔素を持続的に、安定して観測、供給できるシステムがあったんでしょうか?」
「そうだな。まさにその通りだ。そして、何者かによってその機能が暴走し、許容を超えた魔素の供給は熱エネルギー変換器で爆発を引き起こしたーー。これがWERDO日本支部爆発事故の真相だよ」
つまりはコントロール出来なくなった魔素の供給装置が、どんどんと魔素を作り出して、供給過多になったせいで爆発した。みたいな話だろう。
用語が分からないせいで理解するのが難しい話だ。
「酷い話ですね……。それじゃあ、博士はその犯人を探しているんですか?」
霧島さんは少し悲しそうな顔だ。
「いや……まぁ、それも無くは無いがね。当時私のライバル……というのか、神宮寺という男がこの事件で帰らぬ人になったんだ」
その名前どこかで……。
そうだ!
「神宮寺って、WERDO日本支部の所長の方なんじゃ……!」
「いきなり大きな声を出すんじゃ無い。まったく、自分の知識と結びつくとなると元気になりおってからに。……だがまぁ、そうだ。あいつとは旧知の仲でな、ずっと競い合ってきたんだ」
案の定、俺が話すと小言を言われてしまう。
それはそれとして、この博士とは結構凄い人物のようである。
半信半疑で聞いていた話だったが、一気に信憑性が高まった。
「さて、大方の背景は話した訳だが、肝心の話はここからだ。この事故は更に予想外の事態を引き起こした。世界規模の【連鎖拡散反応】、魔素の伝播が世界に広がり、言わば法則そのものが変わったのだよ」
「法則が変わった? それってつまり……」
霧島さんと顔を見合わせる。
どうやら、二人とも同じ答えに行き着いたようだ。
「はっはっは、もう二人とも分かるかね……。そう、世界中どこでも魔素が存在する世界、魔法と隣り合った時代が始まったのだよ!」




