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結婚4



揺れる花のように平和に笑っている使用人たちの視線から逃れるように、シーラは体の向きを変えた。そして少し声を落として白髪の従者に再度質問する。


「貴方の話だと、テオドール様は私に好意を持ってくださっているとのことでしたが」


「はい、そのとおりです!」


「私のどこが良かったのでしょう」


「ええ、もうシーラ様の全部良いのではなんじゃないでしょうかねえ。旦那様はあの通り何も言葉にはしませんが、見ていれば嫌というほど分かります」


従者はしれっと言い切るが、シーラがテオドールにパーティで話しかけられたことは辛うじて数回、ダンスに誘われてアピールされたことはゼロ、もちろんデートに誘われたことも皆無である。気のある素振りも全くされなかった。

シーラが腑に落ちないと首を振っても、従者はけらけら笑っている。


「いえいえ。シーラ様も慣れてくれば、旦那様の考えていることなど手に取るように分かるようになりますよ。旦那様は面白いくらいに分かりやすいですからねえ」


「そういうものなのですか……」


色々と納得はできないままだが、一つの意見として受け取っておくことにしたシーラであった。




「そういえば昔、シーラ様はよくこのお屋敷に遊びにいらしてくださっていましたが、覚えていらっしゃいませんか?先代、テオドール様の両親と貴方のお父様は騎士団の中でも仲が良く、お父様に連れられた貴方はよく旦那様と遊んでいましたがねえ」


「小さい頃ですか」


「あの頃の旦那様は貴方が来ると聞いたときは朝からソワソワして一緒に読みたい本を選んだり、贈り物を選んだり、シーラ様の為に珍しい食べ物をとっておいたりしていましたねえ。旦那様が一番大事にしていた本をシーラ様に譲ってしまわれたこともありましたねえ……」


「そういえば、そんなこともあったような」


深く埋まった思い出を掘り起こしてみると、幼い頃のシーラは出かける父に引っ付いて行って、到着したどこかの大きなお屋敷にいた黒髪の賢い男の子に何度か遊んでもらった記憶がある。

雪だるまを一瞬で作ってくれたり、かまくらの中でシーラが飽きるまで本を読み聞かせてくれた男の子だった。

彼から栞や本を貰ったこともあったし、一緒に押し花を作ったこともあった。

彼が持っている本が欲しいと頼んだら嫌がられたが、結局帰り際に持たせてくれたこともあった。

面倒見がよくて、なんだかんだ帰るまで遊んでくれるので、あの男の子のところに遊びに行きたいとシーラが父親にねだったことまで思い出した。

しかし結局その男の子とは段々疎遠になってしまっていたし、そんな昔のことは今の今まですっかり忘れていたシーラである。



「段々大きくなられてシーラ様と外で遊ぶことが無くなっても、士官学校に入るために王都へ行っても、シーラ様のお父様が亡くなってシーラ様が荒れに荒れていても、ミルフォーゼに帰ってきて急遽家督を継がないといけなくなっても、旦那様の中ではやっぱりずっとシーラ様だったんですよねえ。そんなに好きなのに、いや好きだからこそ何もできなかったのはやっぱり超絶ヘタレとしか言いようがないのですけどね」


生き生きと語り終えた従者は、胸に手を当ててシーラに向かってすっとお辞儀をした。


「とにもかくにも、ああいうウジウジした絶望的なヘタレで、貴方の前ではソワソワしかできない驚異的なポンコツですが、どうか旦那様をよろしくお願いします」


深く丁寧な礼に圧倒されながらも、シーラもとりあえず従者に一礼を返した。


「こちらこそよろしくお願いします」


そう、とりあえず。

感極まった従者は演技をしているようには見えないので、シーラは名ばかりの妻として雇用されたのではなく、一応妻として望まれてここにいるらしい。


従者が語ったテオドールのポンコツ云々は話半分で聞いておくことにした。

切り裂くような美貌を持っているテオドールとヘタレやポンコツという単語を結び付けるのは、どれだけ力説された後でもまだ難しかった。おっちょこちょいな単語が、テオドールの鋭利な印象と全く噛み合わない。

テオドールのシーラに対する気持ち云々にしてもそうだ。

本人のいないところで従者らが勝手に盛り上がっているだけかもしれないし、大げさに言っているだけかもしれない。従者の話を鵜呑みにするには、シーラはテオドールのことを知らなさすぎる。




「さあ、シーラ様。結婚式は春になってからですが、貴方はもうこの家の主人です。どうぞ私どものことは顎で使ってくださいね。それではお部屋までご案内いたします」


従者は、テオドールが消えたあたりをじいっと見つめていたシーラに声を掛けた。

そして嬉しそうにトランクを抱えて、スタスタと先に立って歩きだした。




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