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雪山での遭遇6



2人は残った魔物は騎士団に任せ、終わったら騎士団の馬車に乗せてもらって帰るつもりでいる。

乗っていた馬車は破壊されてしまったし雪道を歩いて帰る気力はもうないので、シーラはそれには賛成だ。


向こうを見やると、魔物たちは騎士団の素晴らしい連携攻撃に瞬く間に追い詰められていた。

流石、対魔物用に編成されて訓練を積んできた騎士団。


到着した騎士団により魔物が残らず討伐され、事後処理がサクサク進められていた。

誰が連絡したのか、丁度戦闘が終わった頃に魔物の死体処理班も到着した。


魔物の死体が処理されたら落とした髪飾りを救出しに行こうと考えているシーラと、その隣にいるテオドールは救援に来てくれた小隊の同僚たちに話しかけられていた。


「君がテオドールのお嫁様だねえ。いえいえ、こちらこそお世話になっています。はい、握手握手。よろしくねえ……って、なんで僕はテオドールと握手してるのー?まあいいかあ」

「俺らが働いてるときにデートなんてしてるから、魔物に会っちゃったりするんです。ぶち壊されて当然ですよね。俺なんて昨日もまた振られましたからね……はあ、呪わしい……」

「死んでた魔物、撲殺されてるんっすけどテオドールさんがやったんすか?新しい撲殺魔法でも覚えたんっすか?俺にも教えてくれませんか……え?テオドールさんのお嫁さんが殴ったんっすか。へー、魔物を素手で殴り殺すなんて流石っすね」

「先輩、こちらが噂のお嫁さんですかー?先輩のくせにこんなくっそ可愛いお嫁さん貰って生意気ですー。あ、俺いつも先輩のお世話してます、よろしくお願いしまー……冷たっ。先輩、髪凍らせるの本気でやめてくださいよー、おかげで俺の前髪壊死してるんですけどー。次は眼球?えー。可愛い後輩にひどい仕打ちですー」

「馬車の手配はしています。あと15分ほどで到着します。兎に角、お休みの日にお疲れさまでした」


次々に嬉しそうに話しかけてくる騎士団のメンバーに、テオドールはうんざりしたような、それでいて心なしかホッとしたような顔で対応していた。

なんだかんだ皆、テオドールとは仲が良いようだ。

シーラは微笑ましい気持ちでテオドールたちを眺めていた。


友人といる時のテオドールはこんな感じなのか。

少し新鮮である。

パーティでの少し気を張ったテオドールとも少し違うし、家にいる時とも少し違う。


そう考えると、シーラはテオドールのほんの一面しか知らなかったようだ。


キビキビしたテオドールの同僚の報告通り、シーラ達を家まで送り届けてくれる騎士団の馬車は15分で到着した。

テオドールの同僚たちに見送られ、騎士団の青を纏った高級そうな馬車に乗り込んだ。


帰りの馬車中、テオドールは足を組んでシーラの隣に座っていた。

彼は目を瞑って静かにしている。

疲れたのかもしれない。訓練を受けていないシーラの補助とか、冷やかしてくる同僚たちの相手とか。


シーラも疲れた。

かくん、と気づかぬうちに舟をこいでいた。


……危なかったです、今寝てソファから転げ落ちそうになりました……


眠たいながらもひやりとしたシーラは、身を起こしながら何かに引っ張られていることに気が付いた。

寝ているのかと思っていたが、片目だけうっすら開けたテオドールが、落ちないようにシーラの腕を引いていた。


助けてくれたお礼をモゾモゾ言って、椅子に座りなおしたシーラは再び目を閉じた。


……疲れました……


魔物と対峙している最中では興奮していて気が付かなかったが、少し無理をしてしまったらしい。

指の先から溶けて、椅子に吸い込まれてしまっているかのように体が動かない。

このところ訓練もさぼっていたし、運動不足気味でもあったツケが回ってきたのだろう。




馬車の適度な振動と心地よい温度に引き込まれるようにして、シーラはあっという間に意識を失っていた。








「……シーラ」


夢を見る余裕もないくらい熟睡していたはずなのに、掠れた声で名前を呼ばれた気がした。

それから髪が一房、梳くように持ち上げられたのを感じた。

返事をしなくては、とシーラが頭の片隅で思ったのも束の間。



「なにを……フン、気に食わん」


返事をする暇も与えられず、掬い上げられた髪も下に落とされたと思ったら、シーラの体はガクガク揺らされた。


「おい、起きろ。もうすぐ着くぞ」


今度ははっきりと耳に届いた声に起こされて、シーラは薄く目を開けた。


「もう着きますか……」


まだ少し靄がかかった頭のまま、モゾモゾと動いたシーラがテオドールの腕を小さく掴んだら、テオドールに怒られた。


「ね、寝ぼけるな!俺の腕は枕じゃない……」


「枕ではありませんでしたか、残念です」


怒られたおかげで大分覚醒してきた。

目をこすり、ゆっくり身を起こしたシーラはテオドールから手を離した。


「ところで先ほど、私のこと、なんと呼びましたか」


「おいと呼んだ」


「その前です」


シーラが小さく言うと、はっと目を見張ったテオドールが何かを察し、恐る恐る首を傾げた。


「お、お前、さっきまでちゃんとしっかり寝ていたよな?」



……ふむ、どうやら幻聴ではなかったようですねえ……


シーラはぐっすり寝ていた。

丁度、テオドールに名前を呼ばれる前まで。

もしくは、名前を呼ばれたから起きたのかもしれない。


もう二度と名前は呼ばないと言い出すと困るので、シーラは返事の代わりに何も知らないというふうに首をかしげておいた。

怪訝そうな顔をしながらも、テオドールは「それならいい」とフンと鼻を鳴らしていた。




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