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雪山での遭遇3




雪を蹴ったシーラは、魔物が振り上げた鋭い脚を避けた。

すかさずその足には氷が張り付き、割れるままに足をもごうとするが、氷に耐性のある魔物はそれを簡単に振り払った。

しかし一瞬の隙はできた。


バキィ


シーラは丁度良い場所で隙を見せた魔物の足に手刀をぶつけた。魔物の足が変な方向にバキリと折れる。


……これなら……このまま押し切れそうですね……!


魔物の牽制、足止め、弱体化。シーラを導くテオドールの怒涛の支援魔法は一級品だった。

雪の足場の誘導に任せて動けば、面白いほどにシーラの手の届くところに剥き身の魔物が誘導されてくる。

テオドールの戦況判断能力は飛び切りらしい。シーラはただ促されるまま魔物を叩き割るだけでよかった。






それからまたしばらく飛び回って、魔物たちの隙を見て一息つこうと着地した時、シーラの視界がぐらりと揺れた。


「はっ、うぐ……」


息を吸おうとしたら、喉が詰まって変な声が出た。

気が付けば、肺が擦り切れそうに痛い。


半分ほどの魔物を戦闘不能にしたところで、シーラは突然息苦しさを感じ始めた。


息を吸うたびにゼイゼイと喉から音がするし、首に巻き付くマフラーも締め付けてくるようで苦しいし、急にコートが水を吸ったように重く感じる。


「痛……」


その上、浴びた魔物の血が頭から垂れてきて目に入ってしみた。

思わず魔物の血が付いた手で目をこすってしまい、痛みはますます広がった。


痛い片目を庇いながら、周囲を警戒する。

魔物はまだ何匹か残って蠢いている。

しかし、群れる魔物を全て潰し切る前に、シーラの体に限界がきそうだった。


……積極的に潰しに行ってしまいましたが、調子に乗りすぎたようです。これからは防戦に切り替えて、時間稼ぎに徹しましょう……


シーラは荒く息をしながら、訓練を続けていればもう少し体力はあっただろうにと後悔した。

体勢を整えなければ。

そう思ったシーラが、魔物たちから距離を取ろうと後ろに飛んだ瞬間。


「あっ」




黒い髪飾りがシーラの髪からするりと抜け落ちた。

それはキラリと宙で光を反射したかと思ったら、白い地面に引き寄せられるように落ちていく。




しまったと思った次の瞬間には息をすることも忘れて、シーラは髪飾りの後を追って反射的に体の向きを変えていた。

髪飾りが雪に落ちた場所、手を伸ばしたシーラが落ちていく場所に魔物が躍り出てきた。

魔物は大きな口を開けてシーラに噛み付こうと狙いを定めている。

これでは、魔物の巨体が邪魔で髪飾りに手が届かないどころか、腕を齧られる……




口を開けている魔物の妨害はテオドールがしてくれた。


その魔物の大きな口には一瞬で形成された大きな氷柱がこれでもかと詰め込まれ、一瞬だけ魔物の動きを止める。

怯んだ魔物の頭蓋に、シーラが落ちながら拳をいくつか叩きつけて、なんとかその魔物の息の根を止めることはできた。


しかし、崩れ落ちたその魔物の体の下に埋まってしまった髪飾りがどこにあるか分からない。


……どうしましょう。髪飾りが魔物の下敷きになってしまいました。大事な物なのに。早く見つけなければならないのに。


息をしていない魔物の体は力なくへたっていて、押し上げようとしてもなかなか動かない。

その間にも生き残りの魔物がシーラに向かってくる。


「どいてください……!」


魔物の死骸を全力で押してみるが無駄だった。

シーラは体を上手く使って魔物の骨を割るくらいのことはできても、特別怪力なわけではない。

シーラの体重の何倍もある重い魔物を持ち上げることはどう頑張っても出来なかった。


この時のシーラは疲れと焦りで混乱して、一度距離を取って体勢を立て直すと決めたことをすっぽりと忘れてしまっていた。



ブンッ


いきなり耳の後ろで音がした。


シーラは振り上げられた魔物の足をすんでのところで避けた。

ゾクリとした。死んだ魔物の下にある髪飾りに気を取られて後一瞬反応が遅ければ、危うく魔物の足で串刺しになるところだった。

雪の上で身を翻し、間一髪と胸をなでおろしたのも束の間。

死角からもう一本、シーラの腹部めがけて魔物の足が出てきた。


これは避け切れない。着地した瞬間に狙われては……




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