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パーティとドレスとダンス7



エルドレッドと別れた後のシーラ達は、会場の奥の方で奥方と共に団員に囲まれている団長を見つけて挨拶に行き、シーラの顔なじみの副団長にも挨拶をして、ついでにあれやこれや話していると、テオドールの同僚や後輩たちもやってきて最終的にとても賑やかになった。



彼らからやっと解放されて、シーラとテオドールは帰路についた。

馬車が出発したので名残惜しくなって外を見ると、夜の色に染まった雪の向こうに、オレンジ色の光が漏れる城が見えた。先ほど踊ってきた騎士団本部の大ホールの建物である。


テオドールが帰るというので帰ることにしたが、まだまだ夜は長い。

飲んで踊って、中ではまだたくさんの人が盛大なパーティを楽しんでいることだろう。


シーラ達を載せた馬車が雪の上をすべるように進んで、パーティ会場の賑やかな明りも見えなくなった頃、シーラは正面に座るテオドールに向かって口を開いた。


「楽しかったですね」


「全く楽しくなどなかった」


「そうでしたか。大丈夫ですか?」


「疲れた」


「そうですね、では帰ったらゆっくりお茶でも飲みましょう」


「ああ、そうする……」


素直に頷いたテオドールだったが、少し考えた素振りをして、息を吸ってから不満そうに呟いたことがあった。


「だが、それもこれもお前が目立つからだ」


「それを言うなら、テオドール様の方が目立っていましたけれど」


「俺よりお前だ。お前は次から次へと厄介なことを引き寄せていただろう。さっき王子に声を掛けられたのを忘れたのか。それに俺が目を離したら、すぐ他のやつに話しかけられていた」


思っていたことを全部吐き出して、まつげを伏せたテオドールの顔は拗ねているようにも見えた。


「パーティなどに来れば、すぐこれだ」


「でも、王子は誤解していただけですし、他の方には、どの料理が美味しいか尋ねられただけです」


「本当にそう思っているのか、トンチンカンめ」


「そうですね、そう思っていますよ」


「……もういい。お前には何を言っても無駄だ」


何回か無意味に足を組み替えたり、フンッと顔を背けるテオドールを観察しながら、シーラは珍しいものを見たと思った。

こんな風に分かりやすく指摘するテオドールは珍しい。

他の男性に話しかけられて、踊りに誘われてもテオドール様が知らんぷりだったら流石に悲しいですもんね、と想像し、不謹慎ながら、テオドールが気にかけてくれるのだったら王子やどこかの誰かに話しかけられてよかったかも、ともシーラは思ってしまった。


そして、心配することはないと笑う代わりに「そういえば」と切り出してみた。



「友人が言っていたのですが、とある髪飾りを付けるのがご令嬢の間で流行っているらしいのです。私も、さっきの会場でも髪飾りを付けた人をたくさん見ました」


「髪飾りくらい、お前も付けているだろう。流行りも何もない」


「それが、ちょっと特殊な髪飾りなのです」


「どう特殊なんだ」


「あのですね、男性除けにもなります」


「なんだそれは……」


「自分の相手の男性の、髪や目と同じ色の髪飾りを贈って貰って付けるのです。そうすると悪い男性とか、いろいろ除けてくれるそうです」


前を向くと、再び長い足を組み替えたテオドールが、は?と眉をひそめたのが目に入った。

うんざりしていると言わんばかりの表情を顔に張り付けてはいるが、シーラが振った話題をどういう意味にとればいいか秘かに思案しているようでもあった。


「……そんなものが流行るなど、最近の令嬢は気が狂っているとしか思えないな」


「そうですね。でも、王都では既にものすごく流行っているらしいです」


流行の先端を行く王都では、男性までも相手の女性の瞳の色に合わせてカフスなどのアクセサリーを変えたりするくらい流行っているらしい。

シーラの幼馴染で親友と呼んで差し支えない令嬢が興奮しながら、いいよねえ、と言っていた。


「フン。そもそもそんな物付けたって、誰の髪色かなんていちいちわかる訳が無いだろう。下らん」


「その通りですけれど。でもこれは、お守りのようなものでもあるのだと思います」


婚約者の目の色に似た宝石で作られた髪飾りを付けて、はしゃぐ可愛い令嬢たちを見たのが一年前のシーラだったらきっと、それは楽しいのかなと首をひねって不思議に思っていたに違いない。


だが今は、はにかんでいた令嬢たちの気持ちが分からないでもない。

私が貴方の相手ですよと言いたい気持ちが分からないでもない。




「……お前はそういう物が欲しいのか」


話題を出してきた時点で髪飾りが欲しいと言っているようなものだったので、テオドールは薄々察しているだろうなとは期待していたが、提案されるとは思わなかったのでシーラは少し驚いた。

一拍置いて、こくりと首を縦に振る。

駄目押しにもう一度大きく頷いておいた。


「いただけるのですか」


「い、いや、やらん。ただ聞いてみただけだ」


「いただけないのですか」


「当たり前だ。どうせゴミになるだけだ」



欲しいのかと聞いたくせに、とシーラはいじけるようにドレスの下で両足同士を小さく絡めた。



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