雪の日のおでかけ3
……お仕置きですっ。
ぎゅっ!
「手!?お前、俺の手を握っているぞ!傘と間違えているのか?」
何食わぬ感じを装って、すっとテオドールの手を掴んでぎゅっと握ったら、ビクッとされた。
頭の上から、彼の動揺した声が降ってくる。
上を向いたら、テオドールと目が合った。
ようやく目が合ったと思ったが、テオドールは無駄に顔がいいので、それがちょっと色っぽく上気しているのを見たら流石のシーラもドキッとしてしまった。
しかしシーラは平静を装って言ってやった。
「間違えてませんよ」
「じゃあ何故握る」
「手を繋ぎたかったからではだめですか?」
「そ、そんな身勝手な理由で俺を緊張させて楽しいのか!」
……なるほど、なるほど。そのとおり、ちょっと楽しいかもです。
そんなことを思いながら、シーラはくすっと小さく笑う。
振り払ったりはしないが、テオドールは必死に身をよじっていた。シーラには顔を見られないようにしたいのかもしれない。
「では、手が冷たいのを理由にしましょう」
「冷え性のせいにすればなんでも許されると思っているのか。したたかなやつだ」
「はい、したたかです」
シーラは返事をする。
そしてテオドールの手を更にぎゅっと握った。
ちょっと勇気が要ったが、それもこれも冷え性のせいにしておけばいいのだ。
「だから、温めてください」
「……っ、俺を殺す気か!」
「なぜそんなことで死ぬのです?」
「知らん、自分で考えろ!」
「考えてもわかりません教えてください」
「ろくに考えずに即答えを聞くな」
「ではもしかして、ドキドキして死にそうなのですか?」
「は!?あるわけない、そんなわけがないだろう!」
シーラがテオドールの顔を見上げたら、見るなとばかりに彼の怒って震えた声が飛んできた。
「そうですか。たしかにそんな死因は嫌ですよね」
あっさり言ったシーラは、パッと手を放した。
テオドールに意地悪をしてとりあえず満足したので、意趣返しはこれでお終いでもよいだろう。
ジャッジャッジャッジャッ
ジャッジャッジャッジャッ
雪を踏む音を立てて、除雪された綺麗なレンガの道を、二人は歩いている。
シーラは、道の両脇に並ぶたくさんのお店を、歩きながら眺めていた。
羽ペンの専門店にはショーケースに入った綺麗なクジャクの羽ペンがあったり、ブーツのお店では陸クジラの暖かいブーツをはいたマネキンがいたり、毛布の店では毛布がこれでもかというくらいにガラスの向こうでフワフワしていた。
店はどれも大きなガラスの向こうに商品を並べ、楽しそうな雰囲気で客を引き寄せていた。