雪の日のおでかけ2
「今日、一緒に買い物に行きましょう」
朝食後、テオドールの部屋を訪ねたシーラは扉を開けるのとほぼ同時に提案した。
「な、なんだいきなり」
「買い物に行きましょう。テオドール様は今日はお休みでしたよね」
「お前が自分から行きたいというなんて珍しい。何か企んでいるのか」
「はい、企んでます」
「……欲しい物でもあるのか」
「いいえ、逆です。今日は私があなたに欲しい物を買ってあげます。何でもです!」
ウェーバ侯爵の娘はシーラに懐いて、教えたことをしっかり身に着けてくれた。
成果に喜んだ侯爵は、謝礼も弾んでくれたのだ。だから、常識の範囲内で選んでもらえるならば、割と何でも買って贈ってあげられる。
木彫りのリベンジをするわけではないが、今回はテオドールと一緒に選んで、彼の気に入ったものを贈ってみたい。
「俺は、欲しいものがあれば、自分で買える」
「それは、いらないという意味でしょうか」
「いらないとは言っていない」
間髪入れずに、綺麗な顔を少し歪ませたテオドールが吐き捨てた。
それを聞いたシーラは、満足げに笑って頷いた。
……ふふふ。いらないと言わないということは、欲しいということですね。
もう大体、テオドール様が何が言いたいのか分かるようになってきました。
「では、準備をして一時間後に玄関に集合しましょう。それから馬車で街まで行って買い物です」
「……いいだろう、お前は荷物持ちにしてやる」
返事を聞いたシーラはにこやかに頷いて、「では服を着替えてきます」と踵を返した。
その視界の端に、赤く染まった嬉しそうな顔を押さえるテオドールが見えた。
シーラもちょっぴり嬉しくなる。
テオドールの部屋のドアをパタリとゆっくり閉めてから、すすすっと自室へ戻る。
……何を着ましょうか、何を履きましょうか、髪型はどうしましょうか。
今日の天気は薄い雪。
窓から見える外には雪がちらついているが、悪天候はこの地域の人間ならば誰でも慣れている。
少し悩んでシーラは赤いベロアのワンピースを選び、厚くて保温性の高い布地のポンチョ風の上着をその上に着た。足元は温かいタイツと温かいブーツだ。
ミラが髪をまとめ上げ、少し化粧もしてくれた。
「旦那様はさっきからソワソワソワソワ。本当にポンコツですね」と部屋の外に物を取りに行ったミラが、シーラの部屋に戻ってきて教えてくれた。
嬉しさが隠せない様子のテオドールは既に玄関でソワソワ待っているらしい。
実はシーラも少しだけソワソワしている。顔にも態度にも、もちろんでないが。
準備ができたシーラは、テオドールと合流して門の前で二人を待っていた馬車に乗り込んだ。
……
街に到着した。シーラとテオドールを乗せた馬車が止まる。
馬車を下りる前から、楽しそうな人の声が時々聞こえてくる。街は賑わっているようだ。
馬車から降りる時、テオドールがシーラに手を貸してくれた。
そして、淡い雪がホロホロと振っていたので、傘を開いて差し掛けてくれた。
二人でその大きな傘の下に入る。
ちらちら舞う雪を見ながら、シーラは先ず雑貨屋に行こうと提案した。
シーラお気に入りの雑貨屋には、彼が好きそうな物もあるだろう。
テオドールは頷いてくれた。
「こちらです」
「そうか」
「あ、あそこ、新しいお店ができているようです」
「そうだな」
「あとから便箋屋に寄って便箋も買いたいです」
「分かった」
話しているのに、テオドールは一向にシーラと目を合わせてくれていない。
屋敷の玄関で合流した後からだ。
合流して馬車で揺られている時はもう既に、シーラの顔をしっかり見てくれていなかった。
最近は普通に目を見て話してくれるようになったと思ったのに、何故今日に限って目を合わせようとしないのだろう。
気に食わない。折角、化粧も念入りにしたし、服だって可愛いものを着ているし、髪だって綺麗に上げているのに。
シーラは少し考えて、ささやかなお仕置きでもしてやろうと思った。