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手の震えが止まらない  作者: しゃくれ
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自己紹介


岩村谷夫は孤独ではなかった。学校にも家にも安住の地は存在しなかったが、それでもなお彼が生きることを選び続けることができたのは、ひとえに彼の中に響き渡る「声」によるところが大きい。


幼少時代から、谷夫は独特の雰囲気を纏った少年であった。他の子供たちの輪の中に入ろうとせず、部屋の隅で一人遊びに没頭することが多かった。その様を見て、悪意に駆られないものは少数派であった。目の前で陰口を叩かれる、机に落書きをされるという微笑ましいものから始まり、それ以上に加速することはないものの、谷夫が集団の「異物」として扱われていることは明白であった。この傾向は谷夫が高校へ進学するまで続き、彼の心をさいなみ続けていた。特に谷夫にとって苦痛であったのは男子からの罵声であり、女子からの冷めた視線である。それがなぜなのかは本人にも説明ができなかったが、自分には他人から尊重されるだけの価値はないという歪んだ感覚が薄暗い青春時代の中で醸成されていったことは間違いない。


谷夫には帰る場所があった。唯一救いとなる家族がいた。と書くとこれは嘘になる。谷夫の家庭はお世辞にも学校というコミュニティから排除され、傷心の少年をいたわり寄りそうといった優しい存在ではなかった。母は谷夫に勉学に励むことを強要した。子に勉強を促すことは世間一般としては正しい。ただし彼女のそれは「促し」ではなく「強要」であり、その執着は常軌を逸していた。定期試験で上位10位以内に達していない科目があると谷夫を家の一室に呼び出し、何時間でもなじり続けた。かといって彼女は谷夫に何かを教えるわけでもなく、ただひたすらに彼の無能さを糾弾し、叱責することに快楽さえ感じている有様であった。父親はというと、彼もまた、谷夫の母、つまり自分の妻を恐れる一人であり、仕事に忙殺される素振りを見せつつ谷夫に手を差し伸べることはなかった。そして何より、谷夫にとって苦痛であるのは妹の波瑠の存在だった。波瑠にとっても谷夫は自分の学校内での立場に悪影響を及ぼす「腫瘍」であり、両者の仲は険悪であった。といってもその険悪さは波瑠から谷夫への一方的なものではあったが。





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