#1 僧侶、始動します。
「僕は大きくなったらお姉ちゃんみたいな賢者になるよ!」
なぜあのようなちっぽけな体験を覚えていた覚えていたのかは今の俺には分からない。
だが、一つだけ明確に思い出せるのは、あの体験で俺は「賢者」という職業に対して大きな憧れや希望を抱いたということだ。
皆を影から支え、健気にチームを勝利へと導くあの職業に。
――もし今の俺が昔の俺にあったらにこやかに、色々なことを悟ったかのような目でこう言うだろう。
「うん。賢者だけはやめとこうか!」
ここはファンタジーな国のとある町。なんでファンタジーの住人がこの国をファンタジーと思えるかというと、この国以外は極々普通に平和な世界なのである。学者の研究によると、この土地だけ魔力が高いことによりモンスターが生まれ、それに対抗するために剣や魔法が発達したらしい。
まぁファンタジーな国だからと言って王様がどうとか魔王がどうとかいうわけでもなく、電子工学も発達しているので、いうなれば便利な田舎に剣や魔法が組み合わさったかのような国である。俺はそんな町で暮らしている。
俺の名前は双羅健二。21歳で職業は僧侶だ。この国ではモンスターが湧いて出てくるので護身のために10歳になると国民は必ず職業を持たなければいけない。
またこの町では商業があまり賑わっていなく、住人の収入源はモンスターを倒した時にでる素材を売ることであるが、俺はあまりモンスターを倒しに行かない。だって僧侶だもの。モンスターを倒すことが役割じゃないもん。決してやる気がないとかでは⋯⋯
「ベットの上でブツブツ何か言ってないで早く起きて狩りにでも行ってきなさーい!!」
いきなりベットから引きずり落とされる。何時もなら布団にしがみついてひたすら離さないのに⋯⋯。油断しちまったぜ⋯⋯。
「もう!お兄ちゃんはこの国の制度がなかったらニートと同じようなものなんだから少しは働きなさい!」
「だって俺僧侶だしー。お前は戦士だから簡単に言うよなー。1人でモンスターなんか狩れるわけないじゃーん」
「どの口がそんなことを⋯⋯。そんなんだから狩り仲間の1人も出来ないんじゃない!」
さっきから口うるさいのは俺の妹の鮮だ。俺の家は両親が他の国に働きに出ているから俺ら2人が基本生活費を稼がないといけないのだが⋯⋯俺はあまり働きに出かけない。
別に面倒っていう訳では無い、うん、しょうがなーく引きこもっているだけだ。
「さっきからブツブツ言ってないで早く狩りに行ってきなさい!」
そうこう独り言を言っていると鮮が顔をしかめて近づけてきた。
「だってさー、僧侶だよ?みんな無責任にゴリゴリに勝手に敵を殴りにいってそれで回復を身勝手に要求してくるんだよ?しかもパーテイが負けたらこっちのせいにされるし、ほんとブラックだよ」
「お兄ちゃんパーテイなんか組める相手いないでしょ!そんなん言ってないで早く行ってきなさい!」
最後の一言で地味に傷つけられた俺は家を追い出された。
――森
この国は鉄道を通すには危険すぎる場所が所々あるため鉄道がない。そのため移動には転移魔法がよく使われる。
俺はとりあえず危険度が低い狩場に転移をした。危険度が低いということはここら辺にいるのは雑魚ばかりで手に入る素材も価値が低いものばかりだと考えるやつもいるがそれは違う。どの場所にも他の生息するモンスターと毛色が違うモンスターが出現するのだ。
それを倒せば短い時間でまぁまぁ稼ぐことが出来る。めんどくさいパーティーを作ってちまちま雑魚を狩るよりこっちの方が断然効率がいい。
しかしレアなモンスターは他のモンスターよりも強力である。おまけに出現率も低い。それをどう見つけてどう倒すか?それは今から見れば分かる話だ。
「うわぁぁぁ!誰か助けてくれぇぇぇ!」
「――さっそく良いカモがきたな」
俺は死にものぐるいで走ってきた男に近寄る。
「どうしたんだい?そんなに慌てて走って来て?」
「で、でたんだよ!でかくて白いカエルみたいのが!そこら辺にいる雑魚なんかと比べられないほどでかい!しかも1発殴ったら追いかけてきやがった!」
「そ、それは大変だー。よしこの俺が倒してやろー!」
「本当か、恩に着る!取り敢えず治癒魔法を頼む。少しダメージを受けちまってな……」
「今はそのカエルが追いかけてくるから時間がない。今はすぐに茂みに隠れよう」
「あぁ、わかった」
俺たちは近くの茂みに隠れた。少し時間が経つと森の奥からバカでかいカエルが出てきた。
「あれだよ、あのカエルだよ!すまん、治癒魔法を頼めるか。回復したら俺があいつを叩きに行く。お前は後ろから援護を頼む」
「なるほど、良い作戦だな。でも多分こっちの方が効率がいいと思うぞ?」
俺はそういうと隠れていた男を茂みから蹴り飛ばした。
「痛っ!何すんだよお前……ってうわぁぁぁ!」
カエルは男を確認すると再び追いかけだした。
「――さてと。今のうちにやりますかね。」