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最終話 拙者たちの戦いはこれからです!


 芯熟中心部。仮設の貧相な領主御殿にて。


「本当に……娜優わたし堕游わたくしなんかが、領主になって良いのでしょうか……?」


 布団に横たわったまま、ある女性が不安気に溜息を吐いた。


 彼女の名は娜優ダユウ

 前芯熟領主の妹君であり、魍魎、即ち人霊の化生だ。

 過去の辛い経験から堕游ダユウと言うもうひとりの人格も抱えている中々複雑な経緯の御仁である。


 あの乱にて、一度は大帝に取り込まれてしまったが……。

 雫紅と翠戦が駆るダイカッパーによって救い出され、現在こうして療養中だ。


「ちゅちゅ、大丈夫でちゅよ」

「仙物や化生が経営している領地は結構あるらしいでちゅ」

「その上、超廷にも認められているかの剣豪・一刀無双ちゃまが推薦状を出してくれるんでちゅから、当確間違い無しでちゅ!」


 娜優の看病をするねずみ小姓たちは喜々と語る。

 念願の娜優が帰ってきてくれたばかりか、これからは彼女のために働けるのだ。

 喜び跳ねるなと言う方が酷だろう。


「いえ、その……そう言う話ではなく……娜優わたしなんかに領地が経営できるのでしょうかと……」

(あらぁ? 不安ならぁ、堕游わたくしが代わりにやってあげましょうかぁ?)

「……堕游あなた、穴蔵街で散々クソ領主扱いされていたでしょ……」


 大帝の潜伏のため、堕游はしばらく穴蔵街を武力と策謀で支配していた。

 だがもう、その評判は酷いもの。


 豪快大雑把な性質のならず者たちですら「あんな奴の仕切る街で暮らせるか!」と声を上げるほどだった。


(あれはぁ、本気出してなかっただけですわぁ。あんな薄汚い連中の暮らしを良くしようだなんてぇ、思えませんでしょぉ?)

「気持ちはわかりますけれど……領主となると、好き嫌いで誰かの待遇を決めたりはできないんですよ?」

(あらやだぁ。じゃあ嫌ぁ。独裁政権以外に興味無いわぁ……綺麗な方面は娜優あんたが頑張んなさいなぁ)

堕游あなたねぇ……」


 やれやれ、と娜優は溜息。


「ちゅちゅっ、大丈夫でちゅよ! ぼくたちがちゃんと御手伝いしまちゅから!」

「ちゅちゅい! もちろん、無理はしない程度に、わかっていまちゅ!」

「娜優ちゃまを悲しませるような働き方はしないでちゅ!」

「うふふ、ありがとう。忠助チュウスケ忠一郎チュウイチロウ忠馬速チュウバッハ

「「「ちゅー!!!」」」


 娜優の顔に浮かんだのは、心底からの微笑。

 もう、苦しみを誤魔化すための歪な笑顔は跡形も無い。


「……この子たちのためにも、頑張って良い領を作って、幸せにならなきゃ、ですね」

(……えぇぇ、そうねぇ……)


 この芯熟に残された爪痕、そして失ってきたものは大きい。

 だが、失くした悲しみに膝を折っている場合ではない。


 愛する者たちにの良き未来を与えるため、娜優と堕游は頑張ると決めた。



   ◆



「あ、おい、おめー、まだ手裏剣刺さってんぞ」


 芯熟を立ち、続いての目的地・詩舞耶しぶやの領へ向かう翠戦一行。

 道中、翠戦は荷を背負って前を行く雫紅の後頭部に手裏剣を発見した。


 今朝、出立前。

 無数の罠にも怯まず雫紅は翠戦に吶喊。

 結果として、全身を縄で縛り倒され全身が苦無や手裏剣まみれの怪物と化した。

 なお、結局翠戦に辿り着く前に瑞那が帰宅したのでひと揉みもできていない。


「うぅぅ……ひたすら災難でした……」


 雫紅は嗚咽しながら、残っていた手裏剣を引っこ抜いて、瑞那に返す。


「……あれだけの罠にも臆せず向かっていくとか……普段は中々使わない刃物まで使ったのに。私は未だに嬢様を侮っていた。次は爆薬くらい仕掛ける必要がありそう」

「それ、おれも吹き飛ばね?」

「うぅぅ……と言うか……あの、瑞那さん、ひとつ聞きたい事があるのですが……あの僧侶さんは一体……」


 雫紅たちの後を、少し距離を空けてついてくる黒尻尾の虚無僧。

 特に雫紅たちに話しかけてくるでもなく、じっと一定の距離を保ってついてきている。


「何だか気味が悪いんですが……あの尻尾はすごく揉みたいですけど……」

「回答。気にしなくて良い。ふんぎりがついたら、すべて打ち明けると言っていた」

「ふんぎり?」

「よくわかんねーが、瑞那の知り合いって事で良いのか?」

「肯定。まぁ、今のところはそう言う認識で問題無い」


 瑞那がちらり、と後方の虚無僧を見る。

 虚無僧は気まずそうに手を振って「いや、ちょ……まだその、言い辛いっつぅかニャ。ワシのややこしい行動のせいで雫紅がそんニャ拗らせてたとか罪悪感すご過ぎて謝罪の方法がまだ見えてこニャいっつぅか……」と言いた気。


 やれやれ、と瑞那は呆れ顔。


「ところで気になってたんだがよ~。もう羅刹四将も大帝もいねぇ訳だから、おめーらが護衛としておれに付き合う義理はもう無いぜ? 本当に良いのか?」

「いえいえ、これからの道中、またどんな敵が現れるとも知れません。それにまだこの旅の中で翠戦様をひと揉みもできていないのに帰るとか有り得ない」

「相変わらず、建前と本音がわかりやす過ぎるなおめー」

「けれど、建前の方には同意。悪機の残党がもういないとも限らない。ここは皿を見つけるまで付き合う方が、私たちとしても安心」

「おう、そうかい。まぁ、有り難い話だぜ。よろしく頼むわ」

「はい!」


 雫紅は快活に答え、そしてその指を不気味にわきわきさせながら、


「この旅が終わるまでに必ずや絶対、翠戦様を揉みくちゃにしてみせます!」

「教育的緊縛!」

「ぁだーっ!?」

「おめーらはほんと、ぶれねぇなぁ……」


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