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中編

サマンサのお母さん、エリーゼ視点で進みます。



※昨夜投稿したのを今朝読み返したら、色々粗がありまして、修正したり多少エピソードを付け加えたりして、今朝8時頃に少し改稿してます。

「エリーゼ、ここがマグナクト伯爵領だよ。気に入ったかい?」


王都から離れて馬車が領地に入った時、アンソニーが私に聞いた。


「ええ、マグナクト伯爵領は良い土地ね。気に入ったわ」


私はそう答えたわ。

メインの街道からは逸れるけど、確かに豊かな土地なの。

……土地は、ね。



王都から魔法で強化された馬車で実質三日、でも街道沿いの町の宿に泊まりながらだから結局五日かけて、私エリーゼ・マグナクトと夫のアンソニー・マグナクト伯爵は領地までやって来た。


私とアンソニーは長らく恋人同士で、前の奥様が亡くなったのでこの度ようやく正妻になれたの。

お屋敷には前の奥様の子ども達がいるし、私にはアンソニーがいればよかったから、王都のお屋敷はあちらのお子達に譲って、私達夫婦は領地に引っ込むことにしたのよ。

娘のサマンサも、婚約者のハーディルト伯爵とうまくいってるようだし、もう王都に未練はないわ。


これでも私、転生者なの。

領地で内政チートしないとね。

手始めに、リバーシ作っちゃおうかしら?うちの領地の特産てことで、マグナクト家ブランドで売り出してガッポガッポ儲けちゃうのよ。

ああ、マヨネーズを作って、マヨラー増産無双もいいわね。日本の料理のレシピを売って、ガッポガッポ……。領都でレストラン出してガッポガッポ……。

ガッポガッポの夢が広がるわあ。


そんな幸せな気持ちで領都『エリーゼラブフォーエバー』のお屋敷に入ったの。



……ねえ。『エリーゼラブフォーエバー』って、何?



え?最近名前を変えた?

私、ここで余生を過ごすつもりなんだけど……。


生き地獄かな?


権力なんてものは、まともな人に持たせるべきだと思うの。

うちのアンソニー、領地経営はこれまで管財人任せでノータッチだったくせに、さらりと領都の名前を変えてしまうなんて、なんでこういうことだけ有能なの?


その夜、私はアンソニーに知る限りのプロレス技をかけてやったわ。

泣いても許さなかった。

おかげで、彼、プロレスにはまってしまったみたい。

『腕ひしぎ逆十字』をせがんでくるようになった。

余計めんどくさくなってしまったわ。


でも、なんだかんだでそんな所もかわいい人なの。愛してるのよ、おバカなアンソニー。

領都の名前も、私への愛故だと思えば嫌いにはなれないわ。

それにいくら恥ずかしいからって、変更したばかりの領都の名前をまた私の都合でころころ名前を変えさせられないでしょう。

領民にこれ以上迷惑はかけられない。

仕方ないわ。領都名は『エリーゼラブフォーエバー』で現状維持しかない……。


思い出したら、また怒りが湧いてきた。

今夜は、『逆エビ固め』でフィニッシュホールドね★



それに、問題は領都名だけじゃない。

こちらのお屋敷で過ごすようになってわかったの。

領民や使用人達の態度は、酷いものだった。

アンソニーには、腐っても領主として敬意を払っている。でも、私の悪評はこちらでも有名だったみたいね。

嫌がらせはないにしても、態度は完全に拒絶が透けて見える。命令には従うけど、その目は冷ややかだ。

この前、廊下で使用人達が話しているのが聞こえた。

「あんな娼婦が女主人なんて認めない」って。


あらあら……。うふふ。私はもう、伯爵夫人よ?

み と め さ せ て や る。

絶対に、だ。



そんなこんなで、お屋敷で使用人達とバトルをしていた頃、娘のサマンサから手紙が届いたの。

アンソニーが、いそいそと私に手紙を持ってきたわ。


「エリーゼ、サマンサから手紙が来たよ。いっしょに読もう♪」


私が領都名の件で怒り狂い、その怒りをなだめようと領都名をまた変えようとしてさらに怒られたアンソニーは、最近やたらに私のご機嫌をとろうとしてくるのだ。

彼のお尻にブンブン振られた犬のしっぽが見えるわね。

はあ……、仕方のない人。そんな所もかわいいのだけれど。


「ええ、アンソニー。いっしょに見ましょう」


ソファに座る私の隣に、嬉しそうに寄り添って座るアンソニー。

彼は封筒から便箋を取り出すと、私に手渡した。

私はカサリと便箋を開いた。





◆◇◆◇◆◇◆



親愛なるお父様とお母様


日ごとに日差しが強まり、テラスから見えるハーディルト家の庭の薔薇とダリアが、負けじと大輪の花を咲かせております。

皆様はいかがお過ごしでしょうか。

私はこちらでデイブン様にとても良くしていただき、仲良く過ごしています。

ハーディルト家の皆様も、驚くほど優しいです。


ところでお父様とお母様にお知らせしなければならないことが二つあります。


一つ目ですが、私とデイブン様は正式に夫婦となりました。

デイブン様が先日、婚姻届けを出しまして、受理されたのです。

急な話ですが、結婚式は七月の二十五日に行います。

二十八日の王家主宰の舞踏会には、ハーディルト伯爵夫人として出席するのだそうです。

お父様とお母様の所にも、王家からの招待状が届くと思います。

招待状が届いてから、こちらにお越しください。お父様とお母様にハーディルト邸に滞在してもらえるよう、準備して楽しみに待っています。

早めにいらしてもらえると、私達夫婦共々嬉しいわ。


二つ目は、なんと、デイブン様がダイエットを始めたの。

私と結婚したから、もう太っている必要がなくなったと言って、太るお薬を止めてしまったです。

それに、食べるものも油分の少ないお肉や豆、お野菜ばかりを食べているし、一生懸命運動もしているの。

そういえば、王立生体研究所とかいう部署の方がやって来るのだけど、ダイエットに協力してくれているのだそうです。

デイブン様は、「結婚式までに肉体改造する」と意気込んでいます。

確かにまだ始めて三日ほどだけど、少しあごがほっそりしてきた気がするの。

私も、マダム・リヒエールに仕立ててもらうドレスが合わなくならないように、体重管理には気をつけるつもりです。


それでは、またお会いできるのを楽しみにしています。


サマンサ・ハーディルト



◆◇◆◇◆◇◆





静かに便箋を閉じた後、私達はお互いに顔を見合わせた。


「いくらなんでも早すぎる。結婚に否やはないが、淑女教育は完了したのかな?」

「まさか。サマンサよ?あの、うまく隠していたけど、私は注意して見ていたからわかるの。王家主宰の舞踏会で、王子に頭突きをかました挙げ句、顔を覆った王子の手の下に人差し指を高速で突っ込んで抜き差ししてた。絶対ほじってたと思うわ。王子に頭突き食らわしてなおかつその鼻をほじる娘の淑女教育が、こんな短期間で終わるはずがないわ」

「私達が王都を発って、まだ二週間だものな。今のサマンサに伯爵夫人が本当に務まるのか?」


私は、頭痛がしてきた。アンソニーもこめかみを揉んでいる。


「まあ、事情があったのかもしれないし、ハーディルト卿がついているからなんとかなるとは思うが」

「そ、そうね。舞踏会の時も王子への不敬はなんとかなったものね。ハーディルト卿が裏で話を通してくれたに違いないわ」

「エリーゼ、君も心配だと思うが、もうサマンサは、我々の手を離れているんだ。これからは夫であるハーディルト卿にお任せするしかないよ」

「そうよね。娘が結婚したこと自体はとてもおめでたいわ。心配だけど、確かに嬉しくてホッとしているのよ。でも、それでいて寂しいような複雑な気持ち。あの娘が結婚するのはわかっていたつもりだったけれど、娘が結婚する親の気持ちって、こんな感じなのね……」



その後私達は話し合い、王家からの招待状が届き次第、『エリーゼラブフォーエバー』を出発することに決めた。

ああ、すぐに結婚式用と舞踏会用のドレスを仕立てなくちゃ。

それから向こうに滞在する準備とハーディルト伯爵夫妻への贈り物も。

結婚式……。新婦側の招待客のリストはアンソニーに任せましょう。

後は、使用人達に誰がこの屋敷の女主人か、わ か ら せ て や ら ね ば !


私達は、また王都に向かう準備を慌ただしく整えた。

そして結婚式まで二十日をきった頃、王家から舞踏会の招待状が届いた。

私達は待ってましたとばかりに、エリーゼラブフォーエバーの屋敷を出発したわ。

あら?使用人達の顔がやけにホッとしているわね。

失礼ね。私はただ、忠誠心のない人を容赦なくふるいにかけただけじゃない。

ちゃんと働いてくれる人にはそれなりに報いているのに。

帰ったら、また楽しく過ごしましょうね、あなた達?


「アイルビーバック」


私はそう呟いて、屋敷から遠ざかる強化馬車の窓から腕を出し、サムズアップした。


「エリーゼ、走っている馬車の窓から手を出したら危ないよ」

「ごめんなさい、アンソニー」


その通りね。強化馬車ってけっこうスピードが出るのだもの。危ないわよね。



私達の強化馬車はどんどんスピードを上げて、王都へのメイン街道を進んだ。

遅い馬車は避けて追い越し、時々襲ってくる魔物をはね飛ばしながら。

それでいて、御者席のカップホルダーに置いてある、なみなみについであるカップのお水が全然こぼれないの。


「アンソニー、御者の方のお名前はなんていうの?」

「モリスだよ」

「頭文字はDじゃないのね……」


異世界の強化馬車って、すごい。


あら?前方に怪しい人達がたくさんいるわ。皆さんパンツとブーツしかはいてないのに、顔を覆うように頭にマントを被って武器を持っているの。

ほとんど裸なのに、何故体を隠さないの?お調子者なの?

彼らはこちらに向かって何か叫んでいるわ。

何かあったのかしら。

「どいてください。どかないとぶつかりますよ」と御者が拡声の魔道具で声をかけてるけど、彼らはどかない。


「お頭、ヤバいですって。あれ、絶対止まりませんって!」

「いやこれは馬車と俺達とのギリギリの勝負。ビビッた方が負けなんだよ!おい、そこの馬車止まれ!止まって金をブベラッ!!!」

「お頭アアアア!!!」


「……ねえ、今、一人引っかけなかった?」

「仕方ないさ、エリーゼ。王国道路法では、「御者が注意を促しても走る馬車の前に当人の意思で留まり続けてはねられた場合、馬車側は罪に問われない」と定められている。過失は彼らにあるよ」


御者からも、エリーゼに声がかけられる。


「彼らの風体から見て、この辺りに出没する『カソタダ団』という盗賊団でしょう。王国法では、盗賊を殺傷しても罪には問われませんし、何よりこの強化馬車は最高級の風魔法付与がしてあります。ぶつかっても、風がクッション代わりになって体への衝撃を殺しますから、はね飛ばしはしても相手が死ぬことはありませんよ」

「風魔法の付与は高価だからね。ケチる者も多いけど、強化馬車はスピードが出るから万が一もある。かけておいた方が色々面倒がなくていいんだよ」


そうなんだ。異世界の強化馬車ってすごい。


でもそれって、はね飛ばされて地面に激突したら怪我するわよね……。

いや、気にすまい。前世の記憶が戻る前の(エリーゼ)は気にしてなかった。馬車の前に飛び出す人間が悪いという感覚だったもの。


異世界って、よく考えたらこわい。




そんなこんなで、次の町で衛兵にカソタダ団について情報提供をしていたら、事情聴取で少し足止めを食らってしまった。

そうして、ようやく王都のハーディルト邸にたどり着いたのは、エリーゼラブフォーエバーを出発してから七日後、娘の結婚式まであと十日のことだった。



ハーディルト家の敷地に入り、馬車から出た私達を待っていたのは、娘のサマンサと見たことのない男だった。


「お父様、お母様!会えて嬉しいわ!」

「ようこそ、マグナクト卿、そしてマグナクト伯爵夫人。いや、義父上、義母上と呼ばなくてはならないのかな」


え?

え?え?この男の人が、ハーディルト伯爵?いやいや、そんなバカな。

だって彼、脂肪の塊だったわよね?

アンソニーも狼狽えながら、男に尋ねた。


「え?まさか君、ハーディルト卿?」


アンソニーの言葉に、娘が反応した。


「やだ、お父様。びっくりしまして?デブ様、ダイエットに成功したんですよ!すごいでしょう?」

「ハッハッハッ。妻好みの男になりたくてね。もう太っている必要もないし、結婚式に間に合わせたくて、色々頑張ったんだ。実は生体研究所の所長に少しばかり貸しがあってね、開発されたばかりの改良型新薬(ユニークポーション)を都合してもらったんだよ。彼もデータが取れるからとずいぶん協力してくれて、見事肉体改造に成功したんだ!」


快活に笑うハーディルト伯爵を名乗る男。


「そうか……肉体改造したのか……。確かに面影が全くないよ、君……」

「ダイエット……?これ、ダイエットなの??」

「そうですなあ。言われる通り、確かに体重はそんなに落ちてないんですよ、マグナクト夫人」


でしょうね!

だって、あなた、どこからどう見ても、筋肉の塊。

ゴリッゴリの『筋肉ダルマ』だもの!!

最期は、生涯に一片の悔いもなく死ぬんじゃないかしら!?




久しぶりに会ったハーディルト伯爵は、結果にコミットし過ぎていたわ。


やっぱり異世界って、すごい。

うーんこのペース……、後編の分量がまたおかしなことになりそうな気がする。

やっぱり異世界ってこわい……。(責任転嫁)

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