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冷やし中華お待たせしました!  作者: 来宮奉
デイン・ミッドフェルド基地の日々
59/303

ツバキ小隊の休日?⑤

「フィーさん、早いですね。まさか無傷で来るとは思いもしませんでした」

「全て回避せよと隊長殿より命令を受けました」

「そうでしたね。あら、イスラさんお疲れ様、素敵なペイントね。どこでそのペイントして貰えるのか、良かったら教えて頂けないかしら」

「全く、良い性格してるよあんた」


 右肩と脇腹、左大腿にペイント弾を受けたイスラが息を荒くしてチェックポイント30に到着した。

 対するタマキは無傷である。


「難易度設定がおかしくないか?」

「設定は適当です。一番高くしておきました」

「正気かあんた」


 話していると、そこへリルが駆け込んできた。

 案の定、機体には数発のペイント弾の跡が残っている。


「リルさんお疲れ様。素敵なペイントね」

「次は全部避けるから」


 不機嫌そうにタマキに言い放ち、リルはヘルメットのディスプレイを上げて、水筒に口をつける。


「残りの隊員は――全滅のようですね……」


 隊員の被害情報を見て、タマキは微笑んだ。

 訓練用ペイント弾は、命中した瞬間にその機体に対するダメージを計算する。

 タマキとフィーは命中弾0。

 イスラとリルは命中こそしたが、機体の損傷は軽微。作戦続行可能なレベルだ。

 残りの3人、カリラ、サネルマ、ナツコの状態は目を覆うレベルであった。

 ナツコは開始の瞬間に即死。サネルマはしばらく善戦したが、チェックポイント03地点で右腕部に致命的なダメージ。チェックポイント04へ向かう途中で死亡している。

 カリラはタマキの予想に反してかなり善戦していた。

 しかしそれでもチェックポイント27付近で頭部に命中弾を受けて死亡。そこまでは損傷軽微だっただけに残念である。


「嬉しそうだな、少尉殿」

「そりゃあね。訓練だもの、最初はこうでなきゃ」

「最初、ねえ」


 イスラは不敵に笑って見せた。

 最初、ということは、次があると言うことだ。

 とはいえ、イスラ自身、次があることを望んでいた。

 一度コースを覚えた今、次は全て回避する自信があったからだ。


「はい、カリラさんお疲れ様。凄いところに当てられたましたね」

「余計なお世話ですわ。後ろでサネルマさんが素っ頓狂な叫び声を上げさえしなければこれくらい回避出来ましたのに」

「で、そのサネルマ副隊長殿は?」


 イスラは口にしたが、遠くから全身ペイントにまみれたサネルマがやってきたのを見て口笛を吹く。

 サネルマは、小脇にナツコを抱えてゆっくりとタマキの元へとやってきた。


「あら、サネルマさんお疲れ様。ところでそれは何かしら」

「ええと、負傷者を回収してきた次第です」


 抱えられたナツコの機体は、元の色が分からないくらいにカラフルに染め上げられていた。

 ヘルメットすら例外では無く、補助用のカメラも全てペイントで塗り尽くされていた。


「あらまあ、大変だったようですね。一応わたしからいくつか言っておきましょうか――その前に……」


 タマキは背中に積んでいた特殊洗剤のボトルを2つ取り出し、1つをイスラへと手渡した。


「ペイントを落としましょうか。1人前が見えなくなっているようですし」


 全員でナツコの機体のペイントを落とすと、各自の機体のペイントを協力して落としていった。


「さて、綺麗になったところで、わたしからいくつか――。回避訓練の結果ですが、フィーさんは全て回避。イスラさんとリルさんは命中弾を受けたものの損傷は軽微。残り3人は死亡という結果です」


 ”残り3人”へと視線を向けて、タマキは微笑む。


「訓練ではこうして生き残ることも出来ますが、実戦で命中弾を受けた場合こうはいきません。分かりますね?」


 質問に、ナツコとサネルマは返事をする。カリラも、遅れて返事をした。


「さて、イスラさんとリルさん。損傷軽微とは言え、命中弾が出たことは事実です。イスラさんは貫通弾は無いですけれど、脇腹のそれは貫通していたら致命傷ですよ。リルさんは左腕に貫通弾を受けていますね。機体の運動に問題は無いとしても、貫通したのは12.7ミリ弾です。ただでは済まないことは理解できますね?」


 タマキの問いかけにリルは黙って頷いた。


「よろしい。では次を始める前にわたしからアドバイスを。フィーさん、イスラさん、リルさんにはわたしから言うことはありません。各自自分に足りない部分を意識して動いてください」


 3人は黙ったまま頷いた。


「カリラさんは後半になっても集中力を切らさないように。序盤の難関を無傷で通過しているのに、終盤ではつまらないところでのミスが多いです」

「分かっていますわ」

「分かっているのならば実行してください」


 厳しく返され、カリラは口をとんがらせたが、渋々了解を返した。


「サネルマさんは全体を見るように。避けることばかりに必死になりすぎて、コースの先への意識が薄れています」

「わかりましたぁ。やってみます」


 サネルマはタマキの言葉に2つ頷く。

 タマキの視線がナツコへと向くと、いよいよ自分の番だとナツコは緊張しながらも、どんなアドバイスを貰えるのかと胸をどきどきさせた。


「ナツコさんは――頑張ってください」

「え?」


 タマキの言葉にナツコはぽかんとする。


「とりあえずスタート前に一旦停止せず、速度を上げた状態でスタート地点を通過してください。今の状態では、わたしから言えることはありません」

「あ、あの――そ、そうですね。次はそうしてみます」

「では最初のチェックポイントからもう一度やりましょう」


 返事をして各自移動を始める。その面々を、タマキは引き留めた。


「何処へ向かっているのですか。そちらではありませんよ」

「いや、少尉殿が最初のチェックポイントからって――」

「ええ、ですから、最初のチェックポイントです。00ではなく、000からやります」


 タマキが示したのは、雨天行軍のスタート地点。


「つまり、今日の訓練を最初からやり直せって事か。了解だよ、少尉殿」

「理解して貰えたようで嬉しいです。では、各自行軍、射撃、回避の順でこなしてください」


 タマキの命令に一同気のない返事を返して、それでも行軍訓練のスタート地点へと移動を始める。

 雨の中の行軍訓練。

 各自、とのことなので各々が自分のペースでチェックポイントを通過していく。

 ナツコは一番後ろを、幾度か転びながらも賢明に進んでいた。


「これで250。あと半分っと!」


 緩くカーブしながらチェックポイントを通過して、次のポイントを確認して加速させた。


          ◇    ◇    ◇


「ではフィーさん。射撃訓練を始めてください」


 一番に走り終えたフィーリュシカは、タマキの見守る中射撃訓練を開始した。

 全速力でコース上を走りながら、正確無比にターゲットの中心を打ち抜いていく。


「全ターゲット命中、外した弾は0ね。お疲れ様。そのまま回避訓練を始めてください」

『了解しました』


 フィーリュシカは速度を落とさず、回避訓練へと突入する。

 どうせ難なくクリアしてしまうだろうと、タマキは新たにやってきたイスラの方へと指示を出した。


「ではイスラさん、射撃訓練をどうぞ」

『了解』


 イスラは急加速し、射撃訓練を開始する。

 次々現れるターゲットに対して、撃ちやすい位置へと移動しつつ正確に射撃していく。

 イスラも1発も外すこと無く、ゴール地点へと到達した。


「イスラさん。ターゲットを1つ撃っていませんよ。80番のターゲットです」

『見えたのは全部撃ったはずだぞ』

「では見えていなかったのでしょう」

『まてまて、どこだよ』


 イスラは地図を表示して、80番のターゲットの場所を確認する。


『ひっでえなあんな場所かよ』


 イスラは今来た道を引き返し、大通りの十字路で立ち止まる。

 直進した十字路の左側。距離約1200メートルの位置にターゲットが出現している。


「射撃訓練ですから。静止している相手に対してなら大した距離では無いでしょう?」

『全くだ』


 イスラは機関銃を構えると3発弾を撃ち出して、1200メートル先のターゲットへと命中させる。

 新型の射撃管制が使える以上、立ち止まって撃てるのならば大した距離では無い。

 一度見つけてしまえば難易度はそう高くない。静止目標に対してなら1500メートル距離があっても当てられる銃だ。


「では最初からやり直してください」

『一応確認しておくが、どこの最初からだ?』


 イスラの質問に、タマキは微笑んだ。


「分かっているでしょう? もう1周走ってらっしゃい」

『了解。でも1人で行くのもむなしいからお嬢ちゃんと2人で行こうかな』

「あら、リルさん着いていたのね。どうぞ、気にせず始めてください」


 リルへと無線で連絡して、タマキとイスラはコース上から待避する。

 リルは全速力で進みながら、難しい位置のターゲットも難なく打ち抜いていく。

 そしていよいよ長距離射撃の十字路へとさしかかる。

 だがリルは横目でちらとターゲットを確認すると、一挙動で銃を構え、その中心へと見事に弾を命中させた。


「あら、見えてんのかよ」

「残念でした。1人で行ってらっしゃい」

「仕方ねえ、行ってくるか」

「リルさんはそのまま回避訓練を。1発でも当たってしまった場合は、イスラさんともう一周走って来て貰います」

『それだけは御免だわ』


 しかし、リルは回避訓練で2発被弾し、そのままイスラの後を追いかけることとなった。


「フィーさんお疲れ様。あなたにこの程度の訓練は必要なさそうね。トレーラーに戻って休んでいていいですよ」

「隊長殿、ナツコの様子を見てきてもよろしいでしょうか?」

「ナツコさんの? ええ、そうですね。見てきて貰えると助かります。必要ならば助言して頂けると尚のこと嬉しいです」


 珍しく意見したフィーの提案を了承して、タマキは次の挑戦者へと指示を飛ばす。


「ではカリラさん。射撃訓練を開始してください」

『分かりましたわ』


 カリラはコースを走り、現れるターゲットを撃っていく。

 しかし少し距離が離れると当たらない。また、動く目標に対してはそれ以上に命中率が下がった。

 それでも銃を連射し、わざと一定の分散率を設定することで無理矢理命中させていく。

 途中で2度も弾倉を交換し、最後の目標へと命中弾を出すと、ようやくクリアした。


「無駄弾が多すぎます。それと、命中させていないターゲットが18個あります」

『と、途中で消えるターゲットなんて卑怯ですわ!』

「出現してから一定時間で引き込むのは仕様です。それまでに当てられるように努力してください。それと、次から使用して良い弾倉は1つまでとします。よろしいですね」

『よろしくありませんわ! そんなの当たるわけ――』

「よろしいですね?」

『――了解ですわ』


 語気を強めてタマキが告げるとカリラは諦めて受け入れ、既に見えなくなっていたイスラとリルの後を追いかける。


「次はサネルマさんですね。では始めてください」

『はい!』


 サネルマは2つのターゲットを逃し、そのまま行軍訓練へと向かった。


「まだまだ時間がかかりそうだけど、上達はしているみたい。恐らく全員、今日中にこの程度の訓練は――」


 タマキは独り口にして、それから忘れていた隊員の存在を思い出した。

 メインディスプレイを視線で操作しナツコが未だに1周目の行軍訓練チェックポイント430付近にいるのを確認して、タマキは深くため息をつく。


「大丈夫……でしょうね……?」

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