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冷やし中華お待たせしました!  作者: 来宮奉
ハツキ島決戦
263/303

ツバキ中隊戦闘開始

 タマキとサネルマは、地下施設第2階層内に隠された通路から第3階層へと向かう。

 ハツキ島中央市街地の地下に張り巡らされた旧枢軸軍施設。

 その中でも特にセキュリティが厳しく、外界からの攻撃にもびくともしない心臓部。


 この管理区画へ入る認証コードは市民協力者も持っていなかった。

 されどサネルマの持つ認証コードは難なく秘密通路のロックを解除し、管理区画への道を開く。


「ハツキ島地下帝国の皇帝だったそうですね」


 管理区画へ通じるエレベーターの中でふとタマキがサネルマへと声をかける。

 それにサネルマは顔を引きつらせて、誤魔化すように返した。


「な、なんのことやらさっぱり」

「ただの事実確認です。誤魔化さなくて結構」


 真実を答えろとタマキが脅迫気味にそう言うと、サネルマもタマキ相手ならと、仕方なく口を割った。


「――そう呼ばれてはいましたけど、あれは話が勝手に大きくなっただけなんです。

 ただ管理区画への認証コードを偶然拾っただけで」

「それだけであんなにも市民を従わせられますか?」


 サネルマは返答に詰まり視線を逸らした。

 しかし狭いエレベーターの中で2人きり。いつまでも黙っていることも出来ず答える。


「少しばかり暴力に訴えたのは事実です。

 でも初等部の頃の話なんですよ。もう15年以上昔です。

 なのに未だにあんな風に扱われるのは、酷い話だと思いません!?」

「それは、少しは同情もしますけど」


 初等部時代スーゾと組んで子供のイタズラですまないような悪ふざけをやらかしてきたタマキにとって、それは他人事ではなかった。

 もう10年は昔の話なのに、未だにトトミ惑星首都に帰れば悪ガキ扱いされるのだ。


「もしかして出家したのもそのせいですか?」


 興味本位で、必ずしも答える必要は無いと含ませて問いかける。

 サネルマはそれに肯定も否定もせず返した。


「それもあるのかも知れないですけど、それだけで決めたわけではないです。

 信じる何かがあると、救われることもあるものですよ。

 隊長さんもどうです?」


 はにかんで冗談めいて告げるサネルマ。

 タマキはそれを一喝する。


「部隊内での宗教勧誘は禁止したはずです」


 サネルマは柔らかな笑みを浮かべる。


「そうでした。

 では戦争が終わった後に、興味があれば」

「そうね」


 タマキは短く言葉を句切り、サネルマの頭へ視線を向ける。

 ヘルメットに隠れては居るが、その下の頭は見事に剃り上げられてピカピカに輝いているはずだ。

 タマキには頭を丸める勇気は存在しなかった。


「検討はしておきます」


 その場を濁すように返すと、サネルマはそれで十分だと微笑んだ。


「はい。是非」


 エレベーターが停止した。

 第3階層に到着し扉が開くとサネルマは迷わず進んでいく。

 第2階層に比べて狭い通路。明かりは非常灯だけで薄暗かった。


 通路を抜けると居住区画に辿り着いた。

 上級士官用に作られたであろう居室が並ぶ。その中に倉庫として使われているらしい部屋があり、扉が開けたままになっていた。

 室内には〈R3〉の格納容器も見える。

 タマキがそちらへ視線を向けたのを見て、サネルマが声をかける。


「私物の〈ヘッダーン1・アサルト〉です。

 2機だけですが使うのであれば提供できますよ」

「いえ。整備士に今仕事を振る訳にはいきませんから。

 違法品でなければ問題ありません」

「その点は大丈夫です。

 民間向けの競技用機体なので」


 カリラやイスラと違い、秘密裏に軍規格品を保有しているなどということはない。

 それなら構わないと、タマキは機体についてはそれ以上触れなかった。


 管理ゲートをくぐりその先へ。

 第3階層の中枢部へと入る。

 サネルマは一番手前の部屋に入りエネルギー供給レバーを上げた。

 非常灯だけだった第3階層が、白色電灯で照らされる。


「エネルギー源は?」

「旧時代のものです。

 備蓄はあるみたいですけど、補充が不可能なので節約していました」

「それが賢明でしょうね」


 前大戦までのエネルギー資源は枯渇し、宇宙中探してもほとんど残っていない状態だ。

 使い切ったら最後、二度と補充は出来ない。


「この先です」


 サネルマに案内されて、タマキは管理区画内の制御室へと入る。

 中央のコンソールは枢軸軍仕様で、サネルマが認証コードを通すと直ぐに起動した。


「地下施設内の管理システムを起動させます。

 確かここで設定できたはずです」

「試したことは?」

「まだ1度も」


 それは大丈夫かと、タマキは不安げにコンソール画面をのぞき込む。

 サネルマは操作を続けて、管理システムの項目を開き、全ての項目の動作チェックを開始した。


「システム問題無し。起動いけそうです」

「直ぐに起動して」

「はい」


 2つ返事で答え、サネルマが管理システム起動コマンドを入力。

 起動の確認のため認証コードが要求される。

 サネルマはコードを通すが、再び認証コードの要求。


「あれ? どうして――。

 あ、管理システム起動には2名以上の認証が必要……」


 提示されたエラーコードを見て、サネルマはやってしまったと涙目でタマキを振り返る。

 それに対してタマキは自分の端末を差し出した。


「祖父のコードです。

 使えますか?」

「や、やってみます!」


 枢軸軍元帥であるアマネ・ニシの認証コード。

 サネルマがそのコードを入力すると、認証は通され、管理システムにエネルギーが供給された。


「起動しました!」

「大変結構。

 通信システムを立ち上げて」

「はい!

 起動確認。第2階層以下での通信システム稼働中です」

「ご苦労様」


 通信システムが立ち上がり、早速タマキは通信のテストを行う。

 旧枢軸軍仕様の通信システムへ統合軍の通信機から繋ぐプロトコルを使って、第2階層に居るはずのイスラへと発信。


「こちらツバキ1。ツバキ4、着信したら応答を」


 応答は直ぐに返ってきた。ノイズ混じりだが、発信内容は聞き取れる。


『こちらツバキ4。通信確認。

 プロトコル調整中。10秒くれ』

「了解」


 10秒待機すると、イスラから発信がなされる。今度はノイズのないクリアな音声だった。


『調整完了。そっちは大丈夫かい?』

「問題ありません。

 輸送車両の状況は?」

『ポイントA班は第2階層目標地点まで到達。

 これから第1階層へブツを運ぶところだ』

「では作業開始をお願いします」


 順調なら何も言うことは無いとそれだけ指示するタマキ。

 しかしイスラ側から問いかけられる。


『作業は始めるが、これだけの爆薬で足りるのか?

 地盤が弱いとは言え相手は基地防壁だぜ。帝国軍にとっちゃ防衛の要だ。

 防壁の構造も分からない状態で適当に爆発させたって、上手く崩れてくれるとは限らないなんてこたあ、あたしから説明するまでもないだろう?』


 イスラの疑問は当然だった。

 だがタマキはそれについて一切の問題はないと即答した。


「理解しています。

 ですが大丈夫です。精密測定と超高性能演算の準備は整えてありますから、作業の間に構造計算と爆薬配置地点の算出は済ませます」

『そりゃ素晴らしいことだね。

 しっかし、よくそんなものこの最前線で調達出来たな』


 その言葉にタマキは心なしか口元が緩くなり微笑む。


「ええ、本当に。

 ともかく、爆薬は第1階層まで迅速に運び上げて下さい」

『了解。

 ツバキ4、任務に戻るよ』


 通信を終了。

 タマキは待機していたサネルマへ声をかける。


「第1階層より上への通信も問題ありませんか?」

「帝国軍の妨害電波次第かと」

「そうでしょうね。今のところは西側だけでも通じるのならそれで良いでしょう。

 ではわたしたちも第1階層へ戻りましょう」

「はい!」


 2人は制御室を後にして、元来た道を引き返し始めた。


          ◇    ◇    ◇


「ポイントA、構造解析80%完了」

「ありがとうございます!

 直ぐに爆薬の最適設置地点計算します!」


 第1階層。

 ハツキ島市街地を覆うように建設された2枚目の基地防壁直下。

 ここは帝国軍によって寸断されたため、地表との接続点から切り離されていた。

 第2階層の存在を知らなければ辿り着けないこの場所は、ハツキ島義勇軍にとって安全地帯となっていた。


 そんな空間に足場を組み、フィーリュシカが天井へと手を当てる。

 彼女は天井の向こう側にある基地防壁下部の地下構造物を観測していた。

 フィーリュシカの銀色の髪に溶け込んでいた黄金色の”手”は、深い次元の存在を認識することで視覚的には見えない天井の向こう側を”視る”ことが可能だった。

 ”手”は同時に電子的な情報にも干渉し、個人用端末へと観測したデータを書き込んでいく。


 そのデータをナツコが参照し、少ない爆薬を同時に起爆することで、連鎖的に地下構造物へ負荷を与え崩壊を引き起こす最適な点を計算。

 建築力学と火薬学の参考書を片手に特異脳を動かし続けた。


「計算結果出します。

 トーコさん、お願いします」

『了解』


 〈ヴァーチューソ〉に搭乗するトーコが爆薬設置地点のデータを受け取る。

 トーコは直ぐに行動を開始。

 〈ヴァーチューソ〉の両腕に装備された削岩機で、第1階層の天井を破壊し、堅い地盤をも削っていく。

 下で待機していた歩兵部隊が土砂の搬出と足場の建築、出来上がった坑道の補強を同時並行で進め、一体となって爆薬設置地点までの道を切り開いていく。


「構造解析100%完了」

「ありがとうございますフィーちゃん。直ぐに計算します!」


 フィーリュシカがこの区域の地下構造物と基地防壁の構造解析を完了。

 データを受け取ってナツコが計算開始。それを急かすようにフィーリュシカが声をかける。


「次の地点へ移動を」

「ちょ、ちょっと待ってください。

 慣れてないことは同時には無理なので!」


 多少の発熱と頭痛と引き換えに特異脳の演算速度を引き上げる。

 爆薬の引き起こす複雑な物理現象を脳内でシミュレーションし、瞬く間に設置地点を導き出す。


「結果出ました。

 これで進めてください!

 後はお願いします!」

『こちら了解。

 そっちは任せるけど、助けにいけないからあんまり無謀なことしないでね』


 トーコの言葉に、既に次の地点へ移動を開始していたナツコは振り返って大きく頷く。


「はい! 気をつけます!」


 その言葉を通信機越しに受けたトーコは、新しく受け取ったデータを元に削岩機を動かし続けた。


          ◇    ◇    ◇


 地下施設内での作業は急ピッチで進められた。

 ハツキ島義勇軍。そして市民協力者とハツキ島に残った軍人の力も借りて、爆薬を設置していく。


 同時に次の作戦のための準備も行う。

 フィーリュシカとナツコは、全ての爆破地点の構造解析と爆薬設置地点計算を完了すると別行動をとった。


 ナツコは第2階層を横断し市街地東側へ。第1階層へ通じる出口の前でしゃがみ込み、頭に吸熱シートを貼り付けて酷使した脳を冷ます。

 十分冷え切ったところで吸熱シートはバックパックへ。

 ヘルメットをかぶり直して待機して準備完了の報告を行う。


「ツバキ6。配置完了しました」


 若干遅れてタマキから応答。


『ツバキ6、配置完了了解。

 ――では作戦を次の段階へ進めます。

 各員。ここから先、帝国軍支配領域内では通信が繋がりづらくなると予想されます。

 不測の事態が起きた場合でも、落ち着いて、事前の取り決め通りの行動を心がけてください。

 では、ポイントA起爆準備』


 タマキの言葉に対して、起爆の担当として配置についていたイスラが準備完了を告げる。

 しばらくの間。恐らくタマキが第401独立遊撃大隊のカサネと連絡を取っている。


 その間、ナツコは装備の最終確認。

 〈ヘッダーン5・アサルト〉は点検済み。

 コアユニットには冷却塔2基。

 機体各所放熱板、間接部材は、価格度返しで性能を重視したニューメイズブランドのものへ換装済み。

 機体に搭載されたDCS機構は運動、電気、音の3種類。


 武装は左腕25ミリリボルバーカノン。右腕12.7ミリ機関銃と汎用投射機。

 右肩には対装甲ロケット射出機を装備。携行弾数は2つきりだが、〈ハーモニック〉の振動障壁を貫通可能な3連タンデム弾頭。


 弾薬は25ミリを多めに、積めるだけ積んだ。

 汎用投射機用の弾はグレネード多めで若干煙幕弾。索敵は目視に任せることにして索敵ユニットは置いてきた。


 後は個人防衛火器と私物の拳銃〈アムリ〉。そして近接武器としてハンドアクスと高周波振動ブレード。


 移動手段として両腕両腰に計4カ所装備されたワイヤー射出機。

 加速用のブースターと空中制動用のスラスター。それに緊急停止用のアンカースパイク。


 バックパックには水と食料、持てるだけのエネルギーパック。

 そして救護用の個人用担架。


 全機構の正常動作を確認。

 呼吸を落ち着け、脳の奥へと意識を向ける。

 少しばかり酷使したせいか軽い頭痛はあったが、特異脳はまだまだ使用可能。

 このハツキ島政庁奪還のため、特異脳をどう使うべきか、ずっと考えてきた。


 戦闘準備完了。いつでも行ける。


 〈ヘッダーン5・アサルト〉の火器管制へアクセス。安全装置を解除。

 全ての準備を整えると、タマキからハツキ島義勇軍ツバキ中隊全体へ通達が為される。


『これより市街地戦に突入します。

 まずは統合軍を中央市街地西側へ引き入れます。

 ポイントA、起爆してください』


 イスラの短い応答。

 ナツコは目を閉じて、作戦開始の合図に備える。

 数十秒後、爆音と振動が訪れた。

 地下深くにある第2階層は揺れはしたが崩れはしない。


 そしていよいよ、市街地戦開始の命令が下った。


『ツバキ中隊全隊員へ。

 中央市街地第2基地防壁、西側正面地点の崩落を確認。

 統合軍攻略部隊が前進を開始しています。

 各員、次の行動へ移ってください。健闘を祈ります』


 指示を受けると、ナツコは応答と共に第1階層への通路を開く。

 非常灯に照らされた上へと向かう長いスロープを、〈ヘッダーン5・アサルト〉を急加速させ一気に一番上まで駆け上がる。

 出口のコンソールを操作。直ぐに扉は開いた。一瞬だけ安全確認して飛び出す。


 第1階層。

 ここから先はいつ帝国軍と接敵してもおおかしくない。


 早速〈R3〉の駆動音を耳が捉えた。

 まだ遠い。

 一応第2階層への接続点位置だけは秘匿したいので、少しだけバレないように移動。

 

 そこからコアユニット出力を引き上げ、わざと騒音を立てて敵機方向へと走り出す。


 ――ハツキ島義勇軍ツバキ小隊、ナツコ・ハツキ一等兵。作戦開始します!


 敵機目視。既に照準を定めていたカノンリボルバーが火を吹く。

 ハツキ島義勇軍の、中央市街地における戦闘が開始された。


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