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冷やし中華お待たせしました!  作者: 来宮奉
青色の少女
223/303

タマキの尋問

 懲罰房区画に入ったタマキ。

 見張りをしていたフィーリュシカが立ち上がると、彼女にシアンについて尋ねる。


「捕虜は起きてますか?」

「寝ている」

「そう。起こして」


 指示を受け、フィーリュシカは警棒で鉄格子を叩いた。

 金属音が反響し、シアンはベッドの上で身体を半分起こすと、抗議するような視線を向ける。


「寝てるときは起こすなって言わなかった?」


 フィーリュシカはシアンの言葉を無視して、鉄格子の正面から一歩下がる。

 そこへタマキがやってくると、シアンはだるそうに喉を鳴らした。


「おはようございます。

 寝てばかりのようですね」

「他にやることある?」

「退屈でしたら少し話をしましょう」


 シアンは拒否感を露わにするが、タマキはそんなもの気にもせず、椅子を鉄格子の前に置くと腰掛けた。


「名前と所属をきいておきましょうか」

「名前は伝えたはずよ。

 っていうかコゼットに連絡したの?」


 シアンは質問を撥ねのけようとするが、タマキはそれを無視して問いかけを変える。


「帝国軍の所属ですか?」

「そう見える?」

「では統合軍ですか?」

「本気で聞いてるの?」


 シアンは所属についてまともにとりあうつもりは無いらしい。

 しかし名前と所属を述べるのは捕虜の義務だ。こんな態度を続けていれば、捕虜収容所ではなく軍刑務所に入れられてもおかしくない。


「所属は言えないと。

 個人で活動しているわけではないでしょう?

 あなたの機体の整備も輸送も1人では出来なかったはずです。協力者がいるでしょう」


 長距離移動不可能な〈アヴェンジャー〉がレインウェル北部の台地地域で戦闘を仕掛けてきた以上、何らかの輸送手段及び補給手段を備えた協力者がいるのは間違いない。


「居たらなんだってのよ」

「統合軍支配領域圏内で戦闘可能な組織を放っておけるわけがないでしょう。

 あなたの所属する組織は、少なくともレインウェル北部で捕虜を奪うためにわたしたちに襲撃を仕掛け――」

「訂正いい?」


 タマキの言葉を遮り、シアンが半分手を掲げた。

 話を切られたことに不満は感じたが、シアンが自分から何か話そうとするのであれば聞いておこうとタマキは頷いて発言を促す。


「あたしたちは捕虜を奪うために戦ったんじゃない」

「おかしなことを言います。

 捕虜輸送中の輸送部隊を襲って、実際に捕虜を奪っておいて」

「おかしいのはそっちでしょ。

 襲ったのは輸送護衛部隊。捕虜は奪ってない」

「捕虜は奪われました」

「奪ってないって。聞き分けのないお嬢ちゃんね」

「ではあの後捕虜を乗せた車両は何処へ行ったというのですか」

「ちょっと考えりゃ分かるでしょ。

 奪ってないんだから当初の予定通りよ」


 シアンの言葉を復唱し、タマキは当時の行き先を思い返す。

 捕虜はレインウェル北部、台地地帯の荒野に新設された捕虜収容所に送られるはずだった。

 シアンの言う通りだとすれば、捕虜は収容所に運ばれたはずだ。

 しかし手元の端末で調べてても、レインウェル北部の捕虜収容所に収監された捕虜は1人も居ないし、そもそも現在は収容所自体が閉鎖されている。


「記録はそうなっていないようです」

「記録なんか残せるわけ無いでしょ」

「捕虜をどうしたと言うのですか」


 問いに、シアンはタマキを小馬鹿にしたように笑った。


「とてもお嬢ちゃんには言えないことよ。

 刺激が強すぎるわ」


 帝国軍の捕虜。僻地に建てられた収容所。

 捕虜は収容所への輸送中、襲撃を受けて奪われた。

 襲撃については総司令官コゼット・ムニエによって箝口令が敷かれ、直接かかわった人間にしか周知されていない。

 シアンの言葉が真実だとすれば、捕虜収容所で行われたのは恐らく――


「捕虜で人体実験を?」

「さあね。気になるなら調べてみたら?

 何にも残ってないだろうけど」


 タマキはレインウェル北部捕虜収容所についての情報を求めようとしたが、シアンを不当拘束していることをカサネに話していない手前突然こんな質問をしたら不審がられるだろうと思いとどまった。

 この件については、後でレインウェル基地所属のスーゾに確認をとって貰おうと、端末にメモだけ残しておく。


「ムニエ司令はその内容を知っているの?」

「誰?」

「総司令官コゼット・ムニエ大将」

「ああ、そんな名前だったっけ。

 本人に聞いてよ」

「生憎、連絡方法を知りません」

「娘に聞きなさいよ」

「どうして娘のことを知っているのですか?」

「顔見りゃ分かるわよ」


 シアンは高圧的な態度を崩さない。

 リルが自分からコゼットの娘であると告白するはずが無い。しかし確かにコゼットの若い頃とリルの顔は良く似ている。

 昔のコゼットの画像を見たことがあるなら気がついてもおかしくない。


「あなたはムニエ司令とはどういう関係?」

「別に。

 一番偉い奴に不当拘束の事実を伝えたいだけよ」

「報告はこちらで行いますから結構。

 ムニエ司令とあなたたちに何らかの繋がりがあることは把握しています。

 あなたと顔を合わせるのは、決まってムニエ司令直々の命令を受けたときです」

「短絡的な考えだわ」


 シアンはタマキを馬鹿にしたように笑う。


「偶然と言い張るつもりですか?」

「あいつが何をしたいかなんて知らない。利用できるときに利用してるだけ

 嘘だと思うなら本人に確認どうぞ」


 シアンはぷいと視線を逸らす。

 コゼットについては話すつもりは無いらしい。

 タマキはコゼットに直接連絡をつけることも可能だが、それは最後の手段だ。


「では輸送護衛についていたわたしたちへ攻撃を仕掛けた理由は?」

「邪魔だったから。それじゃ駄目?」

「非常に迷惑です」

「こっちの台詞だわ」


 少なくともシアンは攻撃を仕掛けた件について、輸送護衛についていたタマキ側に問題があるとしたいようだった。

 とても話が折り合わなそうなのでタマキは話題を変える。

 

「質問を変えましょう。

 宇宙海賊は知っていますね?」

「宇宙のゴミよ」

「同感ですが、あなたたちは彼らと関係があるでしょう」

「欲しいものを買ってるだけ」

「向こうは随分と〈空風〉操縦者のことを気に入っていたようです」

「そうなの? 知らなかった」


 シアンは宇宙海賊に対して興味を示さない。

 最初の回答の通り、彼らのことを「宇宙のゴミ」程度にしか思っていないのだろう素っ気ない口ぶりだ。

 タマキは〈空風〉の名前を出したので、その搭乗者について尋ねてみる。


「〈空風〉の搭乗者ですが、ユイ・イハラ提督の遺伝子を使ったブレインオーダーだそうですね。

 何時何処で遺伝子を入手したか教えて貰えますか?」

「そんなのどうでも良いことだわ」

「わたしは興味あります」


 シアンはむすっとして嫌悪感を隠さなかった。

 しかしタマキが答えを催促すると、嫌々ながらも返答する。


「知らないわよ。あたしが作ったわけじゃ無いし」

「では誰が造ったと」

「言うわけ無いでしょ」

「お母様、とやらですか?」

「本人に聞けばいいでしょ。あたしに聞かないで」


 シアンは敵意をむき出しにして質問を突っぱねる。

 タマキの予想は大方正しそうだ。だとしたら『お母様』とは何者なのか。

 ブレインオーダーを製造出来るとなれば、それなりの技術力を有した人物だ。

 コゼットでは無い。宇宙海賊の誰か――副艦長のメルヴィルはどうか。

 考えた所で答えは出てこなそうだった。


「あなたに指示を出しているのはそのお母様で間違い有りませんか?」

「指示じゃない。お母様の望みはあたしの望みよ」

「大層信望しているようですね。

 今はどちらに?」

「言うわけ無いでしょ」

「でしょうね」


 ここまで発言を拒んでおいて、今更首謀者の情報を漏らすはずも無い。

 やむなくタマキは切り口を変えて問う。


「アキ・シイジを知っているそうですね」

「優秀な兵士だった」

「妙ですね。

 アキ・シイジは20年ほど前に大きな傷を負って手術して以来、生死不明のはずです。

 あなたはいつ彼女と会ったのです?」

「だったら20年より前なんでしょ」


 きっぱり言ってのけるが、シアンの見た目は初等部学生にしか見えない程幼い。

 とても20年以上生きているとは考えられなかった。


「あなたは何歳ですか?」

「何歳だって良いでしょ」

「よくありません」

「じゃあ12歳」

「先ほどの話と矛盾します」

「あたしの知ったことじゃないわね」


 埒があかないとタマキは肩をすくめる。

 しかしアキ・シイジを知っているのならと、すがるような思いで尋ねた。


「アマネ・ニシはご存じですか?」

「少なくとも捕虜を不当拘束するような人間じゃ無いでしょうね」

「それには同意します。

 ――会ったことは?」

「忘れたわ」


 回答を誤魔化されて、タマキは眉を潜める。


「わたしはこの戦争の真実を知りたいと考えています」

「だったら質問する相手を間違えないことだわ」

「あなたは統合軍も帝国軍も知らないことを知っている。

 その知識は真実へ近づくために必要な物です。

 話す気にはなりませんか? あなただって、いつまでもこんな場所に居たくは無いでしょう?」


 脅すように問いかけるタマキ。

 しかしシアンは不敵に笑って見せた。


「構わないわよ。快適な場所だもの。ご飯も美味しいし。

 そもそも出す気ないでしょ。コゼットどころか上官にだって報告してないんだから。

 今更人権無視した不当な拘束してましたなんて言い出せない。違う?」


 問いに対して、タマキはシアンの青い瞳を見据えて答えた。


「確かにそうですね。

 ですが言った通り、わたしはこの戦争の真実を知りたい。

 もしあなたが話すべき事を話してくれたのならば、自由を保障しましょう。

 統合軍に突き出したりしません。

 直ぐに解放して差し上げます。望むなら、あなたを連れ去ったあの場所まで送っても良い。もちろん〈アヴェンジャー〉も修理して返します」


 シアンは「ふーん」と鼻を鳴らした。

 提案に興味を持ってくれたかとタマキは問う。


「真実を話してくれますか?」


 乗り気になったのかと見せかけておいて、シアンは期待を裏切るように小馬鹿にしたように笑った。


「魅力的な提案とは思えないわ。

 こんな脆い檻、出ようと思えば直ぐに出られる」

「分かりました。

 ではもうしばらく大人しくしていなさい」

「そうさせて貰うけど、その人形女見張りにつけるの止めて。気が滅入るわ」

「ごゆっくり」


 タマキはフィーリュシカに引き続き見張っているように命じると、懲罰房区画から離れた。

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