プロローグ①
初投稿です。よろしくお願いします。
第1話 プロローグ①
『売り切れ御免!異世界ドラード80日間の旅!』
そんな見出しのチラシ、正確にはダイレクトメールが我が家のポストに入っていたのは、会社を辞めた3日後のことだった。
勤めていたのは小さなシステム会社だった。
入社して10年。同期の連中が次々と辞めていく中でそれなりに頑張ってきたが先日、過労で入院したのをきっかけに退職した。
「住所と宛名も合ってるし、俺宛で間違いないよな」
アパートに一人暮らしをしていれば、こういったチラシがポストに入っているのは珍しくない。
ただそういったものは大抵、手当たり次第にばら撒くもので名指しで入っていることは稀だ。
しかもこのタイミング。
退職して保険や年金の切り替え手続きを終わらせて一段落した直後に来るとか、見計らったとしか思えない。
すでに胡散臭さ満点である。
「新生活の門出に異世界を観光してみませんか、とな」
やはり俺の現状を知った上で送り付けてきた模様。
全部読んでみたが、行先と期間がおかしい他は割と普通に旅行プランを紹介する内容だった。
見出しがアレだったので少々肩透かしをくらった気分だが……。
「何にせよ詐欺というより、俺のことを知っている人間の悪戯の可能性が高いな」
退職すること自体は別に隠していなかったし、辞表を出してから実際に辞めるまでの1か月間は引継ぎをしていたのだ。
俺を知っている人間なら退職後にこのメールを送ることはできるだろう。
こういう悪戯を考えそうな連中にも心当たりがある。
先輩のあの人とか、後輩のあいつとか、同期のあんちくしょうとかだ。
一か月の残業時間を自慢しあうイカレた職場環境でこんな悪戯を準備するのは容易ではないと思ったが、自身の有能さを効率的なサボり方に割り振っているあの変人共なら可能かもしれない。
優秀という出る杭を上司が無茶ぶりというハンマーでぶっ叩きにくる日本企業においては、人並み以上に仕事ができることを悟られてはいけないのだ。
ちなみに優秀でなくても、ノーと言えない人間には容赦なく無茶ぶりハンマーが降ってくる。ソースは俺。
「送別会では普通に見送ってくれたんだが、これを計画していたのかな」
ここまで手の込んだ悪戯に対して無視もかわいそうだし、悪だくみに乗ってやることにした。
チラシに載っていたのは見たことのない電話番号。ここにかけると仕掛け人が出てドッキリ大成功な流れだろうか。
まぁ、飲み会の口実としては悪くない。
「さて、誰が出るかな」
待ち構えているだろうドッキリには引っかかってやるが、その後は居酒屋で悪戯の経緯を洗いざらい吐いてもらう。
無論犯人どもの奢りで。
数回のコール音の後、電話がつながった。
「はい。こちら、ドラード旅行企画の受付になります」
聞き覚えのない若い女性の声だった。
アレー、オカシイナー。
「……」
「あの、もしもし?」
「ハッ、すみません。チラシを見たのですが」
ドッキリを企画したであろう野郎どもの声を予想していたら、
スマホから女性の声が聞こえてきて思わずフリーズしてしまった。
昔から想定外の事態に弱く、何とかしたいのだがなかなか難しい。
単純作業は得意なんだけどね。プラスマイナスゼロってことにしておこう。
「わぁ、ご連絡ありがとうございます。お申込みですか?」
電話からは嬉しそうに弾んだ声が聞こえる。
くっ、かわいいじゃねぇか。
だが、このままではダメだ。主導権を取り戻さなくてはいけない。
「あのぅ。もしもし?」
「あーっと、失礼しました。実は旅行の詳しい話を聞きたいと思いまして。資料とかも見たいんですが」
「あ、はい。もしよろしければ直接ご説明に伺いますが、明日などはご予定ありますでしょうか」
「えっ。じゃあ明日の14時くらいからお願いします」
……気が付いたら待ち合わせの約束をしていた。
電話した時点でネタバレがあるものと予想していたのだが、ひょっとして本物の旅行広告だったりするのだろうか。この内容で?
不可解な状況に悶々としながら良い解決策も見つけられなかった俺は、半ばふて寝するように寝床へ入るのであった。
2/17 改稿しました。