第5話 真実①
主人公 佐藤冷治 高校2年生
杏奈 中学3年生。冷治の妹。
寺西 真 高校2年生。転校生?
虎山 咲 高校2年生 冷治の幼馴染
「入れ。」
強ばった表情の、体型の良い男性警察官は、そのまま俺を目の前の牢屋のような個室に入れた。
なされるがままに入ると、ガシャンッという音と共に、背後で扉が閉まった。個室は和式で、鉄格子付きの窓と、簡易的なトイレと机、床は畳で、壁はコンクリート製だ。扉には郵便受けのようなもの(多分食事用であろう)に、上には軽く外が見える小さな窓がある。
その小さな窓からは、今さっき俺を連れてきた警察官がこちらを見ている。好奇心、という目だ。
俺は何故、今こんなことになっているのだろう。
そして、俺は一体何をしたのだろう。
俺が覚えているのは、目を覚ますと周りは血の海で、数十人が倒れていて、大量の救急車とパトカーが俺を包囲していたという事だけだ。
それを俺が全てやったのか、それとも俺はあの俺を殺そうとした柔道部の男子を殺しただけなのか、それは分からない。
よく隠キャが言う、「俺って怒らせたらやばいから。記憶飛ぶんだよね。」という中坊のイキリ台詞のようなことが、現実に起きてしまったような感覚だ。
とにかく、独房に今こうして入っている時点で、俺がやってしまったことは、おそらく軽くはないのだろうという事は容易に想像できた。
「あの、すいません。」
「…!!」
こちらをずっと見ていた警察官の目が、驚きと恐怖で見開かれる。だがすぐに平静を保ったように元の傍観者の目に戻った。
「俺は何をしたんですか?」
「…覚えて…ないのか…?」
「はい...。本当に、何にも。」
やはりだ。俺が今牢屋に囚われているという状況、そして警察官の様子。連れてくる時に、観察していたが、強ばった顔と裏腹に、手は震え、足はプルプルと小刻みに震えていた。彼は明らかに俺を恐れていた。
「俺がどこまで話していのか分からないんだ。…すまない。」
そう言うと、警察官は足早に去っていった。
くそ。全然状況が掴めない。
分かったのは、俺が単なる殺人事件レベルでない何かをやらかしたという事だけだ。少なくとも少年院行き程度ではすまない何かを。
おそらく詳しい真実を知るのは、弁護士と話す時か、取り調べの時になるだろう。
それまで、何をすればいい?
それから俺は、しばらく思索にふけった後、思考の無駄を悟り、寝ることにした。
おかしい。
あれから1週間程度経っただろうか。
食事の配給以外、何もされていない。
取り調べを受けることもなければ、外で労働もさせられない。弁護士を呼んでくれと言ったが、一向に来る様子もない。
どうなってるんだ?
そんなことを考えていると、
「佐藤 冷治。出ろ。」
唐突に警察官がやってきて、言われる。取り調べだろうか。
解錠された音がして、そのまま扉が開く。
久しぶりだ。ここから外に出るのは。
出てみると、自分が居た六畳半の世界が広がっていく。そうだ。世界はこんなに広いのだった。
と、10メートルほど歩いただけでも感じる。
そのまま連れていかれると、部屋に入る事はなく刑務所から出た。
…どこかへ連行されているはずだが、一体どこへ?取り調べとかじゃないのか?
そのまま車に乗せられる。
どういうことだ?一体おれは、どこに連れていかれている?
着いた先は。
裁判所だった。
「えー、被告人。何か言いたいことはありますか。」
裁判官が無表情で聞く。
「…。」
なんなんだこれは。
おかしすぎる。
俺は今さっきこの裁判所に来たが、それまでの説明は全く無かった。
その後、裁判所の被告人の席に座らされた俺は、検察側の主張を聞かされ、それに対して異論がないか、と問われた。
容疑を聞くと、俺は生徒のみならず警察官や教師までも殺していて、死刑が求刑されているとのことだった。
この話にまるっきり記憶がない俺はショックを受けたが、やはり実感が湧かなかった。
そして、寺西の話が全くでてこなかった。あいつはどうなったのだろうか。
逃げたのだろうか。
それとも....。
俺に殺されたのだろうか。
その後、覚えていない、と答えるとそのまま裁判は何事も無かったように進められ、今に至る。
そして、更におかしかったのは、俺の弁護士が今回が初対面かつ、全く弁護する気がない事だ。
つまり被告人としての俺の主張は何も考えてきていないままに全て何も覚えていない俺が話すこととなり、かつ相手には物的証拠や証人などが十分に揃っていた。
俺もドラマで見たことのある位の知識しか無いが、この裁判はあまりにも進みが速すぎる。
傍聴席には、母親と、杏奈、そして、被害者遺族とマスコミがいて、こちらを見守っていた。
一度、これによく似たドッキリをテレビでみたことがある。
明らかに雑なドッキリという主題で行われ、笑いを誘うコーナーだった。
もしかしてこれはドッキリなのか?
今までの全部がそうなのか?
いや、でも、俺のクラスメイトが襲ってきた時は本気だった。
あんな演技を全員ができるとは思えない。
しかも、あんなグロテスクな場面がとてもテレビで放送されうるとは思えない。
口を開かないと、本当にそのままスラスラと裁判が進んでいくので、とりあえずアクションをとることにした。
「あの…。これって本番なんですよね?」
裁判官は一切表情を変えない。
「成程。全く反省の余地はないらしい。」
「はい…?」
何を言ってるんだ、この人は?
呆れ返ったかのような顔で、少し裁判官達が話したあと、すぐに元に戻り、厳格な顔に戻った。
「被告人は証言台の前に立ってください」
裁判官に言われ、渋々従う。
「これで審理を終えることになりますが、最後に何か言いたいことはありますか」
...大有りである。
だが、初めて俺に向かって口を開いた弁護士によると、反論ではなく反省を述べよということだったので、俺は少なくとも今わかっていることから、俺が何かをやらかした事は間違いなかったため、それにより被害を被った被害者へと反省と謝罪を述べた。
被害者の母親であろう人が、遺影を手に泣き崩れていた。
その瞬間、今まで実感が湧かなかった、人を殺したのだという事実が初めてのしかかってきたのを感じた。
判決が述べられるのは二週間後らしく、俺はもう一度牢屋へと戻らされた。
そして、判決が言い渡される当日、
判決が言い渡されるまで時間が有りそうだったので、
弁護士に質問をしてみることにした。
「あの...本当に今日が裁判なら、何故今まで来てくれなかったんですか?
それに、弁護士って一体誰に雇われたんです?
僕ってこの後どうなるんですかね...。」
「....。」
「あの...弁護士さん?」
完全に無視を決め込んでいるが、どこか思い詰めているような顔であった。
「...すまない。」
最後にボソリと呟いた。
どういう意味か尋ねようとした瞬間、裁判官たちが判決を言い渡す時間になった。
「被告人佐藤冷治。」
「...。」
「君は非常に残虐な手口により...。」
それからは、俺がいかに酷いことをしたのか、長い話が続いた。
もう、この時点で嫌な予感しかしなかった。
「被告人を、...死刑に処する。」
「はい…?」
「佐藤冷治、お前は今回凶悪な犯罪を冒した。
戦後史上最悪かもしれん。
未来ある生徒達11名、教師2名、警察官12名の命を亡きものにした。とんでもない数だ。」
…。
そんな馬鹿な。
一体俺の平穏な日々は、何処に消えてしまったのか。
母親と杏奈が泣いているのが見えた。
日常は嫌いだった。
だが、こんな未来を求めていた訳じゃない。
どうせ逆らっても無駄なのだろう。大人しく連行され、俺は再び刑務所に戻った。