第4話 the end and beginning
主人公 佐藤冷治 高校2年生
杏奈 中学3年生。冷治の妹。
寺西 真 高校2年生。転校生?
虎山 咲 高校2年生 冷治の幼馴染
ジャブンッ
...あれ?
今俺は、何をしている?
意識をゆっくりと取り戻していく。
横たわる…いや、浮いているような感覚がする。
いや、浮遊感というよりは水だ。水に浮いている気分。目は…開けられるのか。
辺りは真っ暗で、何も見えない。そんな中に、漂っている自分の状況が分からずに、軽い恐怖を覚える。
周りからは、ブクブクと、泡のような音が聞こえる。手を動かすと、グオーンと水をかいた時のような音が聞こえてくる。
あれ、俺今呼吸が…。
そうだ、呼吸!!
苦しい、死んでしまう。
そう思った瞬間、体が上に浮上していくのが分かった。少しずつ、上へ、上へ。
明るさが出てきた。
上の方に水面が見える。水面は上の光で反射し、輝いている。
すると、
ジャブンッ
水面に何かが落ちてきた。
それはこちらより上で光が当たっているはずなのに、真っ黒で、人の形だけが見える。
俺が上がっていくのと反比例して、そいつはどんどん下へと沈んでいく。
助けるかどうかとか色々と考えようとしたが、息が苦しく、それどころではない。
丁度真上に落ちてきたそいつと、そのまますれ違う。
「初登場は華やかに、だな。」
そんな事を横で呟かれた。
なぜ水中で話せるのか、どういう意味か、などと考えている暇はない。
どんどんそいつは沈んでいくし、俺は上がっていく。息がしたい!!息っっ!!
「ぷはぁ!!!!」
真っ白の視界が、少しずつぐにゃぐにゃと形を創っていく。輪郭が出来た世界は、色彩を取り戻していった。
眩しい。久しぶりに思ったのはそれだった。
今までの水もなく、気がつけば俺は校庭に立っていた。周りは、何やら騒がしく、教師や、生徒はもちろん、警察官までおり、皆緊張した面持ちで俺を見ていた。
何故、見られてるんだ?
ていうか、俺は何をしてたんだっけ?
「冷......治…。」
後ろからの声に振り向く。
そこには、
「咲…っっ!!」
警察官に守られている、咲がいた。
身体中から血を流し、ほとんど瀕死のような状態だが、話す程度はできるようだ。
咲は、怯えた顔でこちらを見ている。
少しずつ記憶が戻ってくる。
教室に入ってきた真。殺されかけた俺たち。それから…。
それから、どうしたんだっけ?
とりあえず、だ。
「咲、大丈夫か!?急いで病院に連れていってもらえばきっと大丈夫だからな!」
咲が、こちらをじっと見つめる。
「…。」
「咲?」
様子が変だ。
というか、今はどんな状況だ?
真がいないばかりか、あの時その場にいたクラスメイトすらその場にはいなかった。
その代わりにいるのは、警察官や消防士で、俺を取り囲むようにして立っているではないか。
咲が傷ついた体から、絞り出すように言葉を出す。
「もう....やめて......。…大人しく....投降して。」
…...。はい?
これが、素直な反応だった。
何を言っているのか理解する為には彼女の視線を追って、自分の右手を見る他無かった。
そういえば、俺今何か持ってね?
右手を見る。
「…あ、あ、あああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁあああぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「それ」を投げ捨てる。
「それ」は、ぐちゃっという音と共に軽くバウンドして、動かなくなった。
「それ」が俺を見つめている。
「それ」の口は下顎から先が無くなっていた。
ずっと掴んでいたのだろう、髪の毛が一部分禿げていた。
「それ」が虚ろな目を、ゆっくりと下へ送っていく。
今さっきまで、殺したいほど憎んでいたはずの「それ」は、柔道で負ったのであろう、ぶつけたような痣が、昔からの傷としてついていて、今さっきまで首を締め付けて殴ってきていたままの恐ろしい表情ではなく、恐怖に歪んだ、筋肉が弛緩した状態のままこちらに何かを訴えかけていた。
俺はもう一度、叫び声を上げずにはいられなかった。
ここら辺は一話が短いねー