プロローグ 目覚め
「チュンチュン、チュンチュクチュン」
鳥の鳴き声…いや、これはスマホの目覚ましか。
ヒューイというような、囀りの響きのあと、再び同じボイスをリピートする。
この最初は可愛く囀っていたものは、時間を追うごとに巨大化し、音のテロを枕元で引き起こしていた。
「くぁ!!」
停止ボタンを押すと、やかましさが治まる。
今までけたたましく鳴きわめいていた憎き怪鳥は、どうやら眠りについたらしい。
ひとときの静寂と共に訪れたのはカーテンの隙間から微かに入ってくる光と、昨日部屋で食べたばかりの有名チェーン店のハンバーガーとポテトの匂い。
すぐに、今度は本物の小鳥の囀りと下の階からかすかに聞こえる弟と母親の会話がそれらに加わる。
ああ、そうだ。ここが現実か。
そこには今までぼんやりとしか覚えていなかった、昨日までの現実が無造作に散らかされていた。
強制的な昨日からの、人生の引き継ぎ作業が一瞬にして行われる。それと同時に、今まで見ていた夢の内容の消滅も感じていた。
この世界には、不必要と言うかのように。
そんな現実から目を背けるように、ベッドを向き、飛び込む…。
プールに飛び込んだ時の水飛沫と叩きつけられる刺激の代わりに、空気中に散った埃と、暖かく抱擁してくれるような安心感のコントラストが俺を迎える。
いつもはここで再び眠りにつくのだが、少しむせるような空気は俺を咳き込ませ、それは眠気を覚ませるのに十分だった。