97.そこに真実があるから
今日の透の弁当は門倉作。こういう時は他の男連中と食うか、一人メシ。
まぁ、ここしばらくはその辺関係なく他の奴らと食ってるけど。
そして、メシよりも気になることがある。
「お待たせ。見てきたぜ」
「お疲れ。で、あったか?」
「当然のようにあったな。順番から逆算すると、書いたのは1年前ってとこ。
見た目がいい奴なら無差別にってことで間違いないだろ」
「ということだ、水橋」
「……そっか」
柏木先生の持っているムカつく女ノート。
案の定、水橋の名前も記載されていた。
「お前に対する柏木先生の印象は、はっきり言って最悪だ。
俺達と組んだら、相当に危ないことになる。
できるだけのことはするけど、最終的に身を守るのはお前自身だ。
それを誓えるのなら、文句は無い」
再度職員室に行った陽司が、覚悟を問う。
やめると言うのなら、これが最後だが。
「誓えないなら、お願いしてない。私は本気」
今更何をというような表情で、決意の表明。
その揺るぎなさは、とても頼りに見えた。
「……OK。TFM同盟の結成だ」
「おう!」
これからは、3人体制。柏木先生の真実を暴く為、
そして、古川先輩をいじめから救うために、活動する。
「待った、『おう!』とは言ったけど、TFM同盟って何だ」
「T、F、M」
「安直だなオイ」
「名前は別にいらないと思う」
「……ちょっと言ってみたかったんだよ」
「お前だけはまともだと信じてたんだが」
多少の茶目っ気があるくらいがモテるんだろうけど、
お前までボケに走ったら、俺は過労で倒れるわ。
放課後、俺と水橋で文芸部へ。
色々と、説明通さないといけないし。
「失礼します」
「いらっしゃ……あ、あの時の……」
「初めまして。水橋と申します」
深々と礼。
厳密には初めましてではないが、先輩に対する礼儀としては完璧だ。
「あの時は、ごめんね」
「いえ。当然のことをしたまでですから」
「……本当に、ごめんね」
ちと、表情が固いかな。
顔の印象から、気難しい奴だと受け取られてしまったかもしれない。
どっちもコミュ力に難があるタイプだし、打ち解けるまでが長そうか。
「……あっ。先輩、この本お好きなんですか?」
「うん。悲しいけど、温かくて……」
「私もです。もしかして、あの作品も読まれましたか?
同じ作者なんですけど……」
「中学生の頃かな。何度も読み返した。その頃は……」
かと思ったら、机の上に置いてあった一冊の本をきっかけに、会話が弾み出した。
お互いの好きな本や読んだ本を語り合い、二人とも楽しそう。
俺がいることが忘れられているが……どうでもいいわな、そんなん。
趣味が共通していると、友達関係ができやすい。
もしかしたら、水橋の友達がまた一人できるかもしれない。
(今日は本題に入らなくてもいいか)
椅子に座り、適当にスマホをいじる。
信頼関係の構築ついでの楽しいおしゃべりに割り込むなんて、野暮な真似はしない。
好きなようにさせておこう。
「失礼しまーっす!」
……主人公って、本来丁度いいタイミングで来るもののはずなんだが。
何で、こいつはこういうタイミングで来るのかね。
「あっ、透くん」
「あれ、怜二に雫もいるのか。どうしたん?」
「お前と同じようなもん。何となく寄りたくなったんだ」
水橋は合わせてくれるとして、問題なのは古川先輩か。
陽司に釘刺されてるとはいえ、どこかで零してしまいかねない。
できる限りは、フォローしなければ。
「へー。あ、そうそう。先輩大丈夫でした? 体育祭は大変でしたね。
俺が気付かなかったらヤバいことになってたところで」
(出た出た)
あたかも当然のように、手柄の横取り。
だが、生憎今回は俺と陽司と水橋がどうにしかしたと、先輩は知ってる。
「怜二も呼ぶまで来なかったもので。こいつ最低ですよね?
人が倒れてるってのに、どうかしてますよ」
「倒れてる人の体を無闇に触る方がどうかしてる」
「そうそう、先輩の体を……え?」
……水橋?
え、そこ言うのか?
「先輩はご存知ですよね。先輩を助けたのは藤田君と茅原君だって。
神楽坂君は、先輩の体に触れただけ。救助に関わることは何もしてません」
セクハラを働いたという部分は暈し、透は何もやってないことを伝える。
……また、遅れをとってしまった。
力を借りてばっかりで悪いが、俺もそのことは言っておこう。
「先に先輩の下に行ったのは陽司で、俺はその後について行きました。
その後に水橋が水を持ってきてくれて、3人で応急処置をしましたね。
透は水橋の前に来ましたけど、何もしてませんから」
やらかした事が事だし、先輩自身は誰が何をしたかは知ってるから、
ここで言う必要はないと思ったが、それじゃダメだ。
自分に被害が回らない『防御』の姿勢ではなく、透に対する『攻撃』をする。
そうしないと、現状を大きく変えることはできない。
俺はもう、こいつのお守りを止めただけじゃく、こいつを突き落とすことにしたんだ。
水橋が動いてから思い出すなんて……全く、本当に俺はどうしようもねぇな!
「むしろ邪魔でしたね。何をすればいいかも分かってなかったみたいで。
陽司が上手い事やってくれなかったら、もっとヤバかったかもしれません」
「藤田君の言う通りです。私と藤田君は茅原君の指示に従って動きましたけど、
神楽坂君は勝手なことをしようとして、何の役にも立ちませんでした」
「おいお前ら!? 何嘘言ってんだよ!
先輩、分かりますよね? こいつらは嘘言ってるって!
助けたのは俺ですって! 俺が全部やったんですよ!」
この期に及んでまだ言うか。
先輩はもう、お前は何もしてないってこと知ってんだよ。
先輩の気持ちを考えると、セクハラされたことなんて知りたくないだろうから、
そのことを伏せてるだけでも温情だろが。
「……私は、透くんのことを信じたい」
「先輩!?」
「ですよね! ほら見たか!」
そんな……知っててなお、透の言うことを!?
先輩、そこまでして透のことを……
「お前らの嘘なんて、お見通しなんだよ! っても、雫は悪くねぇよな。
どうせ怜二が唆したんだろ? プールの時といい、見下げたもんだわ。
ね、先輩?」
どうしたって、ダメなのか。
透に対する態度を変えても、透ハーレムの女子の考えは変わらないのか。
穂積は少し変わったみたいだけど、透に強く依存してる先輩は……
「だから、これ以上嘘をつかないで、透くん」
「……は?」
珍しく、4人の生徒がいる部室。
気の抜けた透の声が響いた後、静寂が訪れた。